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第三十六話 後方支援

「なにをしてるって…。いつどこから魔物が飛び出してくるか分からないからさ。さすがにシュウももう少し気をつけた方がいい。今にも君の後ろから魔物が飛び出してくるかもしれないぞ」


あー。そうか。まぁ、そりゃそうだ。

魔物が飛び出して来て、首に一撃で即死、なんて事もあり得るわけだ。

俺にはミニマップもついてるし、【気配察知Lv4】もあるから、敵の不意打ちに怯えたことはない。確かにこれから先、この二重の索敵に引っかからない魔物だっているかもしれないが、この低レベル帯では考え難い。


ただ、普通なのは彼等だ。俺がちょっとズレてるだけ。

彼等に合わせてもいいのだが、正直これでは何のためにここに来たのか分からなくなるため、今回だけは彼等に俺に合わせてもらう事にしよう。そうしよう。


「大丈夫ですよ。そこらにはいません。魔物がいるのはこっちです。あっちの方角。約十五メートル先。一匹。速度はゆっくり、こちらに気付いている様子ですので、忍び寄って来ているのでしょう。事前情報と近いのはフォレストウルフかと思います。ライズさん前にお願いします」


俺の自信満々な態度に半信半疑だが、ライズさん達はカサコソと少し気持ち悪い動きでこちらにやってくると、俺の指差した方角を警戒した。


「五メートル先にいます。…止まった。タイミングを窺っているのかもしれません。迎撃の構えを」


「本当か?草も動いていないし何も見えないぜ…?」


「ノエルさん、攻撃魔法の準備を。このまま来ないなら炙り出すしか有りません」


フェイドさんの疑問に返事をしなかった代わりに、ノエルさんに攻撃の準備を促す。


しかしノエルさんが詠唱を始めた所で、マップ上の赤い点が突如として動き出した。


「………ライズさん来ます!」


俺の声の直後。草の中から銀色の狼が飛び出してくる。頭上のアイコンは緑色だ。俺一人でも十分に倒せるレベル。


事前に盾を構えていたライズさんにのしかかる様に飛び付いたが、ライズさんはそのまま盾を押し返して地面に叩きつけた。


「ノエルさん!フェイドさん!」


俺の声より一瞬早く、ノエルさんの攻撃魔法が飛び、地面に叩きつけられたばかりのフォレストウルフに直撃する。


そのままゴロゴロと吹き飛ばされるフォレストウルフに飛びついたのはフェイドさんだ。

大きく振りかぶった剣を叩きつけると、フォレストウルフに致命傷を与えたらしい。魔物は少しジタバタした後で動かなくなった。


「ナイスです!皆さん素晴らしい連携ですね!よし!じゃんじゃん行きましょー!」


「「「ちょっと待ったぁぁ!!!」」」


「なんですか?」


「なんですか?じゃないよ!どうやってるんだ?」


そうなるよな…。


「【気配察知】のスキルですよ。半径十メートルくらいは分かるんで、多少は安心してください」


本当はもっと広いんだけど、このくらいで伝えておけばいいだろう。と思ったのが甘かった。


「十メートル!?Bランクパーティの斥候がそれくらいだって聞いた事あるけど…」


「うぐっ…。じゃあ五メートルで…」


じとっとした視線が三つ。いや目が二つずつで六つか。

これじゃ光以外の魔法なんて見せられないな…。それに口止めもしておかないと、厄介な事になりそうだ。


「まぁまぁ。スキルの詮索はやめましょうよ、ね?できる事を共有して、楽しく狩りをしようじゃありませんか」


俺からの提案に最初に同意したのがライズさん。

フェイドさんとノエルさんを制する様に肩に手を乗せ、俺に頷いて見せた。


「そうだ、その通りだ。詮索はよそう。とにかくシュウの索敵はかなり当てになりそうだと言うことは分かった。こんなチャンスは滅多に無い。入り口辺りで油を売ってる場合じゃ無いだろ?」


