第六話 もう一つの道
地底都市バース。
侯爵・ランマルは、突如襲いかかった脅威に冷静さを失っていた。
「ランマル卿! バースの入口が完全に破壊されました!」
「馬鹿な……!
ここの結界は薄いとはいえ、ハク様が造った魔法結界だ!
それを、いとも容易く破るとは……!」
ランマルは歯を食いしばり、叫ぶ。
「僕が止める!
バースの中には入らせないぞ――“蝕人兵”ども!」
⸻
メサイアに戻って二日目の朝。
俺は新兵器開発のため、訓練場にいた。
簡易的に設置された研究ブース。
ハクの指示を受けながら、完全復活したライラと共に、実戦形式の実験を行っていた。
その時だった。
研究ブースに設置された魔法鏡が、けたたましい警告音を鳴らす。
「ショータさん!
実験は一時中止! すぐブースに来てください!」
ハクの声に、胸の奥がざわつく。
――嫌な予感しかしない。
⸻
「メサイア! 応答願います!
“王都バース”より緊急連絡!
直ちに魔法鏡を接続してください!」
軍議の準備を進めていた謁見の間にも、同時に緊急通信が割り込んだ。
「こちらメサイア、ノブナだ!
バース、何が起きた!?」
「しょ……蝕人が!
蝕人兵の大群が侵入しています!」
「蝕人だと!?
どこからだ!」
「女王陛下奪還時、シルヴァリスへと繋がっていた地下道です!
奴ら……あの道から、バースへ雪崩れ込んできました!」
「あり得ん……!」
ノブナの声が強張る。
「あの地下施設はすべて埋め戻し、証拠も完全に破壊した!
仮に痕跡が見つかったとしても、
あの地下深くへ通じる竪穴を――シルヴァリスの技術力で掘り抜くなど、不可能だ!」
「ノブナ公!
しかし事実です!
奴らはすでに結界を破り、侵入を開始しています!
ランマル様と兵が、広場へ通じる通路で必死に食い止めていますが……長くは持ちません!
至急、増援を!」
一瞬の沈黙。
「……メーガン。
メサイアを、直ちに王都バースへ向かわせろ!」
操縦室の魔法鏡が繋がる。
「すでに起動中です!
現在地はライレンとの境界付近。
バース到着までは、早くとも三時間!」
「間に合わん……!」
ノブナは即断した。
「“ラビット”で私が出る!」
「私も行く!」
「俺もだ!」
訓練場から、俺とライラが声を上げる。
「駄目だ!」
ノブナが即座に制した。
「ショータ殿は新兵器開発を優先せよ!
もはや何が起こるか分からん!
ライラはエルフィリア様の側に残れ!」
その時、食堂に繋がる魔法鏡が光る。
「ノブナ様!
わ、私とヒキガさんが行きます!」
ツムリの必死な声。
隣でヒキガも、強く頷いている。
「蝕人なら……!
私たちなら、人間に戻せます!」
「ラビットは即時出撃可能!
魂還薬も積み込み済みです!
不足分はバースの備蓄を使用できます!」
「ツムリ! ヒキガ!
任せた! 行くぞ!」
⸻
メサイアのハッチが開き、三人が搭乗したラビットのキャノピーが閉じる。
「最大出力で射出します!
ラビットなら、バースまで一時間もかかりません!」
「やれ、メーガン!」
「発射――!」
射出の瞬間、ラビットは最大速力へと跳ね上がる。
時速三百キロを超える加速。
「うぉおおおおお――――!!」
凄まじい圧が、三人を座席へ叩きつけた。
「待ってろ、ランマル!
必ず行くぞ!」
ノブナの叫びが、機内に響き渡る。
⸻
一方――
シルヴァリス軍は、ジュラでの略奪を終え、ガンロへと進軍していた。
シルヴァリス王と“弓の勇者”は地竜に跨り、歩兵の進軍速度に合わせ、岩山を進む。
「……妙だな。」
シルヴァリス王が低く呟く。
「ジュラの兵ども。
ガンロへ敗走したかと思ったが……足跡一つ残っておらぬ。」
王は振り返り、弓の勇者たちに問いかける。
「お前たちも、そう思わぬか?」
――返事はない。
「……つまらぬ。」
吐き捨てるように言う。
「話し相手にもならぬ。
これでは情も湧かぬな。
……どうせ使い捨てよ。」
王は嗤った。
「さて……。
ジュラ兵が完全に消えたとなれば――
ファルネウスらに行かせた“もう一つの道”。
当たりだったかもしれんな。」
「ふ……ふははははははは!」
岩山に、哄笑が反響する。
「エルフィリア……!
貴様の驚く顔が、目に浮かぶわ!」
⸻
「……シルヴァリス王。」
エルフィリアは、遠く離れた敵の動きを感じ取り、わずかに眉を寄せた。
「あなたの先見は……衰えるどころか、ますます冴え渡っているようですね。」
一瞬の焦り。
だが、それを覆い尽くす確信があった。
「けれど……バースの精鋭を、甘く見ないことです。」
彼女は静かに、しかし確かに言い切る。
「彼らは必ず、戦いの中で活路を見出す。
――必ず。」




