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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十二章
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第四話 信じる者の戦い

本陣が置かれた雷の山ライレン。そのふもとから東へと広がる霧の湿原。


泥の匂いが霧と混ざり、喉の奥にまとわりつく。


朝の陽光さえもが濃い霧にさえぎられるこの地で、


間も無く――

世界の命運を左右する大戦が始まろうとしていた。


『こちらノブナ。ショータ殿。聞こえるか?』


俺は、ハクが幹部全員に配った首のチョーカーに触れた。


「ショータだ。はっきりと聞こえている。」


『バースに光のドームが出現した。こちらは間も無く始まるぞ。』


「予定通りだな…。こっちも間も無くだ。

ノブナ…。バースは頼んだぞ。」


『お任せを。ショータ殿! ご武運を!』


白くぼんやりとした世界に、魔法灯や松明の灯の点滅がポツポツと数を増やして現れる。


わか。来ましたな。」


「アオダ、まずは向こうの兵の数を可能な限り減らすぞ。

弓の勇者は、彼らの中から新たに生まれ出る可能性がある。その可能性を、先につぶす。

足止め、頼んだぞ!」


「おうよ! 若、ワシに任せてくだされ。

その任務、老兵アオダが――命を賭してうけたまわる!」


目の前の湿原に、無数の松明たいまつ魔法灯まほうとうの灯りが並んだ。


「若! 行きますぞ!」


「《地変創造ちへんそうぞう》!!」


アオダのときの声が上がった。


数万、いや、数十万のシルヴァリス軍が足を踏み入れた広大な湿地帯の泥が、兵の足、騎兵の地竜ちりゅうを一斉にからめとる。


前方から聞こえる焦りの怒号どごう、地竜のいななき。


シルヴァリス軍の統制は崩れ、足は完全に止まった。


「どうだ!

その“泥の手”は、土塊や岩の捕縛よりも柔らかくまとわりつき、簡単には壊せない厄介な手だ!」

アオダが叫ぶ。


瞬間。

前方に三つの光がまたたいた。


「アオダ! 初撃、やはり! “弓の勇者”だ!」


超速で迫り来る巨大な炎龍が三体、巨体をうねりながら迫り来る。


「ミラ砲兵隊! 正面、ほのお! 来るぞ! 《黒球こっきゅう》撃てーーーー!!」

砲兵長の号令で一斉に二千の種子島が《黒球》を放つ。


コウブの力を備えた種子島の黒球は、進路の霧を消し飛ばし、襲い来る炎龍の身体を次々と削いだ。


「ミラ砲兵下がれ! ガンロ砲兵隊! 構え!」

シュテンが叫ぶ。


ミラ種子島隊は、一発限りの黒球用種子島を躊躇ちゅうちょなく捨て、後ろに下がる。


しかし、崩れ落ちる炎龍の背後から、追撃。

弓の勇者が放った矢は、鋭い角を持つ三体の水龍に変化した。


「ガンロ砲兵隊! 《氷弾》撃てーーーー!」

隊列を入れ替えた砲兵隊は、シュテンの叫びと同時に、“絶対零度ぜったいれいど”ヒキガの能力を得た種子島を放つ。


氷弾は、周りの霧を凍らせ再び前方の視界を晴らす。

そしてぶつかる水龍を瞬時に凍らせ砕いた。


「魔法弓兵!雷矢だ! 足が止まった歩兵を狙え!」

弓兵長の号令。

一万の魔法弓兵が、雷矢の雨を無数に降らせる。


しかし、弓の勇者が放つ炎龍が炎の渦を巻きながら天から降り注ぐ雷矢を次々と燃やし尽くす。


「正面! 空きましたぞ! 若!今です!」


俺は狙い澄まし、“月光の弓”を引き絞る。


「《月光げっこう》!」


白光を纏う矢がシルヴァリス軍の中央、左右へ分かれ飛ぶ。


白く輝く三条の鋭い光は、霧の隙間を切り裂き、

次の瞬間、シルヴァリス軍を一直線に貫いた。

眩い光が黄から赤に変色し、目の前の軍勢を焼き飛ばす。


「シルヴァリス歩兵、吹き飛びましたぞ!」

アオダが“泥の手”から伝わる感覚で数を把握する。


その時、一瞬。

前方シルヴァリス軍を別の光が包んだ。


(……違う。俺の《月光》じゃない)


「倒した数…、中央、右翼、左翼、それぞれ二万。一撃で六万の歩兵と地竜兵が吹き飛びましたぞ!」


「アオダ! まだまだだ! 弓の勇者はどうだ⁈

歩兵、あとどのくらい残っている⁈」


アオダは感覚を研ぎ澄まし、“泥の手”を探る。


「歩兵、まだ…三万以上! 弓の勇者は…生きている!まだ“泥の手”が捕らえている。

ん…、若! 何か新手が!

“泥の手”が捕らえていない何かが現れた!」


「《月光》!」

俺は追撃を放った。


その時、前方に巨大な“白い光の盾”が現れた。


「何だ! あれは⁈」

盾は月光の矢を受け止め、辺りは純白の光に包まれた。


「俺の《月光》が…。掻き消された⁈

シルヴァリスか⁈」


「若! 湿地帯に新手の兵が――百人ほど!

突如出現!

