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第七話 外出

異世界生活二日目。

それは最高の朝で迎えた。


身体が優しく揺すられる。

うーん。誰だよーまったく…。まだ眠いんだってー。


「シュウ様、シュウ様…。起きて下さい?もうすぐ朝食の時間ですよ?もう…お寝坊さんですね?」


んー………うん?誰?

薄目を開けてその人物を確認すると、高校生くらいのお目々ぱっちり美少女。明るい茶髪を後ろでポニーテールにしてまとめている。

三秒見つめてようやく思い出す。昨日俺の専属メイドになったサラだ。


「そ、そんなに見られると照れます…!」


うん、可愛い。


「うーん、もうちょっと寝かせてー」


本来であれば俺は35歳だ。ここでの三年足して38歳か。この子はかなり歳下に当たるんだが、今は身も心も三歳だ。ちょっとならだだをこねてもいいよな?いいよね?

あ、通報するのはやめて下さい。


もともと前世でもだが、別に俺に少女趣味はない。無かった…はず。絶対とは言い切れないが。だって高校生の時に青春出来なかった男は、誰でも多少この歳の女の子を神聖視するもんじゃん?ブレザーとかチェックのスカートとか好きでしょ?みんな。


そもそも朝起こしに来てくれるなんてさ。憧れてたもんね?もう俺のこと好きでしょ?って思うよね?

ただ理解して欲しいのは、俺の前世は恋愛経験自体がほとんどなかった…いや、今のは見栄をはった。全然無かったんだよ。だから、こうやって少しでも優しくされたら好きになっちゃうんだ。いや別に好きではないよ?まだね?三歳児なんて相手にされないだろうし。


とか考えてたら目が覚めてきた。

まぁ結論として間違いなく言えることは、彼女はこれが仕事だ。


「おはよう、サラ」


決して、調子に乗って呼び捨てにしているわけではない。どうやら貴族は使用人をさん付けで呼んではいけない決まりがあるらしいのだ。


「ふふ。おはようございます、私のご主人様?」



攻撃力高すぎでは…?


まぁもう目は覚めてしまった。好き放題言うのはおしまいだ。ここからはロキ様にも聞かれてしまう。


"さっきのも全部聞いてたよん"


………。


「さぁ、シュウ様?お着替えをしましょう。ここに立って下さいね?」

「え?いや、自分でするよ」

「まぁまぁ、なんでも自分でしたいお年頃ですものね?」

「そういうことじゃ…。まぁそれでいいよ」

「でもダメです。私の仕事ですから」

「いや、ほんとにいいって」

「いえ、御母上に怒られてしまいます!」

「母さんには言っとくから!」

「わたし、またクビにされるんだ…うぅ」

"わぁ楽しそうで羨ましい!"


結局どうなったかは教えない。


とにかく、朝食だ。

朝食は常に全員でと言うのがスペンサー家の決まり事らしい。

そして何故か今日は、昨日の朝食とはうってかわって和気藹々(わきあいあい)としたものになった。それは母様のペンダントが戻ってきたからなのか、当家の使用人に泥棒がいないと分かったからなのか、父様がいつもよりお喋りで、やたらと俺に話しかけてくるからなのか。


