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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十一章
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第二話 開戦の地鳴り

シルヴァリス王国の辺境都市ルミエール。

かつて旅人の疲れを癒やした老舗温泉宿“星泉閣せいせんかく”は、今では緊迫した空気を帯びる前線の駐屯地ちゅうとんちへと姿を変えていた。


春空を切り裂くように、一羽の伝書鳩でんしょばとが王都から一直線に飛来する。

本来は柔らかな羽音を残すはずの翼さえ、どこか鋭い戦の気配を帯びていた。

鳩は宿の屋根へ舞い降り、兵がそれをつかみ取ると、絶対王ぜったいおうシルヴァリスのもとへ駆け込む。


「陛下! ファルネウス様より急報!」


シルヴァリスは赤みを帯びた瞳を細め、一通の手紙を受け取った。

巻紙に触れた瞬間、場の空気がひやりと沈む。


「……ふむ。予定通りだな。あやつら、無事に動いたか。」


低く静かな声。

だがその奥から、押し殺された喜悦きえつがじわりとにじんだ。

王の口端が、ゆっくりと歪むように上がる。


「ふふ……ふふふ……。

人間ども――そして、エルフィリア。

我が王国を愚弄ぐろうし、我に逆らった罪……

この世界の果てだろうと、逃れられると思うなよ。」


絶対王の笑みは、わらいとも狂気ともつかぬ形で刻まれる。

シルヴァリスが立ち上がった瞬間、その身から放たれる重圧が、駐屯地の空気を丸ごと押し潰すように広がった。


「シルヴァリス軍よォォォ!!

進軍開始だァァァーーーーッ!!」


雷鳴のような咆哮ほうこう

次の瞬間、兵たちの雄叫びが波紋のようにルミエールを覆い尽くす。

城壁は震え、街路の石畳までもが共鳴し、春の柔らかな気配は跡形もなく吹き飛ばされた。


――そして、世界はついに混沌こんとんの幕を開く。


――――


ルミエール上空を旋回するオウルの映像は、

バース各都市に設置された魔法鏡へ瞬時に伝えられた。


かつて黒梟くろふくろうの“はじまりの地”と呼ばれた谷底の都市群。

そこはすでに、第三国家バースの中枢を担う王都へと生まれ変わっている。


地底都市――王都バースの謁見えっけんの間。

各地の要人ようじんが一堂に会していた。


「女王陛下。シルヴァリス軍の進軍が確認されました。

軍勢は、予想どおりジュラへ向かっています。」


ノブナが報告し、エルフィリアが続きを問う。


「ジュラは、今どのような状況ですか?」


魔法鏡に映るジュラの拠点。その中にツムリが姿を現す。


「ジュラ侯爵マーキス、ツムリがお答えします。

現在、我々は五万の兵を配置し、シルヴァリス軍を迎え撃つ準備を整えています。

この地の漏斗ろうと状の地形を最大限に活かし、敵を削ぐ作戦を進めております。」


「うむ。その戦い方が定石じょうせきであろう。」

ノブナが静かにうなずく。


さらに画面が切り替わり、ライラが映る。


「女王陛下……。

王室の護衛隊長である私が王都を離れていること、お許しください。」


「構いません。ノブナとランマルもおります。

ジュラ戦は、この戦の重要な緒戦しょせん

あなたが指揮を取り、必ず敵を退けなさい。」


「……はい、必ず。」


ライラの目に決意が宿る。


「オウルの映像では、シルヴァリス王と三人の“弓の勇者”を確認しました。

その力は未知……緒戦から一気に激戦となる可能性が高い。

そのため、ジュラにはすでにショータ殿にも控えていただいています。」


エルフィリアが深く頷く。


「勇者ショータ。

魔王を討つ者よ……あなたに大きな責任を背負わせていますが、頼みます。」


「エルフィリア様。俺には、頼れる仲間がこんなにもいる。

必ず魔王を倒してみせる。」


俺は迷いなく誓った。


「ノブナ。この戦いには、“治癒の力”が必要だ。

ジュラにリオンを寄越せるか?」

ライラが言う。


「リオン! 行けるか?」


「もちろんだ! 俺はショータを守る者。すぐに向かうぜ!」


「メーガン、“ラビット”は手配できるか?」

ノブナが尋ねる。


「だ、大丈夫です……!

