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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十四章
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第四話 偽りの帰還

ベッドに横たわるリアナの表情が、苦悶くもんに歪む。

閉じられたまぶたの奥で、何かと必死に抗っているかのように、

その身体は小刻みに震えていた。


「リアナ! 俺だ! ショータだ!

頼む……目を覚ましてくれ!」


声を張り上げながら、俺は彼女の名を呼び続ける。

返事はない。

あるのは、冷たい沈黙だけだった。


「ショータさん……」


静かに、だが重くマルダが告げる。


「リアナは今、精神世界の奥深くで――

神と遭遇しているはずです」


「神が……リアナの中に、いるっていうのか……?」


喉が、ひりつく。


「以前、私がその存在を覗いた時……

あの威圧は、常軌じょうきいっしていました。

もしリアナが、神の本体と直接相対しているのだとすれば……」


マルダは言葉をにごした。

だが、その沈黙が何を意味するかは、痛いほど分かる。


「無事に……帰って来られる保証はありません」


「やめてくれ!」


思わず叫んでいた。


「リアナは……リアナは、必ず戻る!

そうだろ!? あいつは、そんな簡単に折れる奴じゃない!」


俺はリアナの手を強く握り締める。

温もりは、まだ確かにそこにある。


(だから……頼む……)


祈ることしか、出来なかった。


――――――――


『転生者――

それは、私がこの世界に争いの火種として持ち込んだ人間だ』


冷え切った声が、精神世界に響く。


『なぜ……!

なぜ、そんなことを!』


リアナの叫びは、怒りと悲しみがない交ぜになっていた。


『何度も言わせるな。

暇つぶしだと言っているだろう』


あざけるような声音。


『平和な営みなど、退屈以外の何物でもない。

争いによって生まれる怨恨えんこん、復讐、略奪……

奪い、奪われ、はかなく消える生命。

そのやり取りこそが、私に刺激を与えるのだ』


『そんな……!』


リアナの胸が、締め付けられる。


『ただ、あなたの欲を満たすために……

私たちは生み出され、混沌こんとんの世界に放り込まれたというの……?

それが……神のすることだと……?』


声が、震える。


『あまりにも……残酷で、無慈悲むじひじゃない……』


『そうだ。その顔だ』


神は、たのしげに言った。


『絶望に染まった、その表情。

それこそが、私の望みだ』


黄金の光が、わずかに強まる。


『永遠に、私だけが孤独など……不公平だろう?

だから、私が生み出したお前たちにも

同じ絶望を味わってもらう』


『それを見て……

私は、ようやくいやされるのだ』


『……っ』


言葉を失うリアナ。


『なんて……おぞましい……。

あなたのような存在が……

私たちの信じる神であるはずがない……』


『ふん。

だから言っておるだろう』


冷たく、言い放つ。


『さあ……話は終わりだ。

リアナ、この器を私に寄越よこせ』


次の瞬間。

黄金の光が、奔流ほんりゅうとなってリアナの意識を包み込む。


『ショータ……!』


必死の叫び。


『ごめんなさい……!

もう……抗えない……!』


『ふはははは!』


神の哄笑こうしょうが、精神世界を揺らす。


『分かるぞ、リアナ!

お前の精神力が、確実に弱まっている!』


『このまま身体だけをいただき――

私は、この世界で“愛”を探してやろう』


『……っ!』


リアナの瞳に、決意がともる。


『私は……ただでは終わらない!』


『この神の力……

利用してやる……!』


『ショータ!

探して! 私の魂を!』


『なに……!?』


神の声に、初めて動揺が混じる。


『貴様……

私のエネルギーに干渉したな!?』


『あなたに抗える力があるなら……

あなたの力を、私が使えない道理はない!』


リアナは叫ぶ。


『私は、あなたを許さない!

あなたがおそれる――愛の力で!』


『ショータが……

必ず、あなたを滅ぼす!』


『はははははは!』


嘲笑が返る。


『笑わせるな!

私が、たかが人間一人に滅ぼされるだと!?』


『エルフも人間も、すべて私の創造物だ!

所詮しょせんは、おもちゃに過ぎぬ存在が……

身の程を知れ!』


『ショータ……』


リアナの声が、優しくなる。


『愛してる……

永遠に……あなたを……』


『さらばだ』


黄金の光が、完全に覆い尽くす。


リアナの精神は、神に飲み込まれた。


――――――――


現実世界。


ベッドの上で、リアナの身体が大きく跳ね上がった。


「リアナ!」


俺は反射的に、その身体を抱き留める。


「どうしたんだ!

リアナ!」


「神の精神に……抗っています!」


マルダが叫ぶ。


「暴れます!

怪我をしないよう、しっかり押さえて!」


「リアナ様……!

負けないで……!」


リーネも必死に身体を支える。


やがて――

震えが、ぴたりと止まった。


「……リアナ……?」


沈黙。


そして、ゆっくりと――

リアナの瞳が、開かれる。


「リアナ!」


俺は、迷わず抱きしめた。


失うのが、怖かった。


「……おかえり……

リアナ……」


しかし…

抱きしめたリアナの身体から感じる体温は、俺の知る温もりではなかった。

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