第八話 スキルクエスト.
「ふぁーただいまぁ」
「お疲れ様です、シュウ様」
結局、街を全て見て回る事は出来なかった。
俺が予定以上にあちこちの店に入りたがるものだから、あっという間に時間が来てしまったのだ。
それでも、武器屋や防具屋、宝石屋。商業ギルドや冒険者ギルドまで見れたからとりあえず満足だ。残りは追々見ていけば良い。
何より疲れた。
そして夕食までの残り時間で、やりたいこともある。【スキルクエスト】の確認だ。
「サラ、夕食まで休みたいから、少し一人にしてくれるかな?」
「分かりました。扉の外におりますので、御用があればお呼びください!」
サラは首からかけた小さめのネックレスをチラチラ見ながらなんだかニヤけていたが、元気に返事をして出て行った。
"罪な男ねぇ"
何のことか分からない。
「さぁ、それよりも、ロキ様にはまだ言ってなかったんですが、職業レベルが2に上がりまして。加えて新しいスキルも解放されたんですよね」
"ええええ!?なんでそれを言わないのよ!?"
色々と忙しくて。すみません。
さて、まずはステータスの確認だ。
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名前:シュウ・スペンサー
種族:ヒト
職業:ゲーマーLv2
Lv:2
体力:10
魔力:9
筋力:7
知力:88
防御:5
魔法防御:73
スキル:【クエスト管理】【マップ表示】【スキルクエスト】
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レベル表示が二つある事に関しては、職業レベルが上がると新しいスキルが解放されて、下のレベルが上がると身体ステータスが上昇する。と言う事で間違い無いだろう。今回はどちらもレベルアップしたのでややこしかったが。
身体ステータスとしては、だいたい全て2ずつくらい上がっている。たしか、チート高校生達がレベル50でほとんどのステータスが500越えたくらいだった。
レベルが高くなっていくにつれて、数字の上がり幅も増えるといいけど…。
まぁ、そんなことは忘れて【スキルクエスト】を使ってみますかね?
ただこれ、気軽に使ってもいいやつかな?危険はないと言い切れるか?この前の"?"の時みたいに、急に戦闘が始まったりはしないか?
"もー早く使ってよー"
「分かった分かった、分かりましたよ」
ロキ様に背中を押されて、頭の中で【スキルクエスト】を意識する。
すると、また目の前に半透明のウィンドウが出てきた。ただ今回のウィンドウは少し大きめだ。
タイトルは"スキルクエスト一覧"。【クエスト管理】のウィンドウを開いた時には、タイトル以外の表示は何もなかったが、今回はタイトルの下にいくつか項目が出ている。
【戦闘関連】
【魔法関連】
【生産関連】
【生活関連】
の四つだ。その各項目の左側に逆三角形の記号がある。
なるほど、これは最小化されてるマークかな?と思って試しに【戦闘関連】を指でタップすると、予想通りその下にズラーっと【???】が並んで現れた。
そしてその【???】の右側には、それぞれ短文と数字がある。
例えば一番上の【???】に対する短文はこうだ。
"剣類を意図して振る。0/1000回。何これ?"
ロキ様が声に出して読み上げる。
ただその意味はすぐには分からない様だ。
ただ、俺にはすぐに分かった。
【スキルクエスト】という名前と、それから【○○関連】という項目を見た時にもしやと思い、短文と数字を見た時に確信を得た。
「ロキ様、これはスキルの獲得方法だ」
"ん?あぁ〜………え!?"
俺はベッドからするりと降りると、まだあまり使ったことのない机に向かう。
椅子をよじ登り、机の上にあった万年筆やらものさしやらの中から、ペーパーナイフを取り出した。
"なにするの?まさか…?"