そして朝食も終わろうかと言う時、父様がそう言えば、と言う感じで切り出した。


「そうだ。シュウ。今日は街を見てきなさい。天気も良い。サラもついているし、もちろん護衛を二人つけよう。おい、頼んだぞ」


「あなた、少し急ではないですか」


母様からの鋭い視線が父様を牽制する。


「今日行こうといつ行こうと変わらんだろう?それに今日ならサルヴァトーレがあいている」


「いいね、父様。サルヴァトーレなら安心だよ」


しかし最終的には兄さんの援護もあって、本日のお出かけが決定した様だ。


「という事だ。シュウ。サルヴァトーレがついていれば安心だ。しかし一人でどこかに行ってはダメだぞ?」


「分かりました。お願いします」


父様、なんだか昨日とは別人の様だな。

それにしても、今日は昨日できなかった【スキルクエスト】スキルを試したかったのに…。あれから寝るまで、サラがべったりだったからなぁ。


なるべく早めに切り上げて帰ってこよう…。




そして一時間後、シュウは正面玄関に立っていた。

そこには甲冑等の装備を完全に揃えた騎士が二人、俺とサラを待っていた。


「シュウ・スペンサー様。サルヴァトーレと、こちらはラウルです。よろしくお願い致します」


二人が目の前に(ひざまず)き、こちらに仰々しく挨拶をした。

本当はもっとごちゃごちゃした名乗りだったんだけど、分からなかった。多分父様の信頼を得ている人なので、騎士団の中でも上の人なのだろう。

と思ってたらサラが紹介してくれた。


「サルヴァトーレ様は騎士団で一番えらくて、強い人なのですよ。ラウル様も騎士団の中でえらい人です」


つまりはこの領内で一番強い人と考えても良いはずだ。そんな人が護衛についてきてくれるとはありがたい。

サルヴァトーレさんは見た感じ四十歳前後。ラウルさんはそれより少し若いくらい。本来の俺と同世代くらいだろう。どちらも顔以外は軽装の装備で覆っているが、それでも分かるくらいに身体を鍛えている。


「シュウ・スペンサーです。今日はよろしくお願いします」


「おぉ、これは御丁寧にありがとうございます。さ、馬車を御用意しましたのでお乗り下さい」


サルヴァトーレさんに促され、俺とサラは馬車に乗り込んだ。


スペンサー子爵家の屋敷は、領内のほぼ中央に位置している。盛り土で少しだけ他よりも高くして、周りを塀で囲っている。この塀には魔法的な防御機構があり、外敵から侵攻された際の最後の砦、そして反乱が起きた際の防御の要となっているらしい。


屋敷の正門を抜けると、小窓から顔を出す。


「うわぁ!すごい!」


「シュウ様、あまり身を乗り出しませぬよう」


注意されてしまったが、俺は今すごく感動している。

街の数キロメートル先に、ぐるっと周りを囲む様に高い塀がそびえ立っていたのだ。前世では見たこともないファンタジーな光景に思わず感嘆の声が漏れた。


「あの石はすごく高く積まれていて、この街を守るためにあるんですよ。魔法で作られています。何か気になった事がありましたら、私のお答えできる範囲でならお答えしますね。私やサルヴァトーレ様でも分からないことは、帰ってジェームズ様に聞いてみましょう」


ジェームズさんというと、父様の執事だ。

父様よりも厳格な人で、正直言うとちょっと怖いのでごめん被りたい。



この街の名前はローザ。

スペンサー子爵家が治める領地だ。

屋敷が中央にあるとして、塀までが目算で約五キロメートルくらい。大体前世で言うと"市"くらいの広さ。当たり前だがマンションの様な高い建物はなく、平家ばかりの様なので見晴らしはかなり良い。大河ドラマとかで見た城下町。あんな感じだ。


屋敷から東西南北の各門までは、道に石畳が敷いてあるが、少しでもそれを逸れると全て砂地みたいだ。わざわざ石畳を敷くのは馬車が通る道だけで十分と言う事らしい。

確かに自転車や原付なんてないもんな。でもこの規模の街でみんな徒歩移動してるのか…。元気だな。それが当たり前なんだろうから何も思わないのかも知れないが、俺は自転車が欲しい。



馬車で行ける大通りには、やはりそれなりに大きな店が多い様だ。物資を運ぶためには荷馬車が必要だろうから必然と大きな店は石畳の通りに並ぶ。


「あ、あれは何!?」


「あれは、戦うための道具を売っている店ですね。この街の塀の外には大きな森があり、そこではインビジブル・シーフの様な魔物がたくさん出ます。その悪い魔物を倒すために、あそこで道具を買うのです」


つまりは冒険者的なものがあるのだろうか…!

やはり異世界ものの憧れ冒険者!俺もいつかなってみたい!


「ねぇあれは!?」

「あれはお薬を売っている店ですね。いろいろな材料を混ぜたりして、お薬を作るらしいですが、私もよくは知りません」


錬金術とかそう言う類のものか。

ああぁもう我慢できん!


