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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十四章
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第五話 神に抗う力

「……リアナ……なのか……?」


抱きしめた瞬間、確信した。

これは、リアナではない。


温もりはある。

鼓動も、呼吸も、確かに“生きている”。

それでも――

俺の知る“リアナの気配”が、そこにはなかった。


「ふむ……。

器に触れただけで違和感を覚えるとは……」


リアナの唇が動く。

だが、その声音は、決して彼女のものではなかった。


「この不可思議な感覚……。

なるほど……これが“愛の力”というやつか」


背筋が、凍りつく。


「……誰だ、お前」


俺は、抱き寄せた腕を緩めないまま、睨み据えた。


「リアナを……どうした……?」


「せっかちな男よのう。

質問は一つずつにしてくれんか?」


ゆっくりと、視線が俺を捉える。


久遠翔太くおんしょうたよ」


――心臓が、跳ねた。


「その名を知るのは、この世界ではリアナだけだ。

だが……リアナは、俺をその名で呼ばない」


喉の奥から、低い声が漏れる。


「やはり……お前は……」


「神ですよ」


あまりにも、あっさりと。


「久しぶりだな、久遠翔太。

……いや、この世界で人生を“やり直して”いる君は、

今はショータ、だったな?」


「神……!」


怒りが、一気に噴き上がる。


「お前……リアナに何をした!!」


「ん?

私のための“器”になってもらっただけだ」


「……器、だと……?」


「そうだ。

リアナの魂は消えた」


淡々と、告げる。


「つまり――リアナは、死んだということだ」


「……ふざけるなあああああっ!!」


理性が、吹き飛んだ。


俺はリアナの姿をした“それ”の胸倉むなぐらつかみ、

ベッドから引きずり降ろす。


「い、痛い……ショータ……

そんなに乱暴にしないで……」


リアナの声で、懇願する。


――寒気が、全身を走った。


「やめろ……!」


怒りと嫌悪が、入り混じる。


「俺にやり直しをさせた神が……

俺の、一番大切な人を奪って……

ふざけた真似をしてるんじゃねえぞ……神!!」


「んふふ……」


愉快そうな笑み。


「確かに……君の言うことも、もっともですねえ…。

私の正体がバレてしまっては、あなたと交わり、愛を確かめることも出来ないでしょうし…。

残念だわ…」


「だけど…私は、ずっと昔から――

私のために“転生者”を、この世界へ呼び込んできたのよ」


その視線が、ゆっくりと移動する。


マルダへ。


「……そこにいるあなた」


空気が、張り詰める。


「ようやく姿を現したわね。

あなたが裏で何かを企んでいたこと……

とっくに、気づいていましたよ」


一拍。


「魔法使いマルダさん……

いえ――」


唇が、歪む。


「“はじめのにんげん”

卑弥呼ひみこ


「……卑弥呼……!?」


俺は、思わずマルダを見る。


「それが……本当の名前なのか……?」


「……久しぶりですね、神」


マルダは、静かに答えた。


「ふん」


鼻で笑う。


「地球に産み落とした、私の可愛い卑弥呼」


「人間の中でも特異な力を与えてやったというのに……

何度、生まれ変わらせても、結局は反抗か」


「あなたに近い力を与えられたおかげですよ」


マルダの声は、揺れない。


「あなたは、世界を滅びへ導く。

だから私は――世界を救いたい」


「救う?」


嘲笑。


「こんな欲に塗れたエルフや人間どもに、

一体、どんな価値があるというのだ?」


「では、神に問います」


マルダは、真正面から見据えた。


「混沌の世界に……意味はあるのでしょうか?」


「ある」


即答。


「私が、楽しいからだ」


「……それだけ……?」


「それだけだ」


静まり返る空間。


「リアナも、精神世界で同じことを言っておったな」


神は続ける。


「私の欲のためだけに、運命を翻弄される存在を、

何だと思っているのか――と」


「……答えは、決まっているだろう?」


笑みが、歪む。


「エルフも、人間も、地球も、この星も……

私にとっては、どうでもいい」


「所詮は――

私が創った、小さなおもちゃだ」


「……この野郎……!」


ライラが、歯を食いしばる。


「だがな……」


神は、楽しげに続けた。


「一つだけ、どうしても知りたいものがある」


「それは――“愛”だ」


視線が、ライラへ向く。


「ハーフエルフよ。

愛に飢えているのだろう?」


「ショータに想いを寄せながら…

叶わぬ恋と知りながら身体を許し……

一時の快楽を得るだけ…

それで満足しているのか?」


「なっ……!

何を、馬鹿なことを……!」


「まあ、いい」


興味を失ったように言う。


「この“愛”という感情が生み出す不可解な力……

それこそが、私の求めるもの」


「卑弥呼。

遥か昔、お前が私に抗った時に示した力だ」


「あなたの永遠の命でさえ……

エルフや人間の“愛の力”には、辿り着けないでしょう」


「ショータさんに触れられただけで、

正体を見抜かれるようでは……」


マルダは、静かに断じる。


「神も……その程度の存在です」


「神よ!」


マルダの声が、鋭くなる。


「私は何度も転生させられ、その度に考え続けた」


「あなたを斃し、この世界に真の平和をもたらす方法を」


「そして……見つけました」


一歩、前に出る。


「あなたが執着する、その力――

愛の力こそが、あなたを斃す唯一の鍵」


「――ははははははは!!」


神は、心底愉快そうに笑った。


「面白い!!

永遠の命を持つ私を斃すだと!?」


「卑弥呼!

やってみせろ!」


「私を……斃してみせろ!!」


「……神よ」


マルダは、静かに告げる。


「しばらく、時を待ちなさい」


「あなたが求める“最高の刺激”を……

私たちが、必ず与えます」


「リアナの身体は、今はあなたに預けます」


だが、視線は逸らさない。


「しかし――私が視た未来では」


「リアナの魂が、あなたに裁きを下す」


「愛の力を……みくびるな」

マルダが言い放つ。


「そうか……!」


神は、心から楽しそうに笑った。


「ならば、待とう!!」


「私を斃してくれる――

その日までな!!」


リアナの姿をした神は、すうっと空間に溶け、目の前から消えた。


「神…

俺は…、

お前を許さない…!」


俺の心の中は、やり場のない怒りと悲しみがぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。

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