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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十一章
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第三話 蘇る弓の勇者

シルヴァリス軍が進軍を開始して二日。

ジュラの目前、密林の奥から地響きのような足音が迫ってくる。

湿り気を帯びた風が、兵たちの肌にざわりと不吉な気配を運んだ。


「ついに来たな……」


防壁の上で、ライラが低く呟く。


「ツムリ……いよいよだ。頼んだぞ」


俺は眼下に広がる陣を見下ろした。

小柄な身体に武具を固め、臨戦態勢に入るツムリを中心に、ジュラ軍が静かに息を潜めている。


――ジャーン! ジャーン! ジャーン!


砦の銅鑼どらが響き渡る。


「撃てーーーーーッ!」


門前の兵たちの“種子島たねがしま”が一斉に火を噴いた。

未開の渓谷を越えて唯一ジュラへ続く自然橋。その細い導線へ雪崩れ込むシルヴァリス兵の先端に、真紅の火線が走る。


爆音とともに前衛が吹き飛ぶ。


「す、凄まじい! 一撃で二千は沈んだぞ! これなら橋で食い止められる!」


兵長の声に歓声が上がる。


だが、ライラは鋭く目を細めた。


「いや、甘い。今のは斥候せっこうだ。本隊は――次に来る」


種子島の煙の向こうで、三条の稲光が咆哮ほうこうした。

閃光が一瞬で三百の砲兵を貫き、焦げた匂いと悲鳴が風に乗って渦を巻く。


「《鎌鼬かまいたち》ッ!」


ツムリの鋭風が稲光の中心へ飛ぶが、切り裂かれたのは大樹だけだった。

敵はまだ森の奥だ。姿を見せない。


俺は“月光の弓”を構え、閃光の中心へ狙いを定める。

心を研ぎ澄まし弓を引く。三本の光矢が現れる。


「姿を見せろッ!」


炎を宿した光矢が龍となり放たれた。

だが――森の奥から三頭の水龍が舞い上がり、炎龍を呑み込む。


「な……俺の矢が消えた!?」


「ショータ殿! あれは――“弓の勇者”だ!」


ライラの叫びが戦場を震わせた。


「防壁兵、一斉砲火! 撃てーッ!」


橋に現れた三人の騎士へ向けて火線が集中する。

しかし――。


煙が晴れる。


三つの影は、不死の亡霊のように立ち続けていた。


「そんな……砦を砕く威力だぞ……?」


「……人間じゃ、ないのか……?」


恐怖が兵の喉を凍らせる。


次の瞬間、三人が天に向け弓を引いた。

無数の氷矢が空へ昇り、防壁へと降り注ぐ。


ツムリが舞い上がる。


「《風翁ふうおうの盾》ッ!」


小柄とは思えない風圧。

透明な風輪が氷の奔流ほんりゅうを弾くが、それでも兵の半数が倒れた。


続けて豪火の矢が“ジュラの門”へ降り注ぎ、炎が渦を巻く。


「まずい! 《局雨きょくうごう》ッ!」


ヒキガの豪雨が火炎を飲み込み消す。


「ショータ殿! 歩兵どもが押し寄せてきたっ! “弓の勇者”、奴らを止めねば!」

ライラが叫ぶ。


(奴ら……俺の炎龍を容易たやすき消した……

やはり、コウブを消し去った白光の矢でないと…。撃てるのか……俺に…。

いや、やるしかない!)


「ツムリ! もう一度、俺の前に“風の盾”を!」


「は、はいっ! 任せてください!」


「ライラ! 一瞬で良い! 奴らの注意を散らしてくれ!」


「ああ、任せろ!」


「ヒキガ! 門を氷で塞げ! 歩兵どもを一歩も通すな!」


俺は防壁から飛び降りた。


「ま、待て! ショータ殿!」


ライラが飛び降りてくる。


「お、驚いた……

ショータ殿、いつの間にこんな高さから……」


「今は驚いてる場合じゃない。あの化け物を倒すんだ。」


「そうだった。ショータ殿は、いつも戦いを通じて強くなるのだな。」


視界が開ける。

橋の中央――三人の騎士がはっきりと見えた。

弓を構えている。


「ツムリ、来るぞ!」


光が閃く。


「《風翁ふうおうの盾》ッ!」


風輪が雷矢を受け、雷鳴が轟く。

ツムリの小柄な身体が震えながらも支え続ける。


その横で、ライラが疾駆しっくする。


「こっちを見ろ、化け物ども!

爆苦無ばっくない》ッ!」


分身とともに三方向から襲いかかる。

苦無くないぜ、血飛沫ちしぶきが舞う。


だが、まだ死なない。

騎士たちは剣を抜き、ライラへ斬りかかる。


「今だ! 消し飛べ!」


俺の白矢が弧を描く。

光の矢が三人の鎧を貫く。


「その矢は簡単に抜けないぞ。」


白い光が輝きを増し黄色から赤へと変わる。

騎士の二人は瞬時に焼け散った。


ただ一人だけが、生き残る。


「浅かった……!

