第六話 魔王降臨
魔蝕人の恐るべき攻撃は、
シュテンとアオダの軍がいた場所を壊滅させていた。
地面は深く抉られ、
底が見えないほどだ。
アオダ率いるミラ軍十万。
シュテン率いるガンロ軍十万。
総勢二十万の大隊が、
跡形もなく吹き飛ばされてしまった。
そこにあったはずの“戦”そのものが、
消えていた。
⸻
その先。
シルヴァリス軍がいた辺りの闇も薄くなり、
俺が放った《月光》によって、
湿原を覆っていた霧も消え失せていた。
俺は、戦場にただ一人。
霧の晴れ間に、目を凝らす。
俺の目は、集中することで、はるか先まで見える。
だが、そこには――
魔蝕人も、
シルヴァリス軍の歩兵も、
弓の勇者も、
そして、シルヴァリス王の姿すら無かった。
「全て……無くなった……のか?
俺の《月光》が、
全てを消し飛ばしたのか……?」
俺はチョーカーに触れ、呼びかける。
「ムシャカ……。聞こえるか?」
反応は、無い。
『……タ……の……。……こえ……か……』
誰かの声が、微かに聞こえた。
「誰だ? よく聞こえない!」
『ショータ……。聞こえ……か?』
「ノブナ!
なんとか! 聞こえる!」
『ショータ殿!
やっと繋がった!』
「ノブナ!
聞こえるぞ!」
『シュテンも、アオダも、兵たち全員!
バース前に瞬間移動してきた!
全員だ!』
「よしっ!
よくやってくれた! ムシャカ!」
ようやく作戦の成功を実感し、
俺は拳を強く握りしめた。
『ムシャカが今、そっちへ移動したぞ。』
⸻
俺の頭上に、光のドームが現れる。
「ムシャカ!」
「勇者ショータ……。
よくやってくれた。」
「俺は本当に、
奴らを斃したのか?」
「ああ。
魔法鏡とやらを覗いていた奴らによると、
お前の一撃は、恐ろしい威力だったそうだ。」
『ショータ殿! ライラだ。
私も戦況は、オウルの魔法鏡を通じて見ていた。』
「ライラ!
俺は、本当にシルヴァリスを……
魔王を討ち倒したのか⁈
信じられないんだ!」
『魔蝕人の攻撃が引き起こした闇で、
私も最後、何が起こったのかは正確には分からなかった。
だが――
闇の中から、巨大な白光が、
シルヴァリス軍を貫いたのが、微かに見えた。』
俺はその言葉を聞き、
再び、シルヴァリス軍がいた辺りを凝視する。
『あの白光のデカさは異常だ!
そんなものが、闇の中から突然現れたんだ!
気付いた時には避けられず、
魔蝕人も、弓の勇者でさえ、
痛みすら感じぬまま消し飛んだだろうぜ!』
確かに――
シルヴァリス軍を足止めしていた湿地帯は、
丸ごと削られ、無くなっている。
「俺は……
そんな恐ろしい威力の《月光》を、
放ったと言うのか……。」
⸻
『……待て、オウル!
お前! そいつはなんだ!』
「ライラ!
オウルがどうした⁈」
『ショータ殿……。
今、空の上を見られるか……?
オウルを探してくれ!』
「空……?
何だ? どうした、ライラ。
オウル?
……見えない!
どこにもいない!」
『おい! オウル!
お前が見ている空は一体どこだ!
そいつは……⁈
どこにいるんだ!
に、逃げろ!
オウルーーーーーー!』
「なんだ……!
今、遥か上空の雲の中!
光が……走った!」
『ショータ殿!
シルヴァリスだ!
オウルをやりやがった!』
「オウル……!
クソっ……!
やはり、生きていたか⁈」
⸻
「ショータ!
まずい!
今は、逃げるぞ!」
ムシャカの魔蝕人が、両手を天に翳す。
光のドームが現れた。
「くそうっ!
オウルーーーー!
助けに行かなきゃ!
仲間なんだ!」
「駄目だ、ショータ!
バースへ逃げる!
体制を立て直すぞ!
奴は、やばい!」
「嫌だ!
仲間が……!
仲間が死ぬのは、
もう耐えられない!
リオンがいるんだ!
あの山に!
きっと治せる!
オウルは、まだ助かる!」
「言うことを聞け!
このボケナスがあ!
奴一人を、甘く見るな!
奴は一人でも、この世界を滅ぼせる!
お前一人で、
どうにかなると思うな!」
光のドームが、俺たちを包む。
「く……くそう……!
オウル……!
す、すまない……!」
⸻
一瞬だった。
魔蝕人の胸を貫く、鋭い白光が、
天から降り注いだ。
まるで、神の啓示のように――
美しくも見えた。
光のドームは大気に消え、
魔蝕人も、塵となって霧散する。
「くそったれ……!
間に合わなかった……!」
ムシャカは、膝をついた。
――ズゥゥン。
地面が揺れ、魔王が降臨した。