俺は昨日の父様を思い出す。
インビジブル・シーフを一撃で沈めた剣撃。
それを、少しでも再現するかの様に、ペーパーナイフで架空の魔物を切り裂いた。
「【スキルクエスト】」
【スキルクエスト】ウィンドウを開き、【戦闘関連】の中の一番上の項目を確認する。
剣類を意図して振る。1/1000回。
これで間違い無い。これは俺の行動の履歴だ。
つまり、たった今。俺はペーパーナイフと言う剣類を、意図して振った。
だから、1/1000回。そしてもう一度振れば、2/1000回となるはずだ。そしてこれを達成した暁には、その条件に対応する【???】スキルが解放されるはずだ。
この場合は剣術に関係するスキルで間違い無いだろう。
ベッドに戻って改めて見てみると、【???】の項目はかなりの数がある。
戦闘関連だけで、たぶん百以上。一番少ないのが魔法関連で五十程。生産関連も百くらいはある。
そして一番多いのが生活関連だ。たぶん、千とかじゃ済まない単位。
そしてよくよく見たら、【???】と解放条件がグレーになって読めない物も結構あった。これらは前提となるスキルを持っていない、または何かしらの条件を満たしていないため、進行しない物だと考えられる。あくまで予想だが。
「って言っても、スキルありすぎだよな…。どんだけあんだ。特に生活関連」
"生活関連のスキルは数万はあるわね"
数万!?いやまじかよ。到底全部見きれない!
っていうか、そんなに数があるならソート(並び替え)機能とか必須じゃない?少しでも回数達成してるやつとか、もうすぐ達成出来そうなやつを最初の方に表示したりとかさ。
あとはそうだな、気になったスキルを上の方に固定表示するピン機能とか、キーワードでの検索とかできたら最高なんだけど、それは高望みか。
時間だけはあるから、原始的だけど書き出そうかな…。
と、そう考えた瞬間に、ウィンドウの右上に横三本の線が現れた。
あれ?さっきまで無かったよなこれ、もしかして。
恐る恐るそこを押すと………ありました。いや、たった今、出来ました、ソート機能。そして検索機能。
とりあえずソート機能で回数順に設定して生活関連に戻ってみると。
ちゃんと出来てる。なにこれ。こんな機能が欲しいと考えただけで追加してくれんの?アプデ当てるの早すぎる。
とにかく便利になった事に何も文句はないので、各関連の【???】におおよその当たりをつけ、使えそうな物を探していく。
以下、とりあえず流し読みで気になった物だ。
短文の条件を満たせば、それに関連するスキルが獲得できると言う前提のもとにである。
剣類を意図して振る。2/1000回。
フォームを意識ながら素手で演舞する。0/500回。
フォームを意識しながら物を投げる。0/150回。
視界外の存在に気がつく。1/20回。
飛来物を避ける。0/500回。
追われている状況で全力で走って逃げる。2/500秒。
弱い異常状態を受けながら800分以上過ごす。0/5。
追われている状況下で身を隠す。0/300分。
自分の物を隠す。1/50回。
一分間以上走る。0/50回。
体内の魔力を感じ取る。0/30回。
魔力を使い切る。0/10回。
真っ暗闇で座って過ごす。2/300分。
紙に書き出してみたが、目ぼしいものはこんなもんか。
いくつかは少しだけ進行しているのもあるのが面白い。全速力で走って逃げたりとか、物を隠したりとか。そんなことしたっけな?
"この世界では、まだここまでの詳細なスキル獲得条件は知られていないでしょうね"
そうでないと困る。これが唯一の武器になるかもしれないのだから。
ただ、時間はあまり無い。リストアップしたこれらを取得した後に、さらにグレーになっている上位のスキルにも挑戦できるかも知れないと考えたら結構忙しい。
特に魔法関連なんか、今進行できるのが"体内の魔力を感じ取る"と"魔力を使い切る"の二つだけなのだ。つまりこれらをクリアした後、五十近いスキルが待っている。
早いところこれらを達成してスキルを獲得しなければ。
とりあえず優先すべきは魔法関連だ。
この三歳の身体だといくら剣術やらのスキルがあっても厳しい。逆に今は魔法を伸ばすべきだろう。
「ロキ様、体内の魔力を感じ取るってどうやるの?」
"早速スキルクエストに挑戦するんだね?魔力を感じるのは簡単よ。だって、ただ感じればいいんだから"
えぇ………。この人もしや最初から何でもできるから人に教えるのは苦手なタイプか…。これは他に先生が必要だな。