ノ、ノブナ様たちの試験運転データのおかげで、

今はもう安全で……快適に動きますので……。」


聞いた話だが、メーガンは、ノブナから強烈な“お仕置き”を受けたらしい。


「リオンさん、私も同行しましょうか?」

リアナが言った。


「リアナ様は王都に残ってください。

もしもの時、女王陛下にはあなたが必要だ。」

ノブナが静かに止めた。


俺は胸の奥が少しだけ軽くなる。


(ノブナ……ありがとう。

リアナ……すまない。

今は絶対に君をシルヴァリス王に近づけたくない。

俺は未来を変えなければならないんだ。)


ライラが表情を引き締める。


「――一つ、気になることがある。

シルヴァリス軍の“蝕人しょくじん兵”の所在が、まったく掴めないのだ。」


「なんだと?」

ノブナが眉をひそめる。


「オウルによれば、各都市の地下に隠しているはずだが……。緒戦に出す気配がない。」


「“弓の勇者”で道を開き、

その後に蝕人を雪崩れ込ませるつもりか……?

それとも…。」


「念のため、ヒキガにはジュラに待機してもらう。魂還薬こんかんやくも準備済み。

ヒキガとツムリが揃えば、蝕人を人に戻せる。

ノブナ…、もしもの時は、頼む。」


「ライラ、承知した。オウル、聞いていたな?」


「はい、ノブナ様。

私は引き続き上空で監視を続けます。

魔法鏡はこのまま繋いでください。」


映像には、進軍する大軍が地を覆い尽くしている。


そのとき、別の鏡からシュテンの声が響いた。


「ガンロ侯爵マーキス、シュテンです。

ライラ、ツムリ……決して無理はしないように。

ジュラの後ろにはガンロを含む六つの城塞都市が控えています。以前の小砦とは訳が違う。

いつでも頼ってください。」


シュテンの言葉に、他の侯爵たちも頷く。


アオダが続く。

「ツムリ。シュテンの言うとおり、お前の背後にはワシもレキルもいるぞ。

ミラとライレンは合同演習で鍛えてきた。精鋭は揃っておる。」


「緒戦は大変だが、頼むぞ。」

レキルも言葉を添える。


ツムリは力強く頷いた。


続いてラシードが映る。


「ルーサ侯爵マーキス、ラシードだ。

北のサンサーラの動きを監視しているが、今のところ大きな変化はない。

だが、戦が始まれば確実に動くだろう。


サンサーラが狙うのは――ターナと天竜だ。

ランドルフ、十分に警戒しろ。」


「承知しました。

ショータ殿の天竜“星牙せいが”はすでにバースへかくまっております。」

ランドルフが答える。


ライラが次に視線を向けたのは、シオラの鏡だ。


「シオラの準備はどうだ、エース卿。」


「シオラ侯爵マーキス、エース。

ふん、やっと発言できるな。

俺たちはこの数ヶ月、サンサーラ戦を想定した演習を徹底してきた。

“魔科学兵器”の扱いも問題ない。

ターナの地へ易々と渡らせるつもりはねぇよ。」


エースは粗暴な物腰だが、その戦闘センスはライラと並び称される。


「エース卿。シオラはサンサーラを止める要衝。頼みます。」

ライラは深く頭を下げる。


会議は締めに向かう。


「各自の準備は整っているようだな。

――では、王都組は予定通りメサイアへ移動する。

ハク、改良は済んでいるか?」


「問題ないよ。試験も完了。いつでも動かせる。」

ハクが答え、メーガンは首をすくめる。


エルフィリアが玉座から立ち上がった。


「バースの騎士たちよ!

この戦で、我らの未来を掴み取る!

――戦え!」


――――


ルミエール中央市場。

三ツ星店旗の掲げられた、魔法使いマルダの店。


マルダの思念体しねんたいは、水晶玉を静かに覗き込みながら呟いた。


「ついに……世界の混沌こんとんが始まった。

この先、救われる世界へ繋がるかどうかは――


ショータ、あなたの選択に。


そして……リアナ、リオン……あなたたちの覚悟に、すべてがかかっています。」

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