第五話 策士の妙手
霧の湿原では、“泥の手”に捕らえられたシルヴァリス軍が、自由を奪われ、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「なかなか、面白い能力者がいるではないか…。
我が軍十万の兵たちの三分の二が、悲鳴を上げる間もなく…。
かなりやられてしまったのう…。」
シルヴァリスは“泥の手”に足を取られた地竜を捨て、地に降り立った。
「ふむう…。これは、なかなか。
湿地に足を取られ思うように前に進めぬか…。
なるほど、我らを足止めし一網打尽にするための好立地。
我らをずっと…ここで、待っておったという訳だ。」
シルヴァリスは冷静に戦況を分析する。
その時、光のドームがシルヴァリス軍の中に現れ、ムシャカと魔蝕人が現れた。
「ムシャカ。 バースは攻め落としたのか?」
シルヴァリスが問う。
「シルヴァリス。
バース侵略は…失敗だよ。」
「何? 失敗だと?」
ムシャカはファルネウスの遺体を持つ蝕人を前に出す。
「ファルネウスがやられた。
バースには、白光の力を持つ天竜が控えていた。
最初の急襲の際も、天竜に魔蝕人を消されたが、その破壊力たるや、どんな魔蝕人でも敵わねえ。」
「百体も居ながら太刀打ち出来んのか?」
「金縛りの魔蝕人を最初にやられたのは、痛かったな。こっちにも白光の力を盾で跳ね返す魔蝕人はいるが…」
その時、ショータが放った《月光》がシルヴァリス軍を襲った。
シルヴァリス軍の前方に巨大な“白い光の盾”が現れた。
「あれが盾だ。」
ムシャカが指差す方に一体の魔蝕人が両手を広げている。その両手の前に出現した巨大な“白光の盾”は月光の矢を受け止め、辺りは純白の光に包まれた。
「ほう。なるほど。
あれを使えるのは、あの魔蝕人だけか?」
「そうだ。
あんな貴重な奴をバースで使うのは勿体ねえ。
あいつの力にも限りがある。
隙を突かれりゃ、天竜にいつかは消されてしまう。」
「それで、バースを諦めて我の方に逃げ帰ってきたと言う訳だな…ムシャカ。」
「逃げ帰ったは心外だ。
戦略的撤退と言うやつさ。
ファルネウスを失った今、戦力を分散する意味もねえ。
シルヴァリス、あんたと一緒に戦った方があたいもやり甲斐が出るってもんさ。」
「ふん。好きにしろ。 その魔蝕人ども、使えるのであろうな?」
「当たり前だ。
あんたの大事な“弓の勇者”も邪魔だ。
後ろに下げて黙ってみときな、雑魚どもはあたいが全部片付けてやるよ。」
ムシャカは前線へと動いた。
ーーーー
「俺の《月光》が…。掻き消された⁈
シルヴァリスか⁈」
「若! 湿地帯に新手の兵が――百人ほど!
突如出現!
こ、これは、魔蝕人か⁈」
「魔蝕人! さっきの光の盾は…、ムシャカが言っていた魔蝕人の能力か⁈ 」
「ムシャカ、大丈夫だよな…。
俺は…お前を信じるぞ。」
『ショータ、聞こえるか? ムシャカだ。』
「ムシャカ! 聞こえる!」
『シルヴァリスを信じさせるために、お前の白光の力をあと数回、盾で止める!
今すぐ、連続で矢を放て! 急げ!」
「《月光》ーー!!」
俺はシルヴァリス軍に向け、渾身の矢を立て続けに放った。
その先。
また、あの巨大な白い光の盾が出現する。
そして、真っ白な世界に包まれた。
「ショータ殿!
ムシャカの策通りであれば、ここからは我らの出番!
一旦、ショータ殿はお下がりください!」
シュテンが叫び、アオダとともに前にでる。
「ミラ・ガンロの兵どもよ! 種子島! 魔法弓!
全弾照射ーーーーー!」
霧と光で真っ白な世界の中、種子島の轟音が鳴り響き、激しい炎の点滅が繰り返す。
無数の雷矢の風切の音が天を裂き、稲妻を纏いシルヴァリス軍へと飛翔していく。
その時、ミラ・ガンロ兵の中心に小さな光のドームが現れていた。
次の瞬間。
真っ白な世界を切り裂くように、この世の終わりのような咆哮が轟く。
土石龍、炎龍、水龍、雷龍が真空刃の竜巻を纏い現れた。
「な、何という迫力か…!」
「これが、魔蝕人の力…!」
シュテンとアオダは圧倒されていた。
四体の巨大龍が竜巻とともに天に昇り、再びバース軍めがけて堕ちてくる。
「ムシャカ! 信じていますよ!」
「ええい! 覚悟は決まった! 好きにせい!」
地面が深く抉られる轟音と激しい揺れ。
真っ白な世界は、巻き上げられた土埃により、光を失い闇となった。
『勇者ショータ。
今だ。
あんたの仲間は大丈夫だ。
闇の中、感覚を研ぎ澄ませ。
“エルフの弓”は見えなくとも矢を射れる。
ぶちかませ、今なら全てを吹き飛ばせる!』
「うぅおおおーーーーーーーーー!」
「《月光》ーーーーーーーーーーー!」
俺が放った月光は、今までと比較にならない巨大な三条の白光となり、一直線に闇を貫いた。
そして、
音も光も無い辺り一面の闇は、時が経つと少しずつ明るさを取り戻した。
俺は、戦場の霧の隙間に目を凝らした。




