第四話 大いなる撤退
緒戦、ジュラの門はヒキガの氷塊とジュラの精鋭兵に守られていた。
俺たちが“弓の勇者”との死闘に集中している間に、脇道をすり抜けてきた重装歩兵や弓兵が、想定以上の数で進軍していた。
ヒキガはジュラ兵とともに、必死でこの侵攻を食い止めていたのだ。
しかし、ライラとツムリが傷つき、俺たちは一時撤退を余儀なくされた。
俺は仲間の力を持ってしても、シルヴァリス軍に押され続けた自分を責めながら、ジュラ城塞内部へと戻っていた。
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「防壁外にいたジュラ兵は……」
ヒキガが静かに告げる。
「残念ながら、飛び越える脚力がある者以外は、門が閉ざされたため戻れず……討ち死にです。」
「くそっ……! 俺の力、全く奴らに届いてなかった……!」
拳を握りしめた俺に、ヒキガは首を振った。
「いや、ショータ殿の力で“弓の勇者”を倒せたのです。
足りなかったのはむしろ……俺たちだ。ライラも、ツムリでさえも、とどめをさせなかった……。
奴らが強すぎるのです。」
項垂れるヒキガ。
その横で、ライラの治癒にあたるリオンが顔を上げた。
「二人とも、戦いはまだ始まったばかりだ。ライラが命を張ってお前を守ったんだ。ショータ、泣き言は早いぜ。」
「リオン……すまない。ライラを……必ず救ってくれ。頼む。」
血の気を失ったライラの手を握りしめ、俺は絞り出すように言った。
リオンは小さく頷く。
「ショータ。あと少し遅れていたら、オイラにも治癒は出来なかった。しかし、微かに脈が残ってた。
だから必ず治す。安心しな。」
「……本当にありがとう、リオン。お前がいてくれて良かった。」
ヒキガが苦い声で言う。
「しかし……シルヴァリス軍の強さは想定を遥かに越えています。
このままでは、張り直した魔法結界も、すぐに破られるでしょう。
ライラは復活に時間が必要……ツムリもあと一刻は動けません。」
その時――魔法鏡が揺らめいた。
「ショータ様、オウルです! お伝えしたいことが!」
「どうした!」
「弓の勇者が……復活しました!」
「……なんだと!? 奴らは俺が完全に消し飛ばしたはずだ!」
「どうやって復活したのか……現場は確認できませんでした。
ただ、攻撃が一瞬止んだ隙に上空へ接近したところ……
シルヴァリス王の前に“弓の勇者”が立っていたのです。」
「そんな……奴らがもう一度!?」
ヒキガの顔に焦りが走る。
オウルが続ける。
「ショータさん。確認した“弓の勇者”は……先ほどの三人とは明らかに別人でした。
装備も、歩兵のもので……。」
「歩兵……? まさか……」
ヒキガが息を呑む。
「歩兵から“弓の勇者”を作り出した……というのか?
それが可能なら……いくら倒してもキリがない!」
魔法鏡が切り替わり、シュテンの姿が映る。
「話は聞いていました!
ショータ殿! ライラ、ツムリが動けないのなら――ジュラは放棄するしかない!」
「魔法結界はあとどれくらい持つ!」
「持って一時間と半刻!」
ヒキガが答える。
「その間にジュラから撤退を!
そのための昇降室だ!
生き残った兵も、あなた方も、いったんバースに逃げてください!」
今度はノブナの声が響く。
「ショータ殿! 敵戦力の分析は非常に貴重だ。
それに! 魔法結界を破られたら、今は姿を見せていない蝕人兵が雪崩れ込む可能性もある!
そうなると今のジュラでは到底防ぎきれん!
すでに“メサイア”をジュラ近くへ移動している。
今すぐ撤退を開始せよ! 作戦を練り直す!」
「分かった!
リオン、ライラの治療は続けろ。俺とヒキガでベッドごと運ぶ。
ツムリは……ジュラ兵、お前たちに頼む!」
「任せてください!」
俺は迅速に指示を出し、撤退準備を開始した。
魔法鏡の向こうでは、ノブナがさらに指示を飛ばす。
「シュテン卿!
シルヴァリス軍との“次の戦い”まで時間を稼ぎたい!
ガンロ、ミラ、ライレンの兵を集め、総力で敵を足止めしつつ――
地の利を最大限に活かせる場所へ陣を引け。
そこが我らの“逆転の戦場”となる!」
「それなら良い場所がある!
レキル!聞こえたか?」
シュテンが頷き、背後に声が響く。
「レキルだ。私は問題ない。だが、ガンロとミラは大丈夫なのか?」
「アオダだ。
レキルよ、あの場所ならば勝機がある。何の問題があろうか?」
「よし!頼むぞ。
我はショータ殿から情報を得る。次の戦までに作戦を練るぞ! 逆転の戦は、お前たちの手腕にかかっている。」
ノブナの声は、揺るぎなかった。
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城壁の外では、シルヴァリス軍の結界破壊攻撃が激しさを増していた。
轟音と振動がジュラ全体を揺らす。
その中で――
俺たちは、“大いなる撤退”を開始した。




