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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十二章
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第二話 忠誠の在処

(魔王を殺すこと……だと⁈)

俺は耳を疑った。


「ムシャカ……。あなたは今、シルヴァリスを殺すと言ったのですか?」

エルフィリアが聞き直す。


「耳が悪いのか?

あたいは今、はっきり言っただろ。

“魔王シルヴァリスを殺す”ってな。」


謁見えっけんの間に漂うひりついた空気が、さらに冷え込む。

その場にいる誰一人として、言葉を失っていた。


――一体、この女は何を言っているのだ。


「エルフィリア女王。

面倒くせえ話は嫌いだと言ったろ。

あたいのやるべきことは、言葉の通りだ。

質問があるなら、聞いてやる。」


「では、単刀直入に聞きます……。

あなたが、シルヴァリスを殺したい理由は何ですか?」


「……あのシルヴァリスは、偽物だからだよ。」


「偽物……?」


「そうだ。

形は確かに、若き日のシルヴァリスだ。だが、中身が違う……。

奴には悪魔が混じっている。

あれは“魔王シルヴァリス”であって、

あたいが惚れた“賢王けんおうシルヴァリス”じゃねえんだよ!」


ムシャカは、真紅の外套がいとうのフードを跳ね上げた。

中年期後半のしわが刻まれた顔。

だが、エルフ特有の整った輪郭は失われていない。


その表情は、激しい怒りに歪んでいた。


「あなたは……シルヴァリスを愛していたのですね。」


「そうだ。悪いか?

あたいはシルヴァリスを愛していた。

だがな、悪魔に魂を売ってまで蘇るようなクソ野郎を、

好きになった覚えはねえ!」


ムシャカは歯を食いしばる。


「ファルネウスとマルヴァリウスは、

あたいの大切な思い出ごと、ドス黒い闇の力に売り払い、

踏みにじりやがったんだ。

……絶対に、許せねえ。」


「理由は分かりました。

しかし……あなたは長老会派の幹部。

これからどうするつもりですか?

この国への亡命を求めに来たのですか?」


「そんなことするか、ボケ。

あたいは今の立場を利用して、

この戦争を奴らの思い通りにさせねえ。

つまり――徹底的に、邪魔をしてやるってことだ。」


「邪魔……。

それは結果的に、私たちに加勢することになりますよ?」


「だから言ってるだろ?

あたいの目的と、お前たちの目的は重なってる。

だったら、そのために必要なことをするだけさ。」


「もう一つ、聞かせてください。

あなたはかつて、シルヴァリス王に次ぐ力の持ち主だった。

王のそばにいられるあなたなら、

魔王となった王を暗殺することも可能では?」


エルフィリアは、角の蝕人しょくじんに視線を向ける。


「瞬間移動が出来る、便利な蝕人もいるようですし。」


「あたいに、魔王をたおせる力があるなら……

とっくにやってるさ!」


ムシャカは、自分の手を睨みつけた。


「この手で、奴を殺せるならな。

だが、無理だ。

今のあたいには弓もねえし、

あれを使いこなせるほどの魔力は、もう残っちゃいねえ。」


ムシャカは、真っ直ぐにエルフィリアを見据みすえる。


「だからだ。

お前たちに――必ず魔王を斃してもらいてえ。

あたいが惚れた男の身体を、

悪魔なんぞに好き勝手使わせねえためにな。

……そのために、今日ここへ来た。」


「一つ、疑問があります。

先日の急襲の際、あなたは姿を隠し、

最後にファルネウスを止め、撤退の指示を出しただけと聞いています。」


エルフィリアは一歩も引かない。


「長老会の邪魔をすることが目的なら、

他にも方法はあったはず。

あの時のあなたの真意を、はっきり答えなさい。」


「あの日、あたいが同行した理由は二つある。

一つ目は――この蝕人の能力を使えるようにするためだ。」


「瞬間移動……。」


「そうだ。

最大で三キロ四方。

人も物も、瞬時に移動させられる。

ただし、移動先はこいつの“記憶にある場所”か、

“記憶にある人がいる場所”に限られる。」


(……化け物じみた力だ。)


「エルフィリア女王。

あんたの顔も、こいつは覚えた。

これからは、いつでもあんたのいる場所に来られるな。」


「なっ! 女王陛下!