「よし!入ってみよう!」


「残念ながら錬金術のお店はシュウ様にお見せできないような物で溢れておりますので」


「それなら!あの野菜とか売ってる店!あそこで良いよ!あそこに行こう!」


「え!?降りるのですか!?」


「だめ?」


「えっと…少しだけなら許可をいただいてますし、お金も渡されてますが…」


「よし!じゃあ降りよう!」


いかにもな馬車から降りてきた俺を、八百屋っぽい店のおばちゃんは目を丸くして見ていた。


「こんにちは!」


「あ、こ、こんにちは。あの、すみません、もしかしてこちらの御方は…?」


八百屋のおばちゃんは恐る恐るサラに尋ねる。きっと予想はついているんだろうが。


「スペンサー子爵家の三男で、シュウ・スペンサー様であられます」


「こ!これは御無礼を…!」


おばちゃんは慌てて両膝をついて頭を下げ始めた。

その対応に度肝を抜かれる。貴族ってこんなに恐れられる立場なのだろうか…。三男の俺に対してですらこれだと、父様が来た日には震えるのではなかろうか。


「大丈夫ですよ。僕はお客さんですから」


貴族の威厳がどうとか父様や執事のジェームズさんから口すっぱく言われているから、本当は"うむ。くるしゅうない"くらい言わなければならないのかもしれないが、なんか横柄にするのは嫌だ。そんな異世界語も知らないし。

スペンサー子爵家(うち)に対しての無礼な態度を許すわけにはいかないが、せめて普通に接して欲しい。

サラをチラリと見るが、俺の対応を(とが)めるようなことはなかった。少し困ってはいるが。


「それより気になってるんだけど、どうして耳がある(・・・・)の?」


「はい、私は◇★⊥ですからね。◇★⊥に会われたのは初めてですか?」


「シュウ様、◇★⊥と言うのは、動物の特徴が身体にある人の事です。もともとはここから南にある所で生まれ育った人たちだと言われています」


つまりは獣人か!やっぱりいるんだ!

おばちゃんの頭に、どう見ても猫のような耳がついていた。初めて見る"ケモミミ"は出来れば美少女が良かったが、またそのうち会えるだろう。


「サラ、おすすめの果物はある?」


「はい!少しずつ涼しくなってきましたので、ナッシーの実などいかがでしょう?」


サラが指差したそれを手に取ると、梨の様な手触り。というよりこれって梨だよね?ロキ様?


"そうね。いわゆる、梨ね"


「あそこの、緑と黒の縞々の果物はなんて名前?」


「あれはスイカンと言います」


ナッシーにスイカン、ねぇ。ふーん。


「いくらですか?」


「は、はい!ナッシーが一つ200ギル、スイカンは一玉で2000ギルになります!」


これは高いんだろうか?前世の物価と比べてだいたい1ギル1円くらいと考えられなくもないけど…。でも果物だけでは判断できないな。


「サラ、父様はお金いくらくれたの?」


「10万ギルほど」

「え!?」


多いわっ!三歳に持たせる額じゃねぇ!

はじめてのおでかけで何を買うと思ってんだ!


「ちなみに勉強になるので、使い切っても構わないとの事です」

「わっつ!?」


「………わっつ?」


危ない危ない。焦ってつい違う言葉が…。

でも10万ギルなんてどうやって使い切るか…。梨百個買っても2万ギルだもんな…。


「ナッシーとスイカンは全部で何個ある?それからあのリンゴ?はいくら?」

「はい、えっとナッシーは五十個程、スイカンは五玉、リン()は一つ100ギルで五十個程あります」


ナッシーで一万、スイカンで一万、リンガで五千。うん、いい感じ。


「サルヴァトーレ、ナッシー五十個、スイカンが五、リンガ五十を騎士団にプレゼントするよ。いつもこの街を守ってくれてありがとう」


サルヴァトーレさんはびっくりした後に少し考えて、少し微笑みながら答えた。


「勿体無いお言葉でございます。ありがたくいただきます」


「足りなかったらごめんね。何人いるのか全然知らないから…」


「お心遣いが嬉しゅうございます。勉強のためにお伝えしておくと、スペンサー家の騎士団は全て合わせると千三百人ほどおります。その内、この街で活動している者が約半分。一人一つとまではいきませんが、この街中で働いている者の口には行き渡りましょう」


ほー、思ったより多かった…。千三百人もいるの?

うちの領地って結構危ない所なんだろうか?近くに魔物の出る森もあるって言ってたし。


さぁ、どんどん見て回るぞー!

散財しろとの命令だしな!

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