ライズさんの言葉に残りの二人も納得した様だ。


「では、じゃんじゃん進みましょう。危なくなったら僕も剣で参加しますので」


「索敵に回復に近接戦闘…。そりゃソロでも十分やっていけるよな」


その通りなんだよな…。

俺はフェイドさんに苦笑いで返した。


「あとシュウ君?私達の事は呼び捨てで良いわよ。戦闘中の声かけは少しでも短縮できた方がいいから。冒険者同士の暗黙の了解の様な物でもあるし」


「ああ、そうなんですね。分かりました」


「敬語もよ」


「了解。ノエル」










「次は二時の方向から二体!フェイドが持って(・・・)!ノエルはライズの右側のオークソルジャーを削り切ったら、フェイドの方を優先して減らして!」


「また増援かよ!?」


「フェイド頼む!」


「やばいわ!魔力が少なくなってきた…!」


ドブン平原で狩りを開始してから二時間。

俺はまだ後方から索敵をしていた。そして、三人の対応にも指示を出している。


ライズが向かい合っているのはオーク二体とフォレストウルフ一体の計三体。


増援は棍棒を持ったオークが二体。

オークは豚の魔物だ。数あるゲーム同様に二本足で歩くし、手で武器も振り回す。身長も160センチくらいで、人間寄りの豚と言うよりは、豚寄りの人間だ。

ほんの少しだけ前世の自分を思い出すので複雑な気持ちになる。


だがそんな事を言っている場合では無い。オーク二体はフェイドにはキツイだろう。

ライズもまだまだ手が離せない。少しだけ手伝うか。


まずは回復魔法を詠唱。

そしてライズのそばを通り過ぎながらライズを回復。


「ライズもうちょい粘ってて!」

「サンキュ!もう死ぬ気でやってるよ!」


「ノエル!フェイドの右のやつを!左は僕が!」


フェイドに襲いかかったオークは、完全にフェイドしか見ていない。俺はそのオークの死角から素早く近寄ると、"藍ちゃん"を抜き放って、頸部を一閃。確かな手応えと共に、オークの首を落としてすぐさま離脱した。


《オークを倒しました。経験値を85獲得しました》


「な!?」

「ボサっとしない!」


落っこちたオークの頭部にギョッとしたフェイドに喝を飛ばすと、もう一体のオークにノエルのファイヤーボールが命中。慌ててフェイドが剣を振ると、オークの腕に深い裂傷が走って、棍棒を取り落とした。


これで形勢はこちらに傾いただろう。

新たな敵も来ていないし、彼等だけに任せていても大丈夫そうだ。


そこから一分もかからずフェイドとノエルがオークを倒し切り、ライズが持っていたオーク二体とフォレストウルフも順番に倒していった。


「ナイスー!怪我してる人は?」


「俺は途中で回復貰ったから大丈夫」

「私は魔力がキツイわ。精神回復薬(マナポーション)使うわね」

「俺も大丈夫だけど、おい、シュウ!その剣、もしかして魔具(マジック・ギア)か?」


やっぱりバレるよね。普通の剣持ってくれば良かった。こんなにトントン拍子にパーティ組めると思わなかったから、今日もいつも通りの装備で来ちゃったんだよね。


「まぁね。ソロだと剣が途中で使えなくなると困るから。ここにはお金をかけたんだ。ソロだからお金も貯まりやすいしね」


藍ちゃんって愛称はイタいから黙っとこう。


「魔具か。持ってるやつとパーティ組むのは初めてだな。やっぱり良いんだろうな」

「良いどころじゃねぇぜ、ライズ。オークを一撃だぜ?」

「マジかよ!必要魔力値とか教えてくれたりするか?」

「良いよ。確か300くらいだったかな?」

「んー………300か。俺達には到底無理だな。値段も二百万くらいするだろ?」

「そんな所だったかな」

「いずれは俺達も持ちてぇよな…。憧れるなって言う方が無理だぜ」


「ちょっと男性陣?オークの解体を手伝ってもらえるかしら?ただでさえ量が多いんだから」


ノエルがフォレストウルフに短剣を突き立てながら呆れた声を出した。


「ごめんごめん」


慌てて手伝おうとしたが、ライズに止められた。


「あぁ、シュウは周りを警戒しておいてくれ。手伝ってもらうよりもそっちの方が俺達も安心して作業が出来るから」


と言う事らしい。解体しながらでもミニマップチェックくらい出来るんだけど、お言葉に甘えよう。


俺は一応言われた通りにミニマップをチラチラ見ながらもクエスト画面を開く。


するとそこには二時間ほど前に現れたばかりのクエストがあった。


"紅玉パーティを支援し、紅玉パーティだけで100匹の魔物を倒させる。16/100"