やはり危険です!」

ノブナが叫び、ライラは斧を構えて前に出る。


「ライラ、下がりなさい。」

エルフィリアの一声で、ライラは構えを解いた。


(……ムシャカに殺気はない。

今は、まだ大丈夫だ。)

俺の、弓を握る手は汗ばんでいた。


「なるほど。

あの時は、バースの場所を記憶させるために来た。

では、二つ目は?」


「お前たちに、“魔蝕人ましょくじん”を斃せる力があるか、

見極めるためだ。」


「魔蝕人……?」


ムシャカは、角の蝕人を指差す。


ひたいを見ろ。」


「……弓で射抜かれたような、酷い傷跡ですね。」


「“魔王の指”を、脳に刺し込まれた跡だ。」


「指……⁈」


「魔王は潜在魔力を感じ取れる。

高い者を選び、次々と額に指を突き立てた。

力を分け与えるためにな。」


ムシャカは淡々と続ける。


「半分以上は耐えきれず消滅した。

だが、生き延びた者は角が生え、

再生の力と固有能力が覚醒する。」


「……あの金縛りの蝕人も、

五大属性の蝕人たちも……。」

ノブナが呟く。


「全部、魔王の力だ。」


場の空気が、さらに重く沈んだ。


「だがな……。

あたいは、そんな魔蝕人を消し去る者が、

本当にいるとは思ってなかった。」


ムシャカの視線が、俺に向く。

(まさか…⁈ バレているのか…?)


「白い炎を吐く天竜てんりゅう

あれは――異常だ。」


「……。」


「だから聞きてえんだ。

あの天竜と、弓の勇者を消し飛ばした者の話をな。」


「答える義理はない。」

ノブナが冷たく返す。


「はん……。

おい、そこの物陰。

強烈な殺気を向けてるお前だ。」


俺は柱の影から姿を現し、階下へと降り立った。


「……気づいていたのか?」


「最初からだ。

それと、もう一人。

見えねえが、女王のそばにもいるな。」


ヒキガが姿を現す。


「無駄だ、隠れてもな。」


「あの天竜を操っていたのは、お前か?」

ムシャカは俺を見て、迷いなく問いかけた。


「ああ。そうだ。なぜ分かった?」


「お前の気配と、あの天竜の気配が似ている。」


(気配…。そんなものを感じとれるのか?)


「弓の勇者を葬ったのは?」


「俺だ。」


「……魔王を斃せるのか?」


「予言では、俺は“魔王を斃す者”らしい。」


「ははっ!

予言か!

面白えじゃねえか!

さしずめ、魔王を斃す勇者殿ってことだな?」


ムシャカは豪快に笑った。


「なら、信じてやるよ。勇者殿…。」


ムシャカは、俺の手を掴んだ。


「良い手をしてるじゃねえか。」


「ショータ殿に、気安く触るな!」

ライラが声を荒げる。


「ショータ…。それが名か…。」


ムシャカは、ゆっくりとひざまずいた。


「あたいは敵国シルヴァリスの幹部ムシャカ。

だが、忠誠を誓うのは国じゃねえ。

この心だけだ。」


顔を上げ、真っ直ぐ俺を見る。


「惚れた男を奪われた。

だから、その魂と身体を天にかえしたい。

ただ、それだけだ。」


「勇者ショータ殿。

お願いだ。

魔王を……必ず殺してくれ。」


「信じろとは言わねえ。

だが、あたいはシルヴァリス王国の内部から、

徹底的に掻き乱してやる。

決して、お前たちの邪魔はしない。」


俺は――

ムシャカの言葉に、一点の曇りも感じなかった。

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