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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十三章
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第八話 始まりの混沌

「……う、うう……」


「ショータさん!

目が覚めましたか⁈」


重たいまぶたを押し上げる。

視界に映ったのは、見慣れた天井と、安堵あんどに揺れるリーネの顔だった。


「……リ、リーネ……?」


「はい。

ここは王城メサイアの集中治療室です。

ショータさん……記憶は、ありますか?」


「記憶……」


喉の奥を探るように、言葉を引きずり出す。


「たしか……俺は……

魔王を……たおした……はず……」


「そうです!」


リーネは、思わず声を弾ませた。


「ショータさんは、あの魔王を倒しました。

間違いありません!」


「ああ……そうか……」


胸を撫で下ろしかけた、その瞬間――

得体の知れない不安が、心臓を掴んだ。


「……はっ!

星牙せいがは⁈」


言葉が、自然と荒くなる。


「星牙は……無事なのか?」


「星牙は、今もリオンさんが治療に当たっていますが、ご心配なく。

あとは体力を戻すために、失われた血を生成されている段階です。

しかし、もう……丸二日です」


「二日……?」


思わず、上半身を起こしかける。


「俺……そんなに……」


視界の端が、ぐらりと揺れた。


「……リアナは?

リアナは……どこにいる……?」


リーネは、ほんの一瞬だけ視線を伏せ――

静かに、俺の隣を指差した。


「……こちらです」


「……リアナ……?」


そこには、穏やかな寝顔のまま、眠り続けるリアナがいた。


「どうした……?

まだ……治っていないのか……?」


「ショータさん……」


リーネは、慎重に言葉を選ぶ。


「魔王に貫かれた傷は、ほんの少しの跡だけが残りましたが、リオンさんが治しました」


「良かった……」


「でも……

一向に、目を覚まされないのです……」


胸の奥が、ずしりと沈む。


「……眠っている……だけじゃ……ないのか……?」


「意識だけが、戻ってきていない状態だそうです」


リーネは、小さく息を吸った。


「“魔王の毒”と呼ばれていた何か……

それは、毒というより――

別の“精神体”のようなものだと……」


「精神体……」


「リアナ様の中に、

リオンさんの治癒を拒む“何か”が存在しているそうです」


「……取り除くことは……」


問いは、最後まで形にならなかった。


リーネは、静かに首を横に振る。


「リアナ様は今……

その精神体と、戦っている可能性が高いと……。」


「……」


「意識を取り戻すには……

リアナ様ご自身が、

それを打ち破らなければならない、と……」


言葉が、ゆっくりと胸に沈んでいく。


「……じゃあ……」


声は、かすれていた。


「リアナは……

ずっと……

一人で……

自分の中の“何か”と……

戦い続けているのか……」


ーーーー


謁見えっけんの間。


静寂を裂くように、小さな光のドームが現れた。


「女王陛下。ただいま戻りました」


「バルドラン、ご苦労。

ムシャカも……無事に会えたようですね」


エルフィリアは、玉座を降りる。

その歩みは静かでありながら、揺るぎがなかった。


バルドランとムシャカ。

そして魔蝕人ましょくじんの間に――

深緑の外套がいとうを纏った、小柄な女が一人立っていた。


「お久しぶりです。

大魔法使いマルダ」


小柄な女は、ゆっくりとフードを上げる。


「女王陛下……ご無沙汰しておりました。

……七年ぶりになりますかな」


ルミエール三ツ星店旗の魔法使い。

マルダである。


「マルダ。

ショータは、先程目を覚ましました」


エルフィリアは、視線をらさない。


「しかし、リアナが目覚めません」


「リアナは……

いまだ運命と闘っておるのだ……

一つ目の鍵、“導きのエルフ”としてな……」


「マルダ。

私は……あの予言が、ずっと引っかかっているのです」


エルフィリアは、ゆっくりと語る。


――三つの鍵の予言。


「マルダ。

三つ目の鍵、“愛の転生者”が、まだ現れていない」


さらに一歩、踏み出す。


「率直に聞きます。

魔王が斃された今……

これは、あなたが見た“救いの未来”の結末なのでしょうか?

それとも――」


一瞬、言葉を切る。


「……まだ、終わっていないのですか」


マルダは、静かに微笑んだ。


「女王陛下……

あなたの仰る通りじゃ」


「未来を救う道は……

まだ、終わっておらぬ」


その声が、低く落ちる。


「これは、混沌こんとんの終わりではない」


「――始まりに過ぎぬのじゃ」


「始まり……?」


「そう……」


次の瞬間、マルダの瞳が遠い闇を映し、光を失った。

その身体が揺らぎ、空間に溶けるように消える。


刹那――

再び光が満ち、深緑のローブを纏い、顔をフードで隠した女が現れた。


その存在が放つ圧に、

そこにいた者すべてが、本能的に息を呑んだ。


「もう……

ほこらに隠れる意味も、無くなりました」


女はそう言って、フードを外し、深く頭を下げた。


「……なんと、美しい……」


思わず、エルフィリアが声を漏らす。


現れた顔は、若く、整っていた。

二十代半ばの人間の女性――

五百年以上を生きた者とは、到底思えぬ姿。


思念体しねんたいではない。

“本物のマルダ”が、そこにいた。


「ショータさんと、リアナのもとへ……

案内していただけますか?」


そして、静かに告げる。


「世界の混沌は、これから始まります」


「私たちは――

そのすべての元凶……

“神”に、宣戦布告する時が来たのです」

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