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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十五章
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第十話 消された世界

魔法機関車の旅は、驚くほど快適だった。


車体は低くうなりながらも揺れは少なく、

分厚い鋼鉄の床を伝う振動は、むしろ心地よい一定の律動りつどうを刻んでいる。


客室の卓には、肉の燻製くんせい、黒パン、濃い色の煮込み――

そして、琥珀色に輝く酒瓶が惜しげもなく並べられていた。


イズファルは、さかずきを傾けながら、ゆっくりと息を吐く。


(牢とは……まるで別世界だな)


「わっはっはっは! イズファル!

良い飲みっぷりだな!」


向かいで豪快に杯をあおるのは、案内人のドワーフ――ドウエン。


「若いが……見どころがあるぞ!

ほれ、遠慮せず飲め!」


「ドウエンさん……あなたの注ぎ方が豪快すぎて……

杯が空になる前に満たされてしまうので…

つい」


酒は喉を焼くように熱く、

だが飲み下すと、腹の奥で心地よく広がった。


「まあ良いではないか!

ドワーフはな、酒を酌み交わし、はらの底を割って話した相手は――

それだけで“友”と認めるのだ!」


ドウエンは杯を打ち合わせ、豪快に笑う。


「最初は、私をあれほど疑っていたのに……

酒を飲んだだけで、親友とは……いいのですか?」


「単純な種族だと思うなら、それで構わん!

楽しく酒が飲める相手を、友と呼んで何が悪い⁈」


ドウエンは、ひげについた酒を乱暴に拭い、言い切った。


「たとえな?

お前がワシを嫌っておってもだ。

ワシが、お前を気に入った――それで十分だろう?

がっはっはっは!」


(単純だが……誇り高く、裏表がない)


イズファルは、杯を見つめながら思う。


(警戒よりも先に、好意を示す……

なんと、魅力に満ちた種族だ)


「ドウエンさん……

私も、あなたのことが好きになりました」


少し酔いが回り、言葉が自然に出た。


「私の父も、豪快で酒好きで……

あなたを見ていると、他人とは思えない」


「ほう!

それは良い!」


ドウエンは、卓を叩いて笑う。


「ぜひ一緒に酒を飲みたいものだ!

がっはっはっは!」


その時、機関車が大きくカーブを切った。


窓の外では――

無数の灯りが、流星のように後方へと流れていく。


地下に広がる都市。

石柱、橋、工房、住居、軌道。

すべてが層を成し、速度と共に一枚の絵巻のように流れていく。


イズファルは、思わず見入った。


(この国は……

閉じているが、底が知れない)


杯を置き、彼は真剣な表情になる。


「……ドウエンさん。」


「イズファルよ、ワシのことはドウエンと呼べば良い」


「では…ドウエン…

一つ、教えてくれませんか?」


「ん?」


「なぜ、王は……

私のような人間を、宮殿へ呼ばれたのでしょうか」


ドウエンは、酒を一口含み、少しだけ黙った。


「正直に言うと……

ワシも詳しくは知らん!」


「……」


「がっはっは!

すまんのう!」


「……そうですか」


「だがな」


ドウエンの声が、低くなる。


「思い当たる節は……ある」


「……それは?」


「二年前だ。

“世界を隔てる壁”の向こうに――

一人の転生者が、現れた」


杯を持つイズファルの手が、わずかに止まる。


「転生者……?

サンサーラからですか?」


「いや……違う」


「突然、現れたのだ」


機関車の唸りが、やけに大きく聞こえる。


「その青年は、無から有を生み出す力を持っていた。

まるで……“神の力”だ」


「……神の力、ですか?」


「そう呼ぶしかない。

物質だけでなく……生命さえ、だ」


イズファルの背筋を、冷たいものが走る。


「その青年は……今……」


「宮殿にかくまっておる」


「何が、あったのです……?」


ドウエンは、窓の外の闇を見つめながら語った。


「その青年は――

壁の向こうの世界を……無に帰した」


「……無に……?」


「世界の三分の一が、一瞬で消えた」


「……っ!」


「今、壁の向こうは完全な闇だ。

あの山脈も……

世界を隠すように、天へ伸びた」


「山脈も、その青年が…?」


ドウエンは酒を飲み干し、頷いた。

「そうだ…」


イズファルは、あの黒い山脈を思い出す。


(あれは……

世界の墓標ぼひょうだったのか……)


「壁の向こう、前触れもなく現れた…

白い光に包まれた青年を見た。

その後、世界を消し去り、意識を失った彼を運んだのが……

ワシだ」


「だから……私の案内役に……」


「そうだろうな」


ドウエンは、真っ直ぐにイズファルを見る。


「この謁見えっけんには……

あの青年がからんでいる」


酒の熱は、もう感じなかった。


イズファルは、胸の奥で――

確かに、歯車が動き出す音を聞いた。


(その青年……まさか…)


(予言の――

二つ目の鍵……

“迷いの転生者”……なのか)


機関車は速度を落とすことなく、

闇と光の地下世界を貫き、王の待つ宮殿へと走り続けていた。

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