無意識にライラを守り、威力を弱めてしまったのか……!」


「ショータ殿! こいつ! 傷が塞がっていく!」

ライラが叫ぶと同時に飛びかかる騎士。


剣が唸る。


「くっ…何という力! 膂力りょりょくさえも上回るか!」


ライラは大斧で防ぐも、弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。


「《颶風ぐふうかん》!」

ツムリの風牢が騎士を捕える。


「今のうちに!」


ライラが跳ぶ。


「《火遁かとん大爆炎竜だいばくえんりゅう》ッ! 父から受け継いだ奥義だぁ!」


巨大な炎竜が騎士を飲み込む。


「ショータ殿! とどめを!」


白く輝く矢。準備は出来ていた。

「今度こそ!」

矢を放つ――だが。


巨大な白光の矢が、俺の矢を相殺した。


「な、なんだと⁈」


ツムリが指差す。

「シ、シルヴァリス王だっ!」


閃光。


「《分身・守護の陣》ッ!」

「《風翁の盾》ッ!」


風の盾が豪雷を受け止める。

だがいかづちの矢は止まらない。

ライラのはがねの分身が次々に砕け散る。


「ショータさん! 逃げてぇ!」


稲妻が迫る。


――逃げられない。


その瞬間、雷を纏う大斧が雷光を受け止めた。


「ライラ!」


「諦めるのは……まだ早いっ……!

雷で押し負ける訳にはっ!!

雷撃斧らいげきふ》……跳ね返す……ッ!」


ライラが雷光を跳ね飛ばす。


ツムリが叫ぶ。


「ショータさん! 上! まだ生きてる!」


ライラの巨大炎龍に喰われた騎士が、傷を再生し弓を構えて落ちてくる。


ツムリが跳ぶ。


疾風しっぷう奥義――

煌風穿刃こうふうせんじん》ッ!!」


天を裂く閃風。

ツムリの刃が騎士の胸を貫く。


「ショータさん……再生する前に……!」


気力を使い果たしたツムリが落下する。


「うおおおおおっ!」


三本の光矢が放たれ、白光が騎士を貫く。

眩い光が黄から赤に変色し、最後の弓の勇者を焼き尽くした。


だが。


シルヴァリス王が放った更なる炎龍が俺を襲う。


(くそっ! 避けられない!)


「ショータ殿ーーー!《鋼化こうか》!」

ライラが捨て身で走り寄る。


「《氷壁ひょうへき地走ちばしり》ッ!」


氷が走り、俺の前に壁を作る。

だが大炎はそれを砕いた。しかし、俺は無事だ。


「ショータ殿…無事か? 鋼化こうかしても…この様だ…。だが…ヒキガ……お前のおかげで……私は……」


ライラは気を失った。


「ライラーーー!」

ライラの腹には大穴が開き、焼けただれていた。だが、まだ息がある。


「ショータ殿! 遅くなってすみません!

俺は一刻を争うライラを運びます!

ショータ殿はツムリを頼みます!

彼女も、もはや限界だ。

一旦、要塞へ退避しましょう!」


ヒキガがライラを抱え、門前の敵軍を吹き飛ばしながら後退する。


俺は、気力が尽きてもなお敵軍を薙ぎ倒すツムリのもとに走る。

ツムリは俺の腕の中で気を失った。


(畜生! なんてことだ! 俺の力はこんなものなのか⁈)

俺は退却しながら、不甲斐ない自分に怒りを覚えていた。


こうして――

緒戦しょせんはシルヴァリス軍の“弓の勇者”によって、完全に出鼻をくじかれる形となった。


ーーーー


シルヴァリス王は、自然橋の上を静かに歩む。

その背後には歩兵・重装兵が続々と進軍していた。


「ふむ……三張目はここにあったか。」


手には、落ちていた三張のエルフの弓。


「一人……気になる力を持っていたな。

エルフの弓――リオレウスの弓か」


三張を地面に並べる。


「しかし、あの白光……我と同じ力。

威力は足下にも及ばんが……面白い。

あれを連続で撃てる人間など、放置できぬ」


「歩兵ども、足を止めろ!

力に自信ある者、前へ!」


立ち並ぶ歩兵の額へ次々と手をかざし、三名を選び出す。


「恵まれた体格と潜在魔力に感謝するがいい」


シルヴァリスの指が歩兵の額に突き刺さる。


周囲は恐怖で動けない。


われが力を分け与える。

今より――魔王の忠実なる臣下、“魔人”となれ」


歩兵の瞳から光が抜け一瞬意識を失う。そして、赤く染まった瞳がゆっくりと開く。


「お前は、新たな“弓の勇者”だ」


三人すべてが同じ儀式を受けた。


こうして――

“三人の弓の勇者”が、再び蘇る。

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