観覧車のことを魔道具だと思っている男が私を異世界へ連れて行こうとしているんだけど、どうする?
晴れた平日の午後、近所の公園を散歩していた。保育園児が園に帰り、小学生が学校に行っている間、この時間帯の公園は空いている。快適。木漏れ日が降り注いで、ポカポカと温かい。
目の前に人が倒れている。いや、こんなに良い天気なのだからうっかり地面で眠ってしまったに違いない。きっと生きている。どうする?確認する?
不運なのか、幸運なのか、私は看護師。でも今日はお休み。看護師の私の直感が告げている。彼の人は生きていると。
あ!動いた。動いたよ。良かった。勘が外れてたらどうしようかと思った。あー、目が開いてる。なぜ分かったかというと、今まさに目が合ってる。
あらやだ、イケメン。某ゲームに出てきそうな格好がすごく似合ってる。コスプレーヤーさんかな?凝ってるなぁ。汚しって言うの?すごくリアル。
ん?私に何か言ってる?なんて言ってるのか分からない。聞いたことのない言葉だ。何か集中し始めた。
「あなたが聖女か?」
うわー、成り切ってる!ここは合わせるべき?
「私から申し上げることは何もございません」
「おぉ〜!行幸だ!では早速あちらに見える装置からわが国へいらしていただき、国を救っていただきたい!さあ、さあ、参りましょう!」
あちらに見える?ああ、あの観覧車ね?デートのお誘い?面白そうだから行ってみようかな。珍しく白いワンピースを着ているから、質素な聖女って言ってもまあ、良いと思う。
「分かりました。参りましょう」
イケメンの男は私の手を握った。逃げられると思ってる?ヤバい人だったかな。まあ、昼間だし、誰かいるだろうし、危ない時は逃げよう。
観覧車の乗り方知らないのかな?
「すみません、大人二人」
チケットを買ってあげた。イケメンを促して観覧車に乗った。
扉が閉められた。イケメンと私は向かい合って座っている。イケメンはなんだか嬉しそう。
「聖女殿のお名前をお聞きしてもよろしいか?」
「サトコです」
咄嗟に友だちの名前を名乗った。
「サトコ殿、と」
イケメンは機械を取り出してポチポチと操作し始めた。
「生年月日は?」
私が母の生年月日を告げると、またポチポチ。
疑問に思わないの?見た目と生年月日が違うよね?もしかしてこれガチ?
「そろそろです。いやー、良かった良かった」
観覧車が一番高い所に辿り着く。目の前でイケメンは消えた。
「危な。異世界なんちゃらじゃん」
冷や汗が吹き出た。
観覧車がゆっくりと動いていく。扉が開いて、私は走って家へ帰った。