第十二話 白光の真実
バースに戻った移動型王城メサイアでは、緊急の軍議が行われていた。
謁見の間には、言葉を選ばねばならぬほどの緊張が満ちていた。
「女王陛下。
ムシャカとは、一体、何者なのです?
あの女から感じられた、ファルネウスとは異質の禍々しい気配…。只者ではなかった……。」
ノブナが問う。
「ムシャカ…。まさか、あの者が表に出てくるとは…。
ーー《風来のムシャカ》。
あの者の二つ名です。
型に嵌らず…自由気まま。
まさに風のような女と聞きます。
面倒なことには顔を出さず、長老会派であることは聞いていましたが、ムシャカが表に出た話など今まで聞いたこともありませんでした。
……私も、ほとんど把握していないのです。」
エルフィリアは申し訳なさげに答えた。
「しかし、四人の“弓の勇者”の中で、最強の勇者だったと…。国民の中では今も語られていますぞ。
その実力は王に匹敵するほどの力だったと。」
バルドランが付け加える。
「シルヴァリスに匹敵する力…。
その話だけで十分だ。やはり、警戒が必要な敵であることは間違いない。」
ノブナは腕を組み、天井を見上げた。
「“バース軍の戦力の分散”。
これがシルヴァリス王の狙いだったのであれば、俺たちは完全にしてやられたことになる。」
「ショータ殿の言う通りだ。
最後にムシャカが現れたことで、我らはシルヴァリスとムシャカ、この二つの脅威に備えねばならぬ…。」
ノブナは魔法鏡に呼びかける。
「オウル。シルヴァリスの動きはどうなっている?」
「はい。ガンロを目指しゆっくりと進軍しています。到着まであと三日ほどかと。」
「今は、次の動きが見えないムシャカの方が厄介だな。
最後に現れた“角の蝕人"…、あれは危険だ。
あの光のドームの中で一斉に消えた軍…。
逆に考えると、あの光で一瞬で現れることも出来ると言うことを考えておかねば…。」
(たしかに。俺もムシャカの言葉を覚えている)
「ムシャカは言っていた。
“もう、いつでもここを狙える”と。」
「いつ来るか分からない…シルヴァリス王に匹敵する力を持つ敵、ムシャカ…。
それに加え、まだまだ全貌がわからない“角の蝕人”たちか…」
ライラの表情がいつになく硬い。
「悔しいが…シルヴァリス王の作戦、見事としか言いようがないな。」
ヒキガの顔も悔しさが滲んでいた。
「だが、今回の襲撃で唯一の収穫があった。
ショータ殿の新たな力の覚醒だ。」
ノブナは、俺を見つめる。
「その力、詳しく教えて欲しい。
僕の新兵器開発に活かせるかもしれない。」
ハクが身を乗り出す。
「簡単に言うと、俺は――星牙と意識を共有できるようになった。」
「意識の共有って、どう言うこと?」
「星牙の仲間を助けたいと言う想いが、俺に“共鳴”したのがきっかけだと考える。
俺の意識に星牙の意識が突然繋がったんだ。」
「ショータが突然意識を失った時ね。」
リアナが言う。
「うわごとの様に、バースや、ノブナたちの名を呼んでいたな。」
ライラも当時を振り返る。
「俺は混乱した。
だけど、意識が交わるほど、星牙との距離が近くなりお互い会話をすることも出来た。」
「天竜と会話したのかい⁈ そんなことが?」
ハクが驚いたように言った。
周りの皆も騒ついている。
「星牙は俺を信じていた。
あとは俺が星牙を信じ、お互いに意識の交わりを受け入れることが出来た時、俺は“星牙になれる”と教えてくれた。」
「そして、ショータさんは星牙を信じ、星牙そのものとなりバースの戦場を駆け抜けた。
やはり、そうか…。なるほど…。」
ハクは何かに気付いた様子を見せた。
「何か役に立ちそうか?」
「うん。僕の推測は間違っていなかったようだ。
でも…、残念だ。」
ハクの言葉に一瞬、場が静まる。
「ショータさんの白光の力を使える新兵器開発は…諦めてください。
…僕には作れない。」
謁見の間だけでなく、魔法鏡にもどよめきが疾る。
「ハク! なぜだ。お前が諦めるなど…!」
ノブナは叫んだ。
「僕は、五大属性の力や、あのコウブの力《黒球》でさえも使える“種子島”を開発した自負があった。」
ハクの声に、皆、耳を傾ける。
