第四話 宣戦の光
「バルドラン!」
ノブナがランマルを抱え、天井に開いた穴から戻ってきた。
「ノブナ! …ランマルは大丈夫なのか⁈」
バルドランが目を見開く。ランマルは腕の中で力なく眠り、微動だにしない。
「大丈夫だ。気を失っているだけだ。ただ、催眠の術で全ての力を使い果たしたようだ。」
ノブナは静かに息を吐くと、鋭く命じた。
「バルドラン! ランマルを連れて先にメサイアへ戻ってくれ!」
「承知した! ノブナ、お前は⁈」
「我には最後の大仕事が残っている。」
ノブナは携帯パネルを操作し、ヒキガの位置を示す白い円を探す。
「ヒキガ…見つけた! バルドラン、ランマルを頼んだぞ!」
ノブナはヒキガのいる方角へと飛び去った。
ーーーー
ヒキガは最後の区画で人々を昇降室へ誘導していた。汗が額を伝う。
「あと少しだ! ここの五百人で最後だ! みんな、急げ!急ぐんだ!」
そこへノブナの声が降る。
「ヒキガ! どうだ⁈」
「ノブナか! こいつらで終わりだ!」
「急げ! ランマルの催眠はとっくに解けている。王城内は今頃、蜂の巣をつついたような大騒ぎのはずだ!」
「あと十分で完了だ! 最後の仕上げはノブナに任せる!」
ノブナは触手に向かって叫ぶ。
「メーガン! 聞こえていたか⁈」
「ノブナ様! 聞こえています!」
触手の奥からメーガンの声が返る。
「今から十分後! 中央の触手一本だけ残し、他は全部撤収しろ! 最後は派手にいく! 後方支援、頼んだ!」
「はい! 任せてください! ノブナ様、派手な花火をあの連中にお見舞いしてあげてください!」
ーーーー
ノブナは先ほど開けた天井の穴へと飛び立ち、地上に躍り出た。
「よし…あそこだな。」
空へ舞い上がり、王都中央を見下ろす。
残り一分。
ノブナは静かに目を閉じ、深く息を吸った。
「ファルネウスよ。よく見ておけ。これがお前たちとの開戦の狼煙だ。」
時間が来た。
ーーゴウゥゥン!
轟音とともに地響きが王都を貫く。大地が唸り、中央広場の大噴水の水が大きく跳ねる。
地下施設。中央の触手は巨大な刃を回転させ、大噴水ごと地面を突き破り、空へ伸び上がる。
それはまるで地獄から這い出る大蛇のようだった。
「な……なんだ、あれは⁈」
馬で走っていたファルネウスが目を剥き、思わず馬の脚を止める。
「ファルネウス様! 急がねば!」
マルヴァリウスが後ろから叫ぶ。
「いや……マルヴァリウスよ。もう遅い。」
ファルネウスは唇を震わせながら呟いた。
「あれは、地下施設から這い上がっておる……。」
次の瞬間、彼らが向かっていた地下施設に繋がる昇降室が爆発し、粉々に砕け散った。
「な……なんと!」
マルヴァリウスの声が震える。
王都各地で爆炎が上がる。
ノブナが送り出した二十体以上の分身が、王都中の昇降室を次々と破壊していた。
火柱、振動、爆風。
王都の空は瞬く間に赤く染まった。
「ファルネウス様! 報告! 空にノブナ! 黒梟のノブナです! 分身が複数確認されています!」
衛兵が転がるように駆け込む。
「ノブナだと……⁈ 奴め、やはり生きておったか……!」
ファルネウスの顔が、怒りと恐怖で歪む。
「お前たち! 早くノブナを捕らえろ!」
マルヴァリウスが吠える。
その時。
ーー王都全域に、ノブナの声が響き渡った。
その声は、巨大な触手を通して発せられていた。
「あっはっはーーーー! 見ているか、長老会派の者どもよ!
よくも我ら人間を蝕人などという獣に変えてくれたな!」
「ノブナの声!」
ファルネウスが震える。
「貴様らの目論見はすべて分かっている!
シルヴァリス王に伝えろ!
我らはエルフィリア女王と共に、新たな国“バース”を建国する!」
「国だと……⁈」
マルヴァリウスは呆然とつぶやく。
ファルネウスは血の味を噛みしめるように唇を噛む。
「エルフィリアと共に…だと⁈」
頭上で二十体のノブナが一斉に掌を広げた。
「はああああ!!」
集まる気。掌が青白く光り、空が震える。
「や、やめろ……何をする気だ!」
ファルネウスが恐怖に声を裏返らせた。
「これがシルヴァリス王国への宣戦布告だ!
ーー受け取れい!!」
蒼白の光が放たれ、王都の地面を深々と抉り地下施設へ一直線に突き進む。
そして、破裂するように光が爆ぜた。
地面が波のように揺れ、地下施設が崩壊していく。
「おお……地下施設が……蝕人兵を集める場所が……崩れていく……。」
ファルネウスはその場に膝をついた。
ノブナの声が最後に響く。
「ファルネウスよ!
我らはエルフィリア様と共に、バースを理想の国にしてみせる!
次に会うときは“国として”、お前たちと戦うぞ!」
ノブナの姿が触手の中へ消え、
巨大触手は地面に潜っていった。
「ノ……ノブナーーーーーーーー!!!」
ファルネウスの絶叫が、燃え上がる王都に響き渡った。