"失礼ね。私はただの観客なんだから、あてにしないでってば"
よし、困った時のクリス兄さんだ。夕食前のこの時間なら、自室にいるだろう。行こう、今すぐ行こう。
「クリス兄さん!」
「わ、わぁ!びっくりした…!どうしたんだい、シュウ」
「魔力ってどうやって感じるの!」
さて。全力でやってきてからの流れる様な質問だ。これはつい答えてしまうはず。
「………どうして知りたいんだい?魔法を使えるようになって、何をするつもりなんだい?」
ダメだったかあ…。やっぱり三歳児相手に、使い方次第では危険な魔法を教えてくれる人なんていないんだよ。
唯一の頼りとしてやってきたクリス兄さんは勢いに流されなかったし。
「強くならなくちゃいけないんだ」
「シュウはまだ子供だからそんなこと考えなくて大丈夫だよ」
うん。クリス兄さんよ。あんたが正しい。七歳とは思えない完璧な解答。だが、引き下がれない…!これをクリアしないと、先に進めないのだ。やらなければならないことは数十項目、数百項目、いや極端に言えば数千項目とあるのだ。
「それなら、魔法を使うところを見せてくれない?」
「あぁ、それならいいよ。ただ、僕も最近ようやくできるようになったんだ。時間がかかるけど見ててね」
クリス兄さんは、お腹に手を当てて、何かを感じ取る様に目を閉じた。そして呼吸を整える。
外から見てる分には、あまり分からない。
特に熱気や寒気などを感じることもないが、クリス兄さんの中では準備が整ったらしい。
「"火よ、指に明かりを"」
「おぉー!すごい兄さん!」
ぼっ、と。クリス兄さんの人差し指に火が灯る。
蝋燭くらいの僅かな光だが、何もないところから火が出るのを目の当たりにすると、マジックみたいだなって思った。
「火よ、指に明かりを」
試しにやってみたが、うんともすんとも。何にも起きない。みんなもやってみて欲しい。そりゃそうか。ってなるから。
「まだ魔力少ないシュウだと無理だよ。そもそも魔法は生まれつき使える人と使えない人がいるんだ」
「え?そうなの?練習すれば誰でも使えるんじゃないの?」
「うーん、僕は、魔法は限られた人しか使えないって教わったけど…。そんなに魔法が使いたいの?」
そりゃそうだ。こちとらぬくぬくのぬるま湯のような環境で育った日本人だ。どうせ攻撃するなら遠距離からが良い。石で殴るか石を投げるか迫られると、投げる方を選択する人は多いだろう。
「そ、それよりシュウ。朝食以来、母様に会ったかい?」
「え?母様?どうして?あれから会ってないよ。夕食の後で話しに行こうと思ってたけど」
「そうかそれなら…できたら今から、夕食前に会いに行ってくれないか?母さんはその、シュウにメイドがついて世話をすることが無くなっただろ…?ちょっと寂しいみたいなんだよ」
《クエスト"母親を元気づける"を受注しますか?》
あらあら、母様ったら。お寂しくなってしまわれたのですね。母様に会いに行こうとしてたのは本当だし、それなら愛を育みに行きますかね。
「もちろんだよ」
《クエストを受注しました。詳細は管理画面で確認できます》
そしてその足で、俺は母様の元へと向かった。
なんだか少し疲れたな…。そういえば三歳って日本ではまだお昼寝しないといけない歳じゃ無かったっけ?
母様の自室の前に立っていたメイドに声をかけて部屋に入れてもらうと、母様は花が咲く様な笑顔を見せてくれた。
「まぁシュウ!どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。ただ会いたかっただけ」
その言葉で十分だったみたいだ。
母様は喜んで、ベッドに並んで腰掛けて今日外出して見てきたことを話した。こうやって単純に話すだけでも、言葉の勉強になる。何よりこんな美人ママとならいくらでも話していられるし。
「あ、そうだ。今日は父様からお金をもらっていて、それで母様にプレゼントを買ったんだ」
シュウはポケットから、気付けば少しクシャクシャになってしまった包みを取り出す。こういう気が利かないところは三歳児レベルか…。
「まぁ!ありがとうシュウ!とっても嬉しいわ!」
俺が買ってきたのはアクセサリーだ。五万ギルの小さな指輪。最後の宝石店で残金全てを使って購入した物だ。
《クエスト"母親を元気づける"を達成しました》
《経験値を200獲得しました。10000ギルを獲得しました》
俺は母様の胸に抱き締められながら、こそっと手の中の硬貨をポケットに忍ばせた。