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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十五章
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第七話 勝負の卓

「ショータさん、ライラさん!

グラムディルへようこそ!」


ドウエンがすずのジョッキを高く掲げた。


「ワシらドワーフ、心より歓迎いたしますぞ!」


「かんぱーい!!」


怒号どごうのような声が酒場に弾ける。


宿の真向かいにあるこの酒場は、ドウエンから聞いた通り街一番の人気店だった。

仕事を終えた鉱夫たちが、すすの残る腕でジョッキを掴み、

酒を煽り、笑い、歌い、床を踏み鳴らしている。


熱気、汗、鉄と酒の匂い。

空気そのものが、酔っているかのようだった。


「ぷはーっ……!」


ライラが一気にジョッキを空け、目を見開く。


「……これは……美味い!」


「そうだろう!」


ドウエンは誇らしげに胸を張る。


「グラムディルの酒は世界一だ。

ワシらは、これを飲むために生きていると言っても過言ではない!」


「店主!

酒をどんどん持ってきてくれ!

今日はワシのおごりだ!」


「おおーっ!!」


酒場中から歓声が上がった。


「……ルミエールの酒場とは、随分違うな」


俺は苦笑しながら辺りを見回す。


「エルフは寡黙かもくで真面目な者が多いが……

ここは、圧倒される」


「同じ祖を持つと言われても、信じがたいですな」


ドウエンが喉を鳴らした。


「ワシらドワーフから見ても、

エルフと同じ血が流れているとは思えん」


その時――


「おい!」


低く、太い声が割り込んだ。


「ドウエンじゃねえか!

お前、まだ地上の砦番とりでばんじゃなかったか?」


「おお、ギンロクか!」


ドウエンが振り返る。


「そうだったんだがな。

急ぎの用で、宮殿へ行かねばならん」


「宮殿だと?」


ギンロクと呼ばれた男は赤ら顔で立派なひげを撫で回し、

俺をじろりとにらみつけた。


「……こいつらが、何かやらかしたのか?」


「おい、ギンロク」


ドウエンの声が低く沈む。


「酔ってるなら引っ込め。

この方を怒らせたら――

お前など、ひとたまりもないぞ」


「はっ!」


ギンロクは鼻で笑った。


「俺が、この人間に負けるとでも?

笑わせるな!」


ふらつきながら一歩詰め寄り、

酒臭い息を俺の顔に吹きかける。


「俺はな、王に仕えた元戦士だぞ!」


……まずい。


そう思った瞬間――


椅子が、静かにきしんだ。


「……おい」


ライラが立ち上がっていた。


「いい加減にしろよ」


その声は、低く、冷え切っている。


「こっちは気分良く酒を飲んでるんだ。

いい歳したオッサンが、何イキがってんだ」


ギンロクの正面に立ち、

腰を落として、真っ直ぐに睨みつける。


「な、なんだ姉ちゃん!」


ギンロクが一歩引く。


「その耳……あんたもドワーフじゃねえな。

余所者よそものが、あんまり調子に乗るんじゃねえ!」


「ギンロク! やめろ!」


ドウエンが割って入るが、

周囲はすでにざわついていた。


「おい、兄ちゃん!」


ギンロクが俺を指差す。


「腕に自信があるなら、俺と勝負しろ!」


「いいぞー!」

「ギンロク、やっちまえ!」


気づけば、

俺たちの周囲に鉱夫たちの輪ができていた。


「……はあ」


俺はひたいを押さえる。


「なんで、こうなるんだ……」


「すまん、ショータさん」


ドウエンが小声で言う。


「ドワーフは、こうなると……

結果が出るまで終わらん」


「おい」


ライラが一歩前に出た。


「ショータ殿が出る必要なんかねえ。

私が相手してやる」


「ああ?」


ギンロクが目をく。


「女はすっこんでろ!

俺にかなうわけがねえ!」


――ドンッ!!


ライラの拳が石のテーブルを叩く。


乾いた破裂音。

卓は粉々に砕け散った。


酒場が、水を打ったように静まり返る。


「……やかましい」


「女だから何だってんだ」


胸を張り、はっきりと言い放つ。


「私は――

魔王を倒した勇者の、第一の護衛」


一拍。


「戦士、ライラだ」


空気が変わった。


「ギンロク」


鋭い視線。


「お前は、私の戦士としての誇りを汚した。

文句があるなら――かかってこい」


「……ぐ、ぬぬ」


ギンロクが歯噛はがみする。


「……勝負だ。

“勝負のたく”を持ってこい!」


分厚い卓が運ばれ、

二人は向かい合って腕を組む。


ライラの背に合わせ、

ギンロクは台に乗った。


(ドワーフ……足は短いのに、腕は長い。

面白い種族だ…。

…ギンロク、怪我をしなければ良いが…)


「準備はよいか?」


ドウエンの声が響く。


「勝負は一回。

待ったなしだ!」


張り詰めた沈黙。


「――始めい!!」


「ふぬうん!!」


ギンロクの腕の筋肉が盛り上がる。


一気に押し込まれたライラの腕が、卓に触れそうになる。


「ギンロクー!」

「あと少しだ!」


歓声が膨れ上がる。


「どうだ! 女!

俺の勝ちだ!

腕が折れるぞ!」


「……女、女……うるせえな」


ライラの声は、静かだった。


「この程度で、私を倒せると思ったのか?」


彼女の瞳に、冷たい光が宿る。


「な……動かん……!

岩……いや、山か……⁈」


ライラの腕は、

まるで世界そのものを支えているかのように、

ピタリと止まったままだ。


「もう終わりか、ギンロク」


「――では、こちらから行くぞ」


一瞬。


――バキン。


鈍い音。


「うがあああ!」


悲鳴が酒場に突き刺さった。


「ギンロク!」


仲間たちが動きかける。


「止めんかーーーー!」


ドウエンの怒声が響き、全員が凍りつく。


「正式な勝負だ!

挑んだのはギンロク本人だ!」


沈黙。


「……ぐ……」


ギンロクは折れた腕を抱え、立ち上がった。


「……すまねえ……

俺の……完敗だ……」


「分かればいい」


ライラは静かに言う。


「世界は広い。

私より強い女は、まだまだいる」


「……なあ、ギンロク」


ドウエンが言った。


「王宮に仕えたお前が、まだ気づかんのか?」


「……何にだ……?」


ざわめき。


「この人……

アマネス様に、似てませんか……?」


空気が凍る。


「……アマネス……様……?」


ドウエンが、重く告げた。


「ライラさんは――

アマネス様の血を引くお方だ」


静寂。


酒場は、

先ほどまでの喧騒けんそうが嘘のような、

歴史に触れた者だけが知る沈黙に包まれていた。

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