「でも、ショータさんの白光の力は特別だ。
あれは、誰もが扱える力であってはいけない。」
「コウブの力も、誰もが使えるものじゃないだろう? それと何が違うのだ?」
ノブナが問う。
「ショータさんが白光の力を使うために媒介としているもの。
“エルフの弓”と、“星牙”。
今はこの二つだ。
僕は、エルフの弓を徹底的に調べてみた。」
ハクの言葉が一瞬詰まる。
「…ここに、僕には作れない魔法具の秘密があったんだ。」
「魔法具の秘密? 魔法具は潜在の力を引き出す道具だと聞いたが…。」
ヒキガが質問する。
「普通の魔法具はそうだ。僕の種子島もその理屈で作られている。」
ハクは小さく頷き、説明を続ける。
「例えば…。
焔や雷、コウブの《黒球》の力の源を種子島自体に埋め込む。
これは僕にとっては難しいことではない。」
ハクは椅子から立ち上がる。
「みんなが種子島の引き金を引くことで、増幅された強力な力が一気に放出される。
簡単に言えば、兵器としての魔法具は、こういう仕組みだよ。」
「その仕組みに“エルフの弓”は当てはまらないのか?」
俺は尋ねた。
「そう。当てはまらないんだ。
エルフの弓はマルダ様が作った魔法具。
この中に、僕には解析が出来ない機構が組み込まれていた。」
(そうだ。エルフの弓の開発者はマルダだ。ハク以上の魔法具を作っていてもおかしくない…。)
「それが、今、分かったんだよ。
“共鳴”の機構であることがね。」
「共鳴の機構?」
「うん。
種子島にももちろん、使用者の潜在力の大きさで破壊力が大きく変わる機構が組まれている。」
ハクはノブナを見つめる。
「ファルネウスたちが、拾った種子島を大砲にしても、ノブナほどの威力が出せなかったのは、使用者の潜在力の違いだよ。」
ノブナは理解を示し頷いている。
「でもね、エルフの弓はそういう物ではないんだ。」
場が静まる。
「おそらく…、エルフの弓自体が《意思》を持っている。」
場が再びどよめいた。
「魔法具が《意思》を持っているだと?」
俺は驚いた。
「ショータさん、エルフの弓を使う時と、今回の星牙、似たような感覚はなかった?」
「あった…。あの意識が交わり一つになる感覚。」
「それが“共鳴”だよ。
ショータさんの意識と“エルフの弓”の意識が一つになり、あの白光の力は放出される。」
「俺が月光の弓と繋がっていたというのか?」
「そう。
エルフの弓も、星牙と同じくショータさんを信じ、ショータさんも弓を信じ受け入れる。
つまり、ショータさん自身があの弓と一体になってるということなんだ。」
「俺が月光の弓と一体に…。」
「そうか…。
つまりは、ショータ殿の白光の力の源を組み込んだ種子島を作ったとしても、“共鳴機構”を作れなければ力を放出できないという訳か。」
ノブナは言った。
「そんな感じだけど、正解ではない。
そもそも、白光の力そのものが、“ショータさんとエルフの弓”、“ショータさんと星牙”の共鳴で生み出されているというのが正しい。」
ハクは皆を見渡し、続けた。
「だから、僕には…。
あの力をみんなが使える兵器なんて、作ることが出来ないんだ。」
弓の勇者を倒すことが出来る白光の力。この力を備えた新兵器の夢が絶たれ、議場に暗い空気が漂う。
「ハク。みんな…。
役に立てなくて、すまない。」
俺は頭を下げた。
「ショータ殿。いや、これで良かったのだ。
我は星牙が吐く白炎の力を目の当たりにし、思った。
この力は、“世界を滅ぼす力にもなり得る”と。」
ノブナは拳を握りしめ、続ける。
「ハクが言った通り…。
白光の力は、誰もが扱える力であってはいけないのだ。」
「シルヴァリス王が使う白光の力も、彼のエルフの弓と共鳴しているのでしょうか…?
それとも“魔王の力”で、エルフの弓の意思すらも制圧したのでしょうか…。」
エルフィリアは苦悶の表情を見せる。
「どうであれ、世界を滅ぼす力をシルヴァリス王に持たせておく訳にはいかない。
ムシャカの動きに警戒しつつ、シルヴァリスとの決戦に向けて策を練るぞ。」
ノブナの熱く燃える瞳が、俺の心に再び炎を宿す。
大いなる力を持つ者の責任を、今、俺は感じ始めていた。




