1-8(ウィル視点)
スティナ嬢に、王太子妃の身代わりをお願いし、
今日はその当日。
晴天だが気分はどこかどんよりとしていた。
自分からお願いしておいて、
こんな事では失礼だとは思う。
しかし、マスターには悪いが、
本当にこんな事で恋心が吹っ切れるとは信じていなかった。
王太子と、王太子妃になるフェリシア様とは、
幼少期からの付き合い、
フェリシア様を好きだと気づいたのはいつの事だったろう、
もう思い出せない、それ程長い事好きだった事は真実だ。
つい目で追ってしまい、
言動の一つ一つに振り回され、どきどきする。
特別な女性。
そして、どれ程願っても、一生手に入らない女性。
ガラスのショーケースのような、
自分の心に鍵をかけて仕舞いこみ、
時々、傍からその思いを眺めるつもりだった。
そんな気持ちでいたので、
スティナ嬢に会った時は、跳ね上がった心にびっくりした。
薔薇を受け取って赤らめる顔。
その素直な反応に、素直に嬉しいと思った。
そして、フェリシア様を思う時、
どきどきしても、それは傷みを伴うどきどきで、
心が弾むようなどきどきではなかったと、気づかされる。
愛してはいけない人を愛した代償だと思っていた、
恋だと思っていた胸の痛み、
いや、確かに恋だったのだろう、
しかし、スティナ嬢に抱く、
心が弾むようなどきどきは、
これもまた恋なのか?と思わされる。
しかし、まだ会ったばかりだ、
一目惚れと言う言葉はあるが、
いきなり恋と思うのもどうかと思う。
心の中で頭をぶんぶんと振って、
自分の気持ちを切り替えた。