こ、これは、魔蝕人か⁈」


「魔蝕人! さっきの光の盾は…、ムシャカが言っていた魔蝕人の能力か⁈ 」


「ムシャカ、大丈夫だよな…。

俺は…お前を信じるぞ。」


ーーーーー


時間は少し遡り、シルヴァリス軍が霧の湿原に足を踏み入れた同時刻。


バースに巨大な光のドームが出現。

ファルネウス率いる三十万の蝕人兵が現れた。


メサイア謁見えっけんの間。

エルフィリアは祈っていた。


「ムシャカ…。

私たちバースを裏切らないでくださいね。

未来を救う道は、あなたが提示した策にこそあると信じていますよ。」


バースの前では、ファルネウスらを待ち構える形でノブナ、ランマル、ヒキガ、ツムリの四名が立っていた。


「よお! ファルネウス! 性懲しょうこりも無くまた来たのか⁈」

ノブナが大声で語りかける。


ファルネウスはノブナの声に反応する。


「ノブナ…。我らが来ることを読んでいたか? 

まあ、居所を知られていては落ち着いて眠ることも出来なかったであろう?」

ファルネウスは不敵な笑みを浮かべた。


「残念だな、ファルネウス。我らの中に、お前らごときにおびえる者は誰一人おらん。

毎日毎日、皆、快眠だ!」


「くっ! 相変わらず生意気な女だ…。

まあよいわ、シルヴァリス王がお前たちの軍とぶつかる今日!

我らがバースに攻め込むと考えるのは、当たり前のことだ。」


「そうだな。

お前らが今日ここに来ること、我らは読んでいた。

いや…。違うな…。

“知っていた”と言う方が正しいな。」


ノブナはにやりと笑みを浮かべた。


「知っていただと…? 何を戯言ざれごとを…。」


「ムシャカ! 教えてやれよ!

何も知らないこの爺さんによ!」

ノブナが叫んだ。


「ム、ムシャカだと…⁈」


「…ノブナよお。

ファルネウスのジジイをあんまりいじめるなよ。

…こんなに、困った顔をされると…

あたい、ワクワクしてくるじゃあないか!」


ムシャカは、角の生えた異形の蝕人たちの隙間を掻き分けて姿を現した。


「ムシャカ! お前は何を言っているのだ!」

ファルネウスの表情は引きっていた。


「んん?

あんたの困った顔があたいをワクワクさせるって言ったが…。聞こえなかったかあ?

ファルネウス!」


「ム、ムシャカぁ! お前は、私を馬鹿にしているのかあ⁈

戯言はもうよい!

さっさと魔蝕人どもを使ってバースを攻め落とせい!」


「ノブナあ!

約束通り、こいつらだけは置いていくぞ!

あたいは、シルヴァリスのところへ行く!

あとは、煮るなり焼くなり好きにしろ!」


「な、ムシャカ! どういうつもりだ!」


「あたいはね、ファルネウス。

惚れた男の亡骸なきがらもてあそばれて黙ってられないのさ。

あの忌々(いまいま)しい偽物のシルヴァリスを殺すために、あたいはバースと手を組んだ。」


「なんだとおーーーー!」

ファルネウスの怒号が谷底に響く。


「あっはっは!

マルヴァリウスの首が飛んだ時、あたいは嬉しかった!

そして、気づいた!

あたいの愛する男を悪魔に変えたお前らを!

あたいは、心の底から憎んでいたことに!」


ムシャカは、ファルネウスに近づいた。


「ぐっ! ム、ムシャカ…!」


ファルネウスが苦悶くもんの表情を見せる。

真紅の外套がいとうが腹の部分から黒く染まっていく。


「ムシャカ! 刺したのか⁈」

ノブナがつぶやく。


「ノブナあ…。

本当はお前らに譲ろうと思っていたが…。

すまないねえ…。

やっぱり我慢出来なかったわ。」


ムシャカの手に握られた短刀からファルネウスの血がしたたっていた。


「…ム、ムシャカあ…!

し、蝕人ども! こ、こいつを!」


ファルネウスが逆流した血を吐きながら、指揮棒を振る。


「無駄だよ、ファルネウス。

まだ見えるなら、その目を見開いて、しっかり見ろ。」

ムシャカはファルネウスの顔を蝕人兵に向けた。


「な、な…。

わ、私の蝕人どもが…。

に、人間に…戻って…いく…。」


蝕人兵が姿を現し、ノブナがファルネウスの気を引いた瞬間、ランマルとヒキガ、ツムリはすでに動いていた。


ランマルは蝕人だけを対象とした催眠の術を発動。蝕人たちは立ったまま眠らされていた。


蝕人の頭上高くに巻き上げられた魂還薬こんかんやくの氷針が更に上空に飛ぶツムリが放つ疾風に乗り、一瞬で蝕人たち全ての心臓を貫いていた。


「ファルネウス! 残念だったな。

蝕人たちを一箇所に集めてくれてありがとうよ。

おかげで、あっと言う間に魂還薬を投薬することが出来た!」

ヒキガが言い、ツムリと手をパチンと合わせた。


「こ、こ、こんな…ことが…。

わ、私は…。シ、シルヴァリスさ…ま…の、ね、願いを…。か…叶えたか…た

だけ…」


ファルネウスは息絶えた。


その死に顔は皺だらけで、

長老会首座であり、エルフィリアと政権を二分した指導者であった者とは思えぬほど、

悔しさに満ちた悲しいものだった。


「死んだか…。かつてはともに戦った仲だ…。

お前の亡骸はせめて…

シルヴァリスのいる戦場に、あたいが運んでやるよ。」


ムシャカはファルネウスの遺体を魔蝕人の一人に抱えさせた。


「ムシャカ。

あとは、魔王と弓の勇者だ。

我らはお前を信じる。

“魔王を斃す者”

我らの勇者を頼んだぞ。」


ノブナはムシャカに告げた。


ムシャカは小さく頷くと、光のドームに包まれる。

そして、百体ほどの魔蝕人とともに消えた。

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