第四話 開かれた門
「ライラ……やはり、関所だ」
俺は密林の先に現れた光景を見据え、無意識に一度だけ息を整えた。
岩山を貫くように掘り抜かれた巨大な隧道。
その入口を塞ぐように、異様な存在感を放つ関所が築かれている。
「岩山を掘り抜いた……トンネルか。
先に繋がる道は、あそこだけだな」
切り立った岩肌と、長年の風雨に削られた石の門。
自然と人工がせめぎ合うような圧迫感が、胸に重くのしかかる。
「行こう……ライラ」
「はい。
行こう、ショータ殿!」
彼女は即答だった。
その声には迷いがなく、俺の隣に立つ覚悟がはっきりと滲んでいる。
⸻
密林を抜けた途端、空気が変わった。
湿った土と苔の匂いに混じり、鉄と石の匂いが鼻を刺す。
関所は、巨大な石柱を組み上げた門と、
その脇に設けられた小さな石砦によって守られていた。
「関守は……二人か」
俺たちは、警戒を解かぬまま、ゆっくりと歩を進める。
やがて、門の影から姿を現したのは――
背は低いが、岩のように鍛え上げられた男たちだった。
赤褐色の肌。
太く長い髭。
手に握られた、年季の入った斧。
一目で分かる。
この者たちは――この岩山と共に生きてきた。
「そこの者――止まれえい!」
低く、腹の底から響く声が、森の静寂を震わせた。
二人の男が斧を構え、ゆっくりと間合いを詰めてくる。
「ここから先に、何の用だ?」
「グラムディルへ行きたい」
「何用でだ」
「国王に、謁見を願いに来た」
一瞬、男たちの視線が鋭さを増す。
「……名は」
「ショータだ。
魔王を斃した者だ」
男の眉が、僅かに動いた。
「魔王……?
復活したと言う、シルヴァリス王のことか……?」
「そうだ。
だが、世界の混沌は終わっていない」
俺は一歩、前に出る。
「この世界の“本当の敵”が現れた。
その話を、グラムディル国王に伝えに来た」
「……本当の、敵だと?」
俺は懐から、慎重に親書を取り出した。
「これを……」
男の目が、見開かれる。
「――こ、これは……
エルフィリア女王の、蝋封印……?」
じっと見つめ、首を傾げる。
「……いや、少し違うか……?」
「第三国家バース。
聞いたことはあるか?」
「……うむ」
男は深く頷いた。
「その新興国の名は、すでにグラムディルにも届いておる。
そうか……今のエルフィリア女王は、
その国の女王であったか」
「その親書は、
バース国女王エルフィリア様から、
グラムディル国王に宛てられたものだ」
「俺は、それを必ず届けねばならない」
二人の関守は顔を見合わせ、短く言葉を交わす。
「……うむ。
どうやら、偽りではあるまい」
「良かろう」
斧が下ろされる。
「グラムディルまでの案内人を用意する。
しばし――あの隧道の前の小屋で待っておれ」
「ありがとう。感謝する」
俺は、深く頭を下げた。
⸻
「……確認だが」
関守の一人が、ライラへと視線を向ける。
「連れの女。
お前は何者だ?」
「グラムディルは、初めてか?」
ライラは一歩前に出て、迷いなく名乗った。
「私は、暁の環イズファルが娘――戦士ライラ」
関守の目が、僅かに見開かれる。
「今は、バース国の近衛隊長。
そして――」
彼女は、俺を一瞥し、静かに続けた。
「勇者ショータ殿の、護衛だ」
「グラムディルは初めてだ。
どんな国かも……恥ずかしながら、よく知らない」
一瞬の沈黙。
そして――
「……暁の環、イズファル……」
男は、噛みしめるようにその名を口にした。
「そうか……なるほどな……」
「国王も、お喜びになるであろう」
「……?」
俺は眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
関守は、意味深に笑った。
「会えば、分かる」
「ライラとやら――
お前がここへ来たのも、運命に導かれておるのだろう」
「……一体、何だと言うんだ」
「女よ。自分の目と耳で確かめるが良い」
男は門を指差す。
「準備をしてやる。
門をくぐり、小屋で待つが良い」
重厚な門が、ゆっくりと開かれた。
その向こうにあるのは――
まだ知らぬ国と、
避けられぬ運命の続きを孕んだ道だった。




