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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十四章
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第八話 居場所を求めて

ターナの西の空が赤く染まり、

天竜てんりゅうまう“神の山”が、茜色を映して静かに佇んでいる。


俺は星牙せいがとともに、丘の上に立っていた。


「神の山……綺麗だな……」


ぽつりと漏れた声は、風に溶けて消えた。


「……神、か……

俺たちをまもる存在じゃ、なかったのかよ……」


胸の奥が、じくりと痛む。


「リアナ……

俺は、あんな得体の知れない存在をたおせるのか……?

この世界を創った奴だぞ……」


答えは、分かっている。


「マルダも……

“愛の力”、だなんて……」


自嘲じちょうが、喉にからむ。


「リアナがいない俺には……

一番、縁のない力じゃないか……」


言葉が、崩れ落ちる。


左手の薬指。

リアナが消えてから、いつのまにか俺の指にはリアナの指輪がはまっていた。

別々だった二匹の蛇が俺の指で重なり、夕陽を映し光っている。


「運命の指輪…

この繋がりさえ断たれてしまった…

リアナ…本当にいなくなってしまったんだな…」


「俺には……もう……

何も、残ってない……」


その時、星牙が静かに鼻先をすり寄せてきた。


「星牙……」


額に伝わる温もりに、胸が締め付けられる。


「俺……どうすればいいんだ……

この世界にはもう、俺の居場所なんて…」


星牙が、ぴくりと反応した。


振り返る。


「……?」


視線の先――

地竜ちりゅうまたがった、一人の影。


「……ライラ……」


ライラは地竜を木に繋ぐと、ゆっくりと歩いてくる。

一歩一歩が、決意の重さを語っていた。


「ショータ殿……

やっと、会えた……」


「……ライラ。

どうして、ここが……」


「ターナの空を飛ぶ天竜使いたちが、教えてくれた。

……みんな、あなたを心配している」


「……すまない……

心配を、かけた……」


「分かっている」


ライラは、はっきりと言った。


「私たちを避けていたことも。

あなたが、今にも壊れそうなことも」


「待とうと言う者もいる。

あなたが立ち上がるまで、待とうと……」


一瞬、言葉が途切れる。


「でも……私は、待てなかった」


ライラの声が、わずかに震えた。


「このままにしていたら……

あなたは、きっと……

戻ってこられなくなる」


(……図星だ)


胸の奥で、何かが崩れる。


その瞬間――

ライラが、強く俺を抱きしめた。


「……っ!」


「……このまま……

どうか、このまま、聞いてくれ……」


拒む力は、もう残っていなかった。


ライラの体温。

胸に伝わる鼓動。

必死に抑えている震え。


「ショータ殿……

私は……あなたが、好きだ……」


震える声が、胸に突き刺さる。


「リアナ様を失ったあなたの隙間に

入り込もうとする、ずるい女だと思われても……

それでも……」


嗚咽おえつが、混じる。


「私は……

もう、自分の心に、ふたをするのをやめた……」


「……あの神にさえ、見透かされていた……

悔しかった……

図星だった……」


腕に、力がこもる。


「私は……あなたを、諦められない……」


「あなたが苦しむなら、傍にいたい……

癒してあげたい……」


「私が苦しむとき……

あなたに、癒してほしい……」


声が、涙に溶ける。


「私は……あなたを……

愛している……」


「……ライラ……」


胸の奥に、ほんのわずかな灯がともる。


「……ありがとう……

お前は……

ずっと、俺を癒してくれていた……」


「……ショータ殿……」


「……だが……

俺は……」


言葉を続けようとした瞬間――

ライラが、胸を押し付け、口を塞いだ。


「……それ以上は、言わなくていい……」


静かで、強い声。


「分かっている……

私は、リアナ様の代わりにはなれない……」


ライラは、俺の顔を離し、真正面から見つめる。


「私は、ライラだ」


「リアナ様に負けないくらい……

あなたを、愛している……

それだけだ」


一歩、踏み出す。


「私は……

あなたが、再び立ち上がるためなら……

なんだって、してやる」


「寂しければ……

いつだって、抱きしめてやる」


少しだけ、声が弱くなる。


「……だが……もし……

私が邪魔で……

会いたくないなら……」


「そう言ってくれ……」


「その時は……

あなたが、必要としてくれるまで……

私は……姿を消す……」


喉が、詰まった。


「……ライラ……」


「俺は……

卑怯な男だ……」


「お前を……

都合よく、利用しているだけの……

最低な男だ……」


震える声で、吐き出す。


「……それでも……

傍にいてくれ……」


「……俺を……

助けてくれ……」


ライラは、迷わず頷いた。


「……うん」


「分かってるよ、ショータ殿」


微笑みながら、涙を流す。


「あなたは……

最低な男だ」


「……でもね」


「私にとっては……

最高の男だ」


ライラは、俺の手を握る。


「一緒に……

前に、進もう」


――胸の奥が、少しだけ温かい。


何かを決意したわけじゃない。

何かを許せたわけでもない。


リアナを失った事実は、

今も変わらず、俺の中で息をしている。


だけど――

何も無いと思っていた場所に、

確かに“何か”が残っていた。


痛みだ。

後悔だ。

情けなさだ。


そして……

それでも誰かにすがりたいと願う、

どうしようもなく弱い俺自身だ。


立ち上がる理由なんて、まだ見えない。

神を斃す覚悟も、未来を語る言葉も、

今の俺には重すぎる。


それでも――

このまま、ここで終わるのだけは、

違う気がした。


誰かが俺を必要としている。

それだけで、

世界が、ほんの少しだけ、違って見えた。


前に進めるかは、分からない。

歩けるかどうかも、分からない。


だが――

立ち止まり続ける理由は、

もう無い。


俺は、まだ――

この世界に、居てもいい。

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