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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十一章
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第八話 不殺の睡陣

「急げ!ラビット!

蝕人しょくじんとランマルは相性が悪すぎる…。

蝕人の正体を知っているランマルは……自分の優しさに足をすくわれるかもしれん!

耐えるのだ! 我が息子よ!

今! 母が行くぞ!」


ラビット到着まで、あと三十五分。


ーーーー


「ランマル様! もう使える種子島たねがしまがありません! 予想より持ちません!」


兵長の叫びに、通路を震わせる咆哮ほうこうが重なる。


「兵長! よく耐えた!

あと半刻はんときは……僕が!」


ランマルは一歩前へ出ると、いんを結び、両腕を胸の前に大きく伸ばした。

てのひらを蝕人兵へ向けた瞬間――


瞳が、あおく燃え上がる。


「《睡陣すいじん》!」


ランマルの掌の先、バースの入り口までの空間が歪み、揺らぎの波動が疾走する。


迫り来る蝕人兵の動きが、ぴたりと止まった。


まるで時が凍りついたかのように、蝕人たちは立ったまま眠りへと落ちていく。


「……ぬぅうう……!」


ランマルの喉から、低いうめきが漏れた。


「エルフや人間を抑えるのとは……訳が違う……!

少しでも気を抜けば……術が、解ける……!」


伸ばした両腕が、はっきりと震えている。

額から一筋、汗が頬をつたい落ちた。


「ランマル様! 後続の蝕人兵が、隙間を――!」


「……はあああっ!!」


歯を食いしばり、気合を込める。

揺らぎの波動がさらに強まり、抜けかけた蝕人兵の動きも、再び停止した。


「す、すごい……!

通路が蝕人兵で埋まっていきます!

もう、後続が入り込む隙間すらありません!」


眠りに落とされた蝕人兵が、壁のように積み重なっていく。


「このまま……持ちこたえれば……!

ヒキガさんとツムリさんが……きっと……!」


息を整える余裕すらなく、ランマルは続けた。


「あと、半刻後……この蝕人たちは……必ず、人間に戻る……!

その時のために……戻った人間たちの、回収準備を頼む……!」


「了解しました! ランマル様!」


兵長は即座に指示を飛ばし、兵たちは動き出す。


「くっ……頼むぞ……僕の力……!

母さんたちが、来るまで……!」



バース入口。


蝕人の進軍が、完全に止まっている。


「……おい、マルヴァリウス。

蝕人どもの動きが、止まったぞ?」


僅かな高台から谷底を見下ろし、ファルネウスが面白そうに口元を歪めた。


「すぐに確認を。

おい! そこの者! 入口の様子を見てこい! 急げ!」


「……窮鼠きゅうそは猫をむ、か。

油断は禁物だな」


しばらくして、衛兵が息を切らし戻ってくる。


「ファルネウス様!

入口から先に入った者……すべて、眠らされております!」


「眠らされている、だと⁈」


マルヴァリウスが声を上げる。


「……なるほど」


ファルネウスは、静かに笑った。


「エルフィリアを奪われた時と、同じ術だな」


「では……あの時の、広域催眠を?」


「いや……少し違うな」


ファルネウスは、谷底の入口を見下ろす。


「あの時は王城全域。

だが今回は……入口までの、限られた範囲だけだ」


「……確かに。入口の外に本隊が控えていると分かっているのに…。なぜでしょうか?」


「答えは簡単だ」


冷たい声音。


「対象が“蝕人”だからだ。

異質な力を持つ化け物相手では……

あれが、限界なのだろう」


「なるほど……!」


マルヴァリウスが感嘆する。


「ならば……どうなさいますか?」


「決まっている」


ファルネウスの目が、細く光った。


「待てば、策を練られる。

攻めるなら――“今”だ」


低く、吠える。


「マルヴァリウス。

“あれ”を準備しろ。今すぐだ」


「はっ!」


マルヴァリウスは駆け出した。


ファルネウスは、眠りに落ちた蝕人兵の群れを見下ろし、わらう。


不殺ころさずの術か……その優しさが、命取りになる。

そんな術で――

我らが止まると思うなよ」

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