麺じゃなくて御免
昼になってすぐ、いつもの製麺所に入ったが、狭い店内のそう多くもない席はいつも通り既に客で埋まっていた。
五分ほどで席が空いたので座り「いつもので」と注文したが、注文聞きの店員がいつもの人と違っていて、伝わらなかった。
「ご飯の大に、野菜かき揚げを乗せて、ネギと生姜と天かすは多めで天つゆだくだくで」
「え?」
キョトンとした丸い瞳と、束の間の沈黙が苦しい。
「いや……やっぱり、ザルの大で」
心が折れる、という表現がとてもしっくりときた。
いつもの、という俺のこだわりある信条は呆気なくもぽきんと折れた。
今度の注文ははっきりと聞き取れて理解できたのだろう注文聞きのお姉さんが、ニコリと営業スマイルを浮かべて言う。
「ご注文を繰り返します。ザルの大がおひとつですね?」
ここで「いいややっぱり」と元のいつもの注文に戻す勇気は出なかった。
もう一度このお姉さんに先ほどと同じ表情を浮かべられてしまったら、と思うと恐怖を感じた。
若い子に「え?このオッサン何言ってんの?」と思われるのが怖い。
意志の弱い自分……。
だが、恐怖には打ち勝てない。
泣く泣くいつもの昼食を諦めた。
すると、カウンター席の向こうの調理場から、いつものおやっさんのしゃがれた大声が飛んできた。
「おぅい、そこのお客さん。注文はいつものだろう?」
「……は、はい ! やっぱりいつもので!」
以心伝心。
おやっさんの助け船。
有り難くおやっさんの大船に乗った。
その後、お姉さんがどんぶりを運んできてくれた。
「お待たせしました。いつものです」
ニコリとした営業スマイルは、先程よりも柔らかいものに見えた。
食べ終わり、会計して店を出る際、お姉さんがニコリとして「またお待ちしてます」と言った。
明日から増えるかもしれないいつものを思い、いつもよりも温かい気持ちで店を出た。




