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しがない冒険者ネイソン・ヴォルナーの反撃譚  作者: gokazoo


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第5節 起死回生の一手"落とし前"4

週二回投稿を目指すと言ったな。あれは嘘だ。


…いや、ホントすんません。

 時は、三日前――早朝に遡る。



 夜明け前の街は、息を潜めていた。

 昨夜の土砂降りが嘘のように止み、石畳は薄い靄に包まれ、月明かりの残滓を鈍く反射している。この時間帯は人影すら稀で、城門の見張りすら瞼を落としかけるほど静まり返っていた。



 そんな闇の時間――俺とメアリーだけが、街外れへ向かっていた。


 向かう先は、火災で焼け落ちたまま放置されている廃教会。二日間籠もるには最適すぎるほど人気のない場所だ。


 メアリーは緊張した面持ちで、歩きながら何度も背後を窺う。


「こ、こんな朝早くに……本当に大丈夫なんですか? 見張りとか……」


「問題ない。昨日の時点で、俺たちの動きは完全に読まれていない。」


「……え?」


 俺は肩をすくめる。


「昨夜も酔い潰れた姿をあれだけ街中に晒してあるんだ。“今日もネイソンは酒場で転がってる”――ザンザスたちは、そう思ってイビキをかいている頃だろう。」


 メアリーの足がぴたりと止まる。


「ま、まさか……あれ、本当に酔ってたんじゃ……」


「酔ってない。」


 あまりに普通に答えたせいで、メアリーは呆気に取られた。


「俺は酒に相当強い体質でな。どれだけ飲んでも意識が飛んだことは一度もない。この二十日間は、むしろ酔ったフリを続けるのが大変だったくらいだ。」


 メアリーは──顔面どころか耳まで真っ赤になった。


「じゃ、じゃあ……あの、私が……“泥酔したネイソンさん”に全部言ったアレも……全部……演技の相手に……?」


「……あぁ、そういうことになる、な。」


「うわぁああああああああああああああああ!!!!!」


 廃教会に着く前から絶叫が響いた。


 しばらく地面に突っ伏した後、メアリーは虚ろな目で言った。


「……お酒を呑むようになっても、ネイソンさんとはいかないことにします……」


「……そ、そうか」


 俺たちは足早に廃教会へと歩を進めた。





 廃教会は、想像以上に荒れ果てていた。


 焦げた梁は折れ、ステンドグラスは落ちて粉々、祭壇は瓦礫の山。朝焼けが崩れた天井から差し込むたび、灰が舞い上がる。


 だが――だからこそいい。ここなら誰にも気づかれず、誰にも邪魔されない。


「メアリー。もう一度聞く。覚悟は、できてるな?」


「……はい。」


「だったら――この二日間で、お前には“人間”をやめてもらおう。」


 メアリーは息を飲む。


「はっきり言って、神官としてのセンスは壊滅的だ。詠唱は速くない。射程はあるが、命中しない。制御が致命的に利いてない。だがな――」


 俺はメアリーの胸元を指差した。


「恐ろしいことに出力だけは、知る限り右に出るものはいない。目算で最低でも本来の十倍はあるだろう」


「じゅ、十倍……?」


「そうだ。ほんの少しでも術を制御できていれば、大化けしてもおかしくない才能だが…」


 俺ははっきりと続けた。


「その()()()()()すらないのが、お前の現実だ」


 メアリーは唇を噛んで俯く。


「だから…、メアリー。もう()()をやめろ。」


「……えっ」


 メアリーが思わず顔をあげる。


「代わりに――“前衛”として動け。そして、強化術も、回復魔法も、神聖術も、全部自分に施して力を解き放つ“再生型強撃戦士”となれ。」


 メアリーは目を見開いたまま固まる。


「そ、そんな戦い方、聞いたこと……」


「あるわけない。メアリーを見て、思いついた戦い方だからな。」


 そして、宣告する。


「『怪物』になれ、メアリー。それが、お前の唯一生き残る道だ。」


 彼女はゴクリと唾を呑み込んだ。





 宣告後、裏庭のようなスペースで、俺は木剣を握り、メアリーは渡したばかりのメイスを必死に抱える。それは見るからに彼女の身の丈にあっておらず、その重さだけで腕が震えていた。


