第十話 変えられた未来
ムシャカが語った真実は、その場にいたバースの要人たちの胸に、深く刻み込まれた。
そして何より――
最も大きな感情の波に襲われたはずの女王エルフィリアが、なお毅然と立ち続けているその姿に、誰もが改めて深い敬意を抱いた。
やがて、エルフィリアが静かに口を開く。
「ムシャカ。この話は、ここまでにしましょう」
一拍置き、女王は真っ直ぐにムシャカを見据えた。
「ここからは……
あなたが見た――
勇者と、魔王の最後について、聞かせてもらえますか?」
ムシャカは、ゆっくりと顔を上げた。
「ああ……。
あたいが見た、勇者と魔王の戦いだ。
お前たちに、しっかり話してやるよ……」
その語りは、まるでその場の光景が再び立ち上がるかのように、生々しく、戦いの全貌を描き出していった。
「私たちとショータ殿の通信が切れた時……
それが、まさにムシャカが語った“ショータ殿の覚醒”の瞬間だったというわけか」
ノブナが低く呟く。
「僕が作ったチョーカーは、簡単には壊れないはずなんだけど……。
ショータさんのは、もう使えないみたいだしね。
何らかの力が働いたのか……」
ハクは顎に手を当て、ぶつぶつと独り言をこぼしていた。
原因が気になって仕方がない様子だ。
「ショータ殿は、どこまで覚えているのだ?」
ライラが、静かに問いかける。
「俺は……
ムシャカとシルヴァリスが話し始めた、その時……」
俺は言葉を選びながら、記憶を辿った。
「腕の中で、命が消えかけていくオウルを……
ただ、助けたい一心だった。
とにかく、死なせたくない……」
「その気持ちが、星牙と繋がるのを感じたんだ」
「それで……
星牙は、突然戦場へ飛んだのだな」
レキルが、静かに頷く。
「俺は……
ムシャカが語った“愛”を鼻で笑い、
ただこの世界を滅ぼすためだけに、殺戮と破壊に興じる……
目の前の男が、どうしても許せなかった」
思い出すだけで、全身に嫌な熱が走る。
「魔王シルヴァリス……
この世界に、存在してはいけないモノ……」
「俺の中には、
激しい嫌悪、怒り、憎悪……
負の感情が、ぐちゃぐちゃに絡み合っていた」
「なにより……
この世界の“愛”を否定したあの魔王が、許せなかった……」
拳を、強く握り締める。
「そして――
俺の中にはっきりと芽生えた、シルヴァリスへの殺意」
「……この世界から、消してやる」
「それが……
俺が覚えている、最後の瞬間だ」
ムシャカが、静かに続きを受け取った。
「ショータの体は白く発光し、明らかに普通じゃなかった。
そこへ、天竜が舞い降り……
あたいと、梟の青年を担ぎ上げ、
ショータは天竜の背に乗った」
「そこから先は……
さっき話した通りだ」
「かつてサンサーラ軍を滅ぼした、
魔王の奥義すら凌ぐほどの巨大な力で……
魔王は、討たれた」
ムシャカは、はっきりと言い切った。
「そうだ。
シルヴァリスは、天竜が吐いた巨大な白炎に飲み込まれ……
断末魔の叫びとともに、消えた」
「――これが、全てだ」
話を聞き終えた者たちからは、しばらく言葉が出なかった。
「一つ、いいかな?」
ライレン治療室に繋がる魔法鏡から、リオンが手を挙げた。
「どうした? リオン」
レキルが促す。
「オウルのことなんだが……」
「何があった!」
「い、いや! 大丈夫だ!
オウルは完全に治癒できた!
いずれ目を覚ます。心配しないでくれ」
安堵の空気が、わずかに広がる。
「オイラが言いたいのは……
戦場で、オウルを死なせなかった“治癒の力”についてだよ……」
「治癒の力だと?」
議場が、ざわめく。
「ここに運び込まれた時、ムシャカが言ったんだ。
よく分からないが、僅かに治癒の力を感じる、って」
「あたいは専門じゃねえ。
だから、感覚でしか言えなかった。
だが……戦場で見た青年の傷は深く、
どう見ても助かる状態じゃなかった」
「オイラはすぐに治療を始めたが……
ムシャカの言う通りだった」
「オウルには、微かな治癒の力が流れていた。
それは……
オイラの力とも、リアナ様の力とも違う、初めて感じる力だった」
「リオン! それって、もしかして⁈」
メサイアの魔法鏡から、リアナが声を上げる。
「おそらく……
いや、確実に、ショータの力だ」
「ショータ!
あなた……治癒の力が⁈」
「お、俺に……治癒の力が⁈」
「でも、不思議じゃないわ」
リアナは、静かに続けた。
「あなたの選択の力は、“信じる力”。
ショータがオウルを助けたいと願い続けた想いが、
治癒の力を生んだとしても……何の違和感もない」
「ショータ。お前は、本当にすごい奴だ。
そのうち、オイラやリアナ様の力も超えちまうんじゃねえか?」
「ショータ……
あなたは一体、どこまで……」
リアナが、呟く。
「ムシャカ。
戦いの全貌、よく分かりました」
エルフィリアが、議場を見渡す。
「この度の戦――
我らバースの勝利で、間違いありません」
そして、女王は宣言した。
「皆の者。
今、シルヴァリスは頭を失った!」
「この戦の勝利をもって――
バース国女王エルフィリアが、
シルヴァリス王国を統一する!」
議場は、沸き立った。
エルフィリアの一言が、この戦の幕を、確かに下ろしたのだ。
「……本当に、やり遂げたのか……」
「俺は……
あの忌まわしい未来を、変えられたのか……!」
勝利の実感が、今になってようやく、胸の奥から湧き上がってくるのを感じていた。




