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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十六章
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第三話 腕相撲の誓い

その日、イズファルはアマネスが待つという鍛錬場に、シバに手を引かれやって来た。


「おい、イズファル!」


鋭い声が、石造りの鍛錬場に叩きつけられた。

空気が、ぴんと張り詰める。


「私は――お前を、まだ認めてねえぞ」


振り返ると、アマネスが腕を組み、仁王立ちしていた。

その視線は、試すようであり、拒むようでもある。


「こっちへ来い。

――勝負だ!」


「勝負……ですか?」


「そうだ!」


アマネスは、傍らの卓を拳で叩いた。

鉄と石で組まれた、分厚く無骨な卓。

長年の傷が、そのまま歴史を物語っている。


「“勝負の卓”だ。

ドワーフが、言葉じゃなく“腕”で語るための場所だ」


「私と――腕相撲で勝負しろ!」


「腕相撲……⁈」


イズファルは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに表情を戻した。


「安心しろ」


アマネスは腰を落とし、ひじを卓につく。


「私より背の低いお前に、高さは合わせてやる。

ドワーフは人間より力が強えからな」


「このくらいかがめば……

ハンデとしては十分だろ?」


「……なるほど」


イズファルは一歩前に出る。


「アマネスさん。

もし、私が勝ったら――」


一拍置き、はっきりと言った。


「私を、認めていただけますね?」


「おお?」


アマネスの口元が、ゆがむ。


「言うじゃねえか。

認めてやるさ――私に勝てたらな!」


だが、その声はすぐに荒れる。


「だがな!

私が勝ったら、父上の命令なんざ受けねえ!」


「私より弱い人間から学ぶことなんて――

ある訳がねえからな!」


(……やはり、そう来るか)


イズファルは内心で息を吐いた。


「分かりました」


静かに答え、周囲を見渡す。


「ちょうど良い台がありますね……」


イズファルは台に乗り、卓の高さを完全にアマネスに合わせた。


「お前……」


アマネスの声が低くなる。


「本気で、それで行く気か?」


「ええ」


視線をらさず、言い切る。


「あとで

“ハンデがあったから負けた”

などと言われるのは、嫌なので」


ぶちり、と。


アマネスのひたいに、はっきりと血管が浮き出た。


「……お前……!」


歯を食いしばり、叫ぶ。


「よく言ったな……!

腕を折られても、文句言うなよ!

チビ人間!」


「はい」


イズファルは穏やかに答える。


「いつでも、どうぞ」


「イズファルさん……!」


シバが耐えきれず声を上げた。


「アマネスは、女性ですが……

膂力りょりょくはグラムディル様の次とまで言われる戦士です!」


「これ以上、挑発するのは……!」


「それほどの戦士なら」


イズファルは静かに返す。


「この程度で、心を乱すはずがありません」


そして、ほんのわずかに笑う。


「……ね?

ア・マ・ネ・ス……さん」


「……お前! 殺されたいのか⁈」


アマネスの怒りは最高潮に達していた。


「さっさと腕を組め!!」


二人の手が、がっちりと組み合わさる。


(――重い)


イズファルは即座に悟った。


(正面からの膂力では、敵わない)


「……組んだだけで分かるぜ」


アマネスが低くうなる。


「お前は、私には勝てねえ。

だが……今の私は、手加減なんて出来ねえぞ」


「せいぜい、腕が折れねえよう祈りな」


「心遣いありがとうございます」


イズファルは落ち着いた声で答える。


「準備は……すでに出来ていますよ」


「ぐ……!

シバ!

合図だ!!」


「は、はい……!」


鍛錬場に息を呑む音がした。

そして、

石と鉄がきしむような沈黙が、場を覆う。


シバは震える声で叫んだ。


「――はじめ!」


瞬間。


アマネスの腕の筋肉が、岩のように盛り上がる。


「ぬうううう!」


だが――


「……なっ⁈」


押しても、押しても、押しても。


イズファルの腕は、びくともしない。


「なぜだ……!

なぜ……動かねえ!」


「アマネスさん」


イズファルは静かに言う。


「それが……

あなたの“本気”ですか?」


「ぐぬううう!