「まずは身体強化からだ。全身に行き渡らせて維持してみろ。」


「はい。…力よ、漲れ!」


 術は発動する――メアリーは打って変わって軽々とメイスを片手で持ち上げる。


「よし、術は問題ない。じゃあ、維持したまま素振り。俺が良いというまで。」


 メアリーは懸命にメイスを振り下ろし始める。しかし、五分足らずで全身を覆う光は霧散した。


「…5分にも満たないか。」


「…ハァ…ハァ…」


「基礎ができていない証拠だ。俺ですら武器を振りながら10分は維持できるぞ。」


 息を整えつつあるメアリーは悔しげな表情だった。


「闇雲に術を発動して、武器を振ることに夢中になるな。術を発動する時は丁寧に練り込んで身体の中に蓄えるイメージだ。」


「練り込んで…蓄える…。力よ、漲れ!」


「駄目だ! やり直し!」


二時間後――


「……感覚を掴めたか。よし。」


メアリーは強化術を維持したまま、30分メイスを振り続けていた。


「メアリー、次に行くぞ。術は解くな。」


「…!は、はい。」


 メアリーは術を解かず、メイスを下ろす。


「次は回復魔法だ。ダメージを負ったら、瞬時に回復だ。さぁ、構えろ。」


「えっ、あ、あの、もう――」


 間合いを詰めて横薙ぎを繰り出す。メアリーは辛うじてメイスで弾くが体勢を大きく崩す。そこから、2撃目、3撃目と続ける。俺は容赦しなかった。


「おい、術を解くな!術は維持したまま、負傷したら回復しろ!」

「遅い!いつになったら発動するんだ?敵は待ってくれないぞ!」

「おら!避けられる攻撃は避けろ!ダメージで意識が飛んだら回復できないぞ!」


 木剣が肩を打ち、脇腹を叩き、足を払う。メアリーは何度も倒れ、地面に転がり、血反吐を吐いた。


 それでも、光が走るたびに傷は塞がる。メイスは離さないままだ。倒れようとも、必死に手で武器を掴んでいる。


 だが、立ち上がってこない。


「どうした。やめるか?」


 弱々しく震える背に、俺はわざと冷たく言った。


「その程度の覚悟か?このまま惨めに移籍して、笑われて、潰されて……それで満足か?」


 メアリーの肩が震える。


「…だ…す…つ…て…さい。」


 顔を上げた彼女の瞳には、涙と怒りが混じっていた。


「まだ戦えます! 続けてください!!」


「――よし。」


 俺は頷き、最後のアドバイスを投げた。


「回復魔法を使う時、意識が負傷部位を探そうとしている。それじゃ、遅い。痛みを感じたら、強化術のように全身に回復魔法を巡らせろ。意識を切り離すな。別々に考えるな。感覚を掴め!」


「はい!!」


 そこから数時間――

 彼女は何度も倒れ、起き上がり、また殴られ、また治し、叫び、吐き、それでも立ち続けた。


 そして昼を大きく過ぎた頃。


「ネイソンさん……」


 メアリーの身体はほぼ無傷。強化術が常に維持され、動きながらも回復が一瞬で発動している。


――形になった。


「…これで回復魔法も取得完了だ。昼休憩にするぞ」


 二人で携帯食を無言で咥え、疲れ切った身体を地面に預ける。どちらも見るからに疲労困憊だったが、それでも示し合わせるかのように、30分してから互いに向き合う。


「では、次だ。神聖術の状態強化バフを重ねがけで発動させる。」


 言われる前から、強化術を発動して、隙なく構えたメアリーが詠唱を始める。


「神の御名において、我に力を与え給え」


「ダメだな。加算にもなってない。」


「くっ!神の御名において…!」


「何やってる!強化術解けかかってるぞ!」


「…っ!」




 そうして、気づけば辺りは暗くなり始めたところで、俺は手を止めた。メアリーは吐きそうな顔で地面に膝をつき、肩で息をしていた。


「今日はここまでだな。明日も朝早くから特訓だ。飯食って、寝るぞ。」


 俺は携帯食と寝袋を取り出したところで気づく。メアリーが近づいてこない。


 怪訝に思って振り返ると、神聖術の発動を止めようとしないメアリーが見えた。 声を掛けようとして、止めた。俺のすべき最善はそれではないからだ。 代わりに、念の為、道中で回収していた枝葉で火を焚べ、簡易スープを煮込み始める。


 しばらくして、メアリーがフラフラしながら歩み寄ってくる。 俺は無言で器を差し出す。メアリーも黙って受け取り、啜り始める。 こうして、一日目は終わりを迎えた。




――二日目の早朝。


「神の御名において、我に力を――」


 術が発動し、光が身体を包む。昨日は何度やっても碌に成功しなかった状態強化が、開始一発目で決まる。


「……できました、ネイソンさん!」


 すかさず、一撃を入れる。メアリーは慌てることなく、後ろに避ける。


 更に踏み込んで、追撃をかける。


 メアリーは余裕を持って躱し、3撃目を綽綽とメイスで受け止めた。


 驚くべきことに、間違いなく、身体強化と重ねがけ出来ている。たった一晩で何があったというのか。


「…上出来だ。仕上げに入るぞ」


いよいよ最後の段階――“破壊動作の癖づけ”だ。


「仕上げと言っても、やることは簡単だ。戦う時はメイスを“振り回せ”。」


「振り回……す……?」


「そうだ。それは“拳の延長”だ。型などいらん。」


メアリーは戸惑いながらも両手でメイスを握りしめ――


「ふん!!」


地面が砕け散り、衝撃で辺りが揺れる。木々に止まっていた鳥たちが一斉に飛び立つ。


「……あっ……」


「そうだ。小綺麗に相手を叩き崩すことなんざ求めていない。一撃一撃が必殺の強撃になる“怪力無双”こそ、メアリーの新しい戦い方だ。」


そこからのメアリーは――完全に感覚を掴んだようだった。


期限の正午まで、何にも目をくれず、ひたすらにブーストした状態で素振りをしていた。


時折、俺が不意打ちで斬りかかるが、彼女は全て避けた。更には、攻撃を受けた想定でダメージを負ってなくても回復魔法を発動している。


もはやそこに、かつて解雇(クビ)に怯えていた“超大型新人(ポテンシャルモンスター)”はいない。


――“覚醒した怪物アクチュアルモンスター”。


俺はその姿を見て、静かに息を吐いた。


(…間に合ったか。あとは――レナードを動かすだけだ)


時刻は、ちょうど正午を指していた。



ち、違うんだ。本編進めるより、短編書くのが面白かったとかそうじゃないんだ。信じてくれ!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――!!!」

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