第八話 覚醒の余白
ライレンの山城で、俺は目覚めた。
「ショータ殿! 気が付いたか!
心配したぞ……」
ライラが、俺を抱きしめる。
「ラ、ライラ……。
レ、レキルが見ているぞ?」
「あ、あ、あ……。
す、すまない! ショータ殿!」
「心配してくれて、ありがとうな。ライラ」
「当たり前だ! 心配でしょうがなかったよ!
私はこのライレンから見ていることしか出来なかったんだ……。
もどかしくて、堪らなかった……」
「そうだな。
私もだよ、ライラ。
私たち二人は、本陣という名のこの山城で、ずっと留守番だったからな。
手伝えなかったことが悔しいのは、私も一緒だ」
部屋の隅にいたレキルが言い、続ける。
「だが、本当によく魔王を斃してくれた。
すごい人だよ、あなたは」
俺は体を起こした。
「う、うう……。
あ、頭が……痛い……」
「ショータ殿、まだ寝ていろ」
ライラが優しく体を支えてくれている。
「い、いや……。大丈夫だ。
……それよりも、俺はどうやって魔王を斃したんだ……?
あまり、記憶が……。はっきりしないんだ……」
「オウルからの魔法鏡の映像は切れてしまったが、
最後まで私と通信していた“チョーカー”は、そのまま現場の声をずっと拾っていた。
幹部たち皆に、その声は届いていたよ」
ライラは首のチョーカーを指先で突いた。
レキルが続く。
「聞いてはならないことだったかもしれないが…。
ムシャカとシルヴァリスの会話も、全て聞こえていた」
「……はっ! エルフィリア様!」
「エルフィリア女王も聞いていただろう。
まさか……ムシャカが、女王陛下の母であったとはな…」
レキルが言った。
「だが……ムシャカが力を貸した理由がはっきりした。
奴は純粋な“愛”に従って、エルフィリア様をも守ろうとしていたんだろう」
「そうだな。
とにかく、被害も最小限で魔王を討ち倒したんだ。
何と言っても、ムシャカの功績はデカいぜ」
「ライラの言う通りだ。
ムシャカの協力が無ければ、魔王はおろか、
弓の勇者と魔蝕人さえも倒せていたかは分からない……」
俺は、部屋を見渡した。
「ムシャカなら、オウルのところだ。
ショータ殿が動けるようになったら、連れて来てくれと」
レキルが言った。
「星牙がここを飛び出した後、ショータ殿との通信が切れた。
その後、魔王をどのように討ち倒したのか。
その話を、ムシャカから聞かねばならない」
「そうか。
俺なら…もう、大丈夫だ。
行こう、ムシャカのところへ」
――――
ライレン本部から離れた、奥まった場所に治療棟があった。
リオンのいる治療室へ入る。
「リオン! オウルはどうだ⁈」
「ショータ! 意識が戻ったか! 良かった!
オウルは、ほら、この通りだ。
今はぐっすり眠ってるよ。」
オウルは眠っていたが、しっかりと呼吸をしていた。
「良かった……。
シルヴァリスに胸を撃ち抜かれていた。
正直、梟の姿の時は……
もう、駄目かと思った。
オウルが力を振り絞って、人間に戻ったから微かな命が保てたのかもな…。」
「ショータ。お前はもう、大丈夫なのか?」
ムシャカが言った。
「ムシャカ……ありがとう。
意識を失った俺が星牙から落ちないよう、ずっと支えてくれたんだな。
オウルを抱えながら、俺まで……。
無理させて、悪かった」
俺はムシャカに頭を下げた。
「何を言っている! 勇者ショータ!
お前のおかげで、皆助かったんだ。
それに……」
ムシャカは、少し言葉を区切った。
「あたいの願いを、あんたはきっちりと叶えてくれたんだ。
礼を言うのは、あたいの方だ」
ムシャカは俺に歩み寄り、静かに右手を差し出した。
「ムシャカ。あなたを信じて良かったよ。」
俺はムシャカの手をしっかりと握り返した。
「ムシャカ。
ショータ殿も目を覚ました。
しかし、あんたが言った通り、ショータ殿は何も覚えていない。
すぐに魔法鏡を準備する。
皆が集まり次第、話を聞かせてくれ。
ショータ殿の“覚醒”の話を」
レキルが言った。
――――
サンサーラの地下。
流砂が落ちる、暁の環の聖域とされる祠。
マルダは、水晶玉を覗いていた。
「魔王シルヴァリスを、ショータさんが斃した……。
でも、何かがおかしい……。
水晶玉に映る未来……。
これは……。私が見た未来と、大きく異なる。
ショータさんの選択が、未来を変えたのかしら。
いえ……違う。
おそらく、魔王は……まだ……」