なめるなあああ!」


全身の力を叩き込む。


だが、イズファルの腕は、

まるで大地そのもののように、揺るがない。


「私が勝ったら……

認めていただけますね」


「く……そ……!」


「――行きます」


イズファルの声が、低く響いた。


次の瞬間。

均衡が、崩れた。


「なっ――!」


アマネスの腕が、じりじりと倒れていく。


「う、嘘だ……!

こ、こんな……!」


イズファルの額に汗がにじむ。


(……アマネスさん、なんて膂力だ!

こ、こっちは……三人がかりだぞ……!

ここまで耐えるとは…!)


「アマネスさん!」


イズファルは、力を込めながら叫ぶ。


「私はあかつき

世界を救う戦士の一人です!」


「――私にも!

負けられない理由がある!」


「うおおおおお!」


気合が、誇りを、力を、上回った。


「ぐあああああ!

だ、駄目だ……!」


――ドン!!


アマネスの手の甲が、卓に叩きつけられた。


「し、勝負あり……!

イズファルさんの勝ちです……!」


シバが声を震わせ、イズファルの腕を掲げる。


「……すごい……

本当に……」


イズファルは、静かに息を整え、言った。


「アマネスさん」


「私など……

暁の環の中では、まだひよっこです」


「世界は……

あなたが思っているより、ずっと広い」


「……ぐ……」


アマネスは歯を食いしばり、目を伏せた。


しばらくして――

深く、息を吐く。


「……完敗だ」


拳が、わずかに震えていた。


そして、顔を上げる。


「イズファル……

お前の言う通りだ」


「私は……

お前から世界を学ばなきゃならねえ」


「私も未熟者です」


イズファルは、まっすぐ手を差し出した。


「アマネスさん。

私も――あなたから学びたい」


「……よろしくお願いします」


一瞬の沈黙。


そして――


アマネスは、その手を強く、強く握り返した。


「……こちらこそだ」


その握手は、

力でも、上下でもない。


戦士と戦士が、互いを認め合った証だった。


ーーーーー


酒場のテーブルには錫のジョッキがずらりと並んでいた。


「おい! ドウエン!

イズファルは…父さんは、どうしてアマネスに勝ったんだ⁈

ドワーフの膂力に父さんが勝った?

信じられない…」


ライラはドウエンの話が腑に落ちない様子だ。


「わっはっは! ライラさん!

やはり、アマネス様の力を受け継いでおられる。

この勝負の違和感に気づかれたか?」


「ドウエン、まさか…

この勝負…イズファルは何かやったのか?」


俺も気になっていた。


「その通り。

イズファルは、分かっていたのだ。

アマネス様には正攻法で勝負しても勝ち目がないことをな」


「ならば、どうやって? 父さんは何をしたんだ?」


「イズファルに後から聞いた話だ。

奴はな…

三人がかりでアマネスに挑んでいたんだよ。

“忍びの力”でな…」


「なっ! 分身かっ!」


「そうだ。 

さらに、その分身は透明化されているので決して見えん。

だが、ここにイズファルの緻密さが隠れておる」


「まだ何か?」


「揺さぶりだ。

イズファルはな、アマネス様の短気に付け込んで精神的な揺さぶりをかけていたのだ。

なぜか?

透明化した分身といえど、冷静な戦士なら違和感に気づかれる可能性があるからだ」


「なるほど! アマネスを揺さぶり、集中力を乱していた訳か! さすが、イズファルだ」


俺はイズファルの賢さを思い出した。


「父さん、あんたは若い時から頭が回ったんだな…感心するぜ。

私にもその頭が欲しかった…」


「ライラさんは、アマネス様の血が濃いのかな?

だが、アマネス様も戦いの感性は抜群だ」


「しかし、

イズファルが亡くなったと聞いた時は驚いたが…

二人の血が混じり、どちらの力も得たライラさんは、まさに可能性の塊と言えるだろうな」


「…父さんと、母さんの出会いは腕相撲から始まったのか…

しかし、ここからどうやって…」


「二人の間を繋ぐ者…

それが、シバだ。」


「シバが…」


「そうだ…

だが、ライラさん。

ここからの話は悲劇が混じる。

それでも聞く覚悟はお有りかな?」


「ドウエン、いまさらだ。

ここで聞かずして、私はどうなる?

全てを知り、前に進むだけだ」


「うむ。

では、続けようかの。

イズファルとアマネス様の愛の話を…」

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