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暁光の勇者と運命の指輪  作者: 茶太郎
第十一章
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第一話 迫り来る王影

未開の地からサンサーラへと続く一本の道。

シルヴァリス王国側からその道に入った最初の要衝──それが密林都市“ジュラ”である。


ジュラは、未開の地を東西に断ち切る巨大渓谷に唯一架かる“橋”の役割を果たす街だ。

深い谷を迂回することは不可能であり、サンサーラを目指すすべての者は、この都市を必ず通らねばならない。


まさに天然の関所である。


だが今のジュラは、昔の粗末な拠点とはまるで別物だ。

バースから派遣された人工人間兵士の力により、人口五万を抱える堅牢な前線都市へと進化していた。


巨大な防壁は鏡面のように滑らかで、金属の光沢を帯びてそびえ立つ。

その外郭全体を、ハクが創り出した魔法結界が淡く包み込み、夜でも街を柔らかく照らしている。


この最前線都市を束ねるのは、暁の環の精鋭部隊“おぼろ”最強の戦士──ツムリ。

小柄な女戦士である彼女は、今や正真正銘ジュラの侯爵マーキスだ。


そのツムリと俺は、シルヴァリス王国の方角を城壁上から見据えていた。


「“勇者様”……春の風が暖かくなってきましたね。もう……いつ始まってもおかしくありません。」


「そうだな。ついに来る。

だが──迎え撃つ準備は整っている。

なぁ、ツムリ。」


「はい。“勇者様”。いつでも来い、です!」


「だから、その“勇者様”はやめてくれ。ショータでいい。むず痒いんだよ。」


「そ、そうですか? エルフィリア様からいただいた称号ですし、かっこいいのに……。

……ショータさん。」


「ああ、それでいい。呼び捨てでも構わないぞ。」


「そ、それは無理です! ライラ隊長でさえ“ショータ殿”なのに、私なんかが呼び捨てなんて……!」


「じゃあ、呼びやすいように呼んでくれ。ただし──“勇者様”は禁止な。」


「はい! ショータさん!」


立派な爵位を得ても中身は変わらない。

そこが、ツムリのいちばん愛されるところだった。


そのとき、兵が駆け込んでくる。


「ツムリ様! ……勇者様! 城塞へお戻りください。バースよりヒキガ様とライラ様がお越しです!」


―――


ジュラ北端に築かれた大城塞。

イズファルから初めて連れてこられたあの日の面影は、もはや欠片も残っていない。


谷底の首都バースからは、地上の拠点に繋がる昇降室が完備されていた。

ヒキガとライラはその昇降室でジュラを訪れた。


城塞内の会議室へ向かい扉を開くと、すでにヒキガとライラが立っていた。


「ショータ殿。ツムリ。早速だが魔法鏡を起動してくれ。」

ヒキガが指示をだす。


「は、はい!」


ツムリが鏡面に刻印された文字に触れると、魔法鏡が淡く発光する。


「オウル! 聞こえるか? ジュラとの接続は完了した。映像を頼む!」


ライラの呼びかけに応じるように、鏡面が揺らぎ──


「ショータさん、映っていますか?」

オウルの声が聞こえた。


「ああ、見える。オウル、今どこだ?」


「ルミエールの上空を旋回中です。」


ふくろうの姿でも会話できるのか?」


「ええ。ハク様が作ってくださった私専用の魔法鏡のおかげです。

私の微弱な念波ねんぱを直接、音声に変換しているそうですよ。」


「ハクの“魔科学”……もはや別次元だ。」

俺は感心した。


「では、降下します。よく見ていてください。」


映像が高度を下げ、ルミエールの街並みが迫ってくる。


そして──


「街が……シルヴァリス軍で埋め尽くされてる!」


鏡面に映る景色は、ほぼ一面“兵”だった。

騎馬、歩兵、弓隊……見渡す限り、列、列、列。


「オウル、軍勢の規模は?」

ライラが尋ねる。


「五万前後でしょう。

ですが……不気味なのは、蝕人しょくじん兵が見当たらないことです。

王都のように地下施設に隠れている可能性もあります。」


「蝕人兵が加われば、こちらの数の優位は消える……。」


「ライラさん。ジュラの強みは“地形”です。漏斗状の橋しか侵入口がない以上、攻め込める兵は限られます。ここで叩くしかありません。」


「ツムリの言う通りだ。

蝕人兵が現れたら、俺とツムリで“魂還薬”を蝕人に注入してやる。」

ヒキガはツムリに目で合図した。ツムリは頷きで返す。


そのとき、映像が中央市場付近へ移動した。


「……ん? あれは……

星泉閣せいせんかくの中庭か。誰かいるぞ!」


「ショータさん! あれ……

あれ、シルヴァリス王です!」


ツムリが震える声で指した先──

そこには玉座のような椅子に腰かける、威風堂々たる男の姿。


その左右には、三人の騎士。

どれも、映像越しでも分かるほど尋常ならざる“圧”をまとっている。


「あれが……魔王シルヴァリス王。凄まじい威圧感だ……。」


ライラが目を細める。


「ツムリ。王の横の三人……何者だ? ただ者じゃない。」


「ライラさん、私も初めて見ます。」


「ふむ…。側近のファルネウスやマルヴァリウスでもないな。」

ヒキガも目を凝らすが、誰か分からないようだ。


「奴ら、“エルフの弓”を持っている。まさか──弓の勇者か?」

三人の騎士の背には、確かにエルフの弓が確認出来た。


「弓の勇者⁈ 長老会を作ったのは、かつての弓の勇者ファルネウスやマルヴァリウスだ。だが、若すぎる。」

ヒキガが言った。


「“エルフの弓”はマルダが造った最強兵器だ。サンサーラ滅亡の引き金にもなった。

俺の“月光の弓”も、元はリアナの父・リオレウスのものだ。彼も弓の勇者の一人。」


ライラが息を呑む。

「ショータ殿の弓の威力は私も知っている。それが三本も……?」


「いや、王自身も持っていた。

つまり──向こうには四本のエルフの弓がある。」


「……最初から全力というわけか。」


ライラは映像から目を離さず言った。


「ルミエールからここまでの道はエルフの馬での走破は不可能だ。

それに、あの装備での徒歩なら二日はかかる……。

その間に作戦を詰めるぞ。ツムリ、私もここに参戦する。」


「俺もいるぞ。ツムリ。蝕人が出てきた時、必要だろ?」


「ヒキガ様、ライラさん……! ありがとうございます!」


ジュラの街は二日後の戦に備え、兵達の士気も高まっていた。

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