だから、俺はまだ後方支援に徹している。先ほどの様に、彼等のキャパを超えた分に関しては手を出すつもりではあるが、とりあえずこのクエストを達成するまでは後方支援のスタンスでいくつもりだ。


ただ、オークを100体倒すなら、経験値が8500ももらえる。だからこのクエストを破棄して全部一人で倒すのと比べると、どちらが経験値として美味しいかどうかは微妙な所だ。


でもクエスト達成ではお金ももらえるし、こうして他のパーティが戦っているのを後ろから観察して指示を出すのも良い経験になる。別ゲーやってる気分でなかなか楽しい。


今のところ二時間で16/100。こりゃ今日だけじゃ終わらないだろう。幸い、クエスト期限は一週間だ。時間はたっぷりある。そこまで長引かせるつもりももちろんないけどね。


「よーし、買い取りが安い部位は残して次行くよー!少なくともあと二十体は今日のうちに倒すよー!」


「二十体!?おいおい、冗談きついぜ?………え?冗談…だよな…?」


俺は笑顔を崩していないが、目が笑っていない事にフェイドは気づいたみたいだ。

本気でやるならこんなもんじゃない。倒した魔物の素材なんて全てほっぽり出してノンストップで倒しまくる。一日で百体倒してしまいたいところだ。


「何か急ぐ事情でもあるの?」


ノエルの疑問ももっともだ。普通の冒険者の目的は生きるためにお金を稼ぐ事であって、経験値を稼ぐと言う目的は二の次だろうから。


「本当にごめんなんだけど、僕は長くて数日しか一緒にパーティを組めないんだ。もともとソロでやれてたし、今回はドブン平原が初見だからパーティを探してただけで…。最初に言っとくべきだったね」


俺の言葉に、三人からハッキリと落胆が伝わってくる。これは俺のミスだった。パーティを探すとなった時に、どのくらいの期間で、と言うのをハッキリ伝えないといけなかった。

この三人は悪い人達ではない、いやもっと言えば良い人達だ。彼等とパーティを組んでやっていけたら普通に楽しいだろう。でもそれは出来ないのだ。


「いや、長くパーティを組むつもりは無いだろうって事は、実はリズさんから聞いてたんだ。それでも、ドブン平原でつまづいてた俺達にとって、なにかステップアップのきっかけになるかもしれないと思って話に乗った訳さ。だからシュウが謝る必要はないよ」


あぁ、リズ、ありがとう。帰ったらお礼を言おう。何か差し入れも。


「ごめんね。ライズもフェイドもノエルも、本当にいい人達だと思うし、一緒にやってけたら楽しいとも思うんだけど、僕には他にやることがいろいろあるから、皆と常に予定を合わせる事は出来ないんだ。

でも数日の間なら、紅玉パーティに不足していた索敵の面で役に立てる。その内に出来る限り、三人には頑張って数をこなしてもらう。そうすれば、俺がいなくなった後でも少しは余裕が出るんじゃないかな?」


俺もクエストの面だけでなく、紅玉パーティ自体がレベルアップしてくれたら嬉しい。せっかく初めて出来た冒険者友達だからね。


「願ってもないわね。精神回復薬(マナポーション)は高いし不味いけど、今が踏ん張り時ってやつよね」

「それじゃ、どんどん行こうぜ!シュウがいる内に、少しでもコツを掴むんだ!」

「それじゃ、シュウ。引き続き索敵を頼む。あと、ヤバい時は助けてくれ」


やっぱり良い人達だ。


「任せといて」


あーやっぱりパーティで戦うのは楽しいな。

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