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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十六章
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第五話 真理の神

シバは静かにし、ぜんを組んだ。

意識を外へ向けることをやめ、深く、さらに深く――記憶の底へ潜る準備を整える。


万全を期すため、修練場には近衛このえ兵が控え、ドウエン、そしてグラムディル王までもが立ち会っていた。


「シバよ。

よく決心したな」


グラムディル王の声は、重く、しかし温かい。


「記憶を取り戻し、前に進めることを祈っておる」


「……ありがとうございます。グラムディル様」


「シバ。大丈夫だ」


アマネスが一歩近づき、背を軽く叩く。


「俺たちが付いている。

安心して、潜ってこい」


「……はい」


「シバ。準備はいいか?」


イズファルが静かに問いかける。


「はい。イズファル……」


イズファルは小さく頷き、シバの背に手を添えた。

肩の力を抜き、背筋を正し、顎を引く。


「行ってこい」


シバは目を細く開き、視線を床の一点に落とす。

呼吸が次第に深く、長くなる。

鼻から吐き出される空気の音だけが、修練場に静かに響いた。


「……禅とは、凄いものだな」


ドウエンが、思わず呟く。


「心を静め、自分自身と向き合い、雑念を捨てる。

今のシバには、必要なことです」


イズファルの言葉と同時に、

その場にいる全員が感じ取った。


――シバの意識が、確かに“内側”へ沈んだことを。


「……入りました。

シバは、記憶の深層へ――」



***


暗い。


どこまでも、闇。


「……ここは……?」


声に、反響はない。


次の瞬間――

“何か”に、強く引き寄せられた。


身体の感覚が消える。

手も、足も、自分自身すら見えない。

存在しているのは、引き裂かれるような“意識”だけ。


そして――


光。


一面に広がる、白。

眩いほどの純白の世界。


その中心に、金色に輝く人型が立っていた。


「聞こえるか…」


声が、直接、脳裏に響く。


「お前に、頼みたいことがある」


「……僕のことを、呼んだの?」


「む?

記憶が飛んだか…。

まあ、構わん」


金色の存在は、楽しげに言った。


「お前は…

私の分身のようなものだ」


「分身……?」


「お前に与えた使命は――

破壊と、再生」


「破壊……再生……?

そんな……分からない!」


「地球は、もう良い」


淡々と、しかし愉悦ゆえつを含んだ声。


「人間たちはよく育った。

私を楽しませる、混沌こんとんを繰り返す星となった」


「……素晴らしい働きだったぞ」


「僕は……

地球で、何をしたの……?」


記憶に手を伸ばそうとするたび、頭が拒絶する。


「思い出せない……!」


「使命を果たしただけだ。

破壊と、再生をな」


「そんな……!

僕は……一体、何なんだ!」


「人間たちは、お前を――

神と呼んでいたな」


「……僕が……神……?」


震える声。


「では……あなたは……?」


「私も神だ。

そう呼ばれているからな」


「お前が“破壊と再生の神”であるなら…

私は全てを司る“真理の神”」


金色の存在は、微笑んだ。


「私とお前は、同じだ。

お前は私自身でもあり、私の“子”でもある」


「だが、そんなことは些細ささいなことだ」


「お前は、お前のやるべきことをやればいい」


「……やるべきこと……」


「地球は、まもなく人間の手で最後の破滅を迎える」


その声は、陶酔とうすいに満ちていた。


「愛の力を、欲望の力が上回る瞬間……

その終焉しゅうえんは、最高に無慈悲で、美しい」


「私は、それが楽しみで仕方がない」


「……あなたは……」


「よく、ここまで醜く育てたものだ」


金色の存在は、誇らしげに告げる。


「よくやったぞ――

“シヴァ”」


その名を聞いた瞬間、

シバの中で、何かがきしんだ。


「お前が撒き続けた“欲望の種”のおかげだ」


「だが、もういい。

地球でのお前の役目は終わった」


「次は――

エルフがまう、名もなき星だ」


「……エルフ……?」


「愛などという不可解ふかかいな力で、

私の混沌を消してきた忌々しい種族だ」


「だが、人間を転生させた途端……

実に、楽しい星に育っている」


「あなたは……

何がしたいんだ……!」


「退屈しのぎだよ、シヴァ」


神は、あっさりと告げた。


「小さな命が燃え、争い、尽きていく様を眺めたいだけだ」


「……最低だ……!」


「どうした、シヴァ?」


あざけるような声。


「…本当に、すべて忘れてしまったのか?」


「ぐ……あ……っ!」


頭が割れるような痛み。


「……問題はないな」


「……僕の中を……覗いたのか……!」


「お前ほどの存在を作り直すのは骨が折れる」


「だから、このまま放り込んでみるとしよう」


「……僕は……

あなたの言いなりにはならない!」


「地球で何をしたか分からない……

でも!

世界を破滅に導くなんて、絶対に嫌だ!」


「もしや……愛、か?」


神の声が低くなる。


「地球で、そんな戯言ざれごとに染まったのか?」


「分からない……

でも!

あなたの遊びのために命がもてあそばれるのが、僕は……許せない!」


記憶が、雪崩なだれのように戻る。


火山の噴火や隕石の衝突、気候変動。

進化の種と、知恵の実による人間の誕生。

そして、絶え間なく撒いた欲望の種…


「……思い出した……!」


「僕が……

あなたに、何をさせられてきたのか……!」


「地球の命たち……すまなかった……!」


「ははははは!」


神は、心底楽しそうに笑った。


「思い出したか、シヴァ!

お前が何度も世界を滅ぼし、再生したことを!」


「黙れ!

それは、お前が使命として押し付けたんだ!」


「そうだ!」


「そのたびに、お前は生命に知恵と欲望を与えた!」


「争いが永遠に続くようにな!」


「……僕は……あらがってみせる……!」


シバの声に、初めて確かな意志が宿る。


「お前が僕に与えた“真理の力”……

それで、お前を終わらせてやる!」


「面白い!」


神は歓喜した。


「どうする?

私を、どう終わらせる?」


「――殺す」


「お前を殺す。

僕が、その退屈な永遠を、終わらせてやる!」


「必ずだ!」


「いいだろう!」


神は、両腕を広げた。


「そのために、お前を生かしてやる」


「力も、そのままだ」


「人間として、

エルフの国に転生しろ」


「一つプレゼントをやろう。

これは転生した時のお楽しみだ…

私に歯向かったことへの…些細な仕置きだ…」


「新たな世界は、お前が造る“最初の絶望”から始めるがよい!」


「楽しみに待っておるぞ――

シヴァ」

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