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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十五章
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第十一話 愛の王

グラムディル王国の宮殿――

《エル・ドゥラ》は、“世界を隔てる壁”の中でも最も高く、最も広い岩山を丸ごと掘り抜いて築かれた巨大建造物であった。


掘削くっさくの際に生まれた鉱石は、そのまま柱や壁、床へと加工され、

宮殿そのものが山の一部であり、山がそのまま王宮となったかのような造りをしている。


華美かびな装飾はない。

だが、無駄を削ぎ落とした直線と、計算し尽くされた構造が放つ威厳は、

見る者に“あらがえぬ重み”を感じさせた。


――これこそが、ドワーフの機能美。


そのエル・ドゥラの最奥、謁見えっけんの間に、イズファルとドウエンは並び立っていた。


天井は高く、太い石柱が幾重いくえにも連なり、

玉座の背後には、淡く輝く魔法石の脈動みゃくどうが静かに流れている。


「陛下。

連れて参りました。

こちらがイズファルと申す人間でございます」


「うむ、ドウエン……

ご苦労だった」


低く、しかしよく通る声だった。


ドウエンは一歩退き、イズファルを前へと促す。


イズファルは紅い絨毯じゅうたんを進み、

玉座の前で静かにひざまずいた。


「遥か北、砂漠の国サンサーラより参りました。

イズファルと申します」


一拍、間を置き――


「グラムディル王。

このような、素性の知れぬ人間に謁見の機会を賜り、深く感謝いたします」


「うむ……」


王は、じっとイズファルを見つめていた。

グラムディルは他のドワーフより一回り、いや二回りほど大きな体躯たいくに、立派な長い髭をたくわえている。

その鋭くも、どこか温もりを宿した瞳に、イズファルは吸い込まれそうになった。


「サンサーラより、この辺境の国まで一人で辿り着いた人間……

どのような者か、ワシもこの目で見ておきたくてな」


玉座から、わずかに身を乗り出す。


「そう固くなるでない、イズファル」


「……はっ」


顔を上げた瞬間、

イズファルは“見られている”と感じた。


――ただ見られているのではない。

測られているのだ。


「良い目をしておる。

若いが……熟練の戦士の光を帯びた瞳だ」


王は、ゆっくりと言葉を続ける。


「相当、厳しい修行を積んできたな?」


「……陛下は、ご存知でしょうか」


イズファルは問い返した。


「シルヴァリスとサンサーラを取り巻く、今の情勢を」


「うむ……」


王は深く頷く。


「かの大戦以降、サンサーラは急速に力を取り戻し、

今やシルヴァリスに匹敵する大国となったと聞く」


「共生を掲げていると聞くが……

実際は、どうだ?」


「……ご懸念けねんの通りです」


イズファルは迷いなく答えた。


「政府は共生を掲げておりますが、

人間至上主義を掲げる“黒梟くろふくろう”なる組織が暗躍あんやくしております」


「政府内部にも……

腹に一物いちもつ抱える者がいる可能性は否定できません」


「なるほど……」


王は、低く唸る。


「サンサーラは、すでに火種ひだねか」


「火種というなら……

より危ういのは、シルヴァリスです」


イズファルは言葉を継いだ。


「エルフ至上主義、人間排斥にんげんはいせきを唱える長老会派が勢力を伸ばしております」


「若き女王エルフィリア様は聡明ですが……

“弓の勇者”が築いた長老会の力には、まだ及びません」


「……女王の夫が亡くなられた件か」


王の声が、わずかに沈む。


「シルヴァリス王の後継が……

残念なことだ」


「その死にも、長老会が関与しているとの噂があります。

シルヴァリスの内情は……

サンサーラ以上に、深い闇を抱えています」


「一度、くすぶり始めた火種は……

容易には消えぬな」


王はそう呟き、視線を戻した。


「イズファル。

お主はこのグラムディルに、何を求め来た?」


イズファルは、静かに息を整える。


「私は、“あかつき”という組織の者です。

その創始者は予言者であり、我らに使命をのこしました」


そして、予言を語る。


『――この世界に再び混沌が訪れる時、三つの鍵が現れる』


語り終えた時、

謁見の間には、重い沈黙が落ちていた。


「……なるほど」


王は、ゆっくりとうなずく。


「その鍵……

この国に、一つあるかもしれぬ」


イズファルの胸が、強く脈打つ。


「はい……

道中、ドウエンより話を聞きました」


「“神の力”を持つ転生者……」


「聞いておるなら話は早い」


王は、静かに告げた。


「ワシがお主を呼んだのは、そのためだ」


そして、低く――しかし確かな想いを込めて言った。


「ワシは……

あの青年を助けたい」


「同じ人間であるお主なら、

何か出来るのではないかと思ってな」


「……陛下」


イズファルは、正直に問い返す。


「世界を消し去る力を持つ者を……

それでも、助けたいと?」


「ドワーフとは、そういう種族だ」


王は迷いなく答えた。


「一度、内に迎え入れた者は……

友であり、家族だ」


「子が苦しんでおるなら、

守りたいと思うのが親心であろう」


その言葉に、

イズファルは胸の奥が、熱くなるのを感じた。


「……この国から、学ばねばならぬことが多いようです」


そして、深く頭を下げる。


「陛下。

私に何が出来るか分かりませんが……」


「出来ることなら、何でもいたします」


「その転生者に――

会わせてください」


イズファルは、

運命の渦に足を踏み入れたような、確かな感触を感じていた。

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