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第三十五話 パーティ

コボルトの剣が、そして槍が迫る。

それを丁寧に防御しながらすぐさま反撃。


手にするは魔具の剣、素材は藍魔鉄。

通称"(あい)ちゃん"を振るえば、コボルトの身体が真っ二つとなる。そしてまだ槍を何度も突き出してくるもう一体のコボルトにずんずんと近づき、槍を避けつつ手で掴み取ってひっぺがす。そして藍ちゃんを一閃。


そこでミニマップに新たな敵影。速度でピッグボアだと判断し、剣を下段に構える。


木の間から激しい音と共に現れたピッグボアと衝突する直前。素早いサイドステップから剣を振り上げる。


切断まではいかなかったが、首に致命傷を受けたピッグボアは突如失速し、こちらを振り返る間もなく倒れ込んだ。ビクビクと巨体が痙攣し、数秒で静かになった。


「そろそろここにも飽きてきたな…。ぼちぼち次のステップか」


俺の周りには十を越える魔物の死体が転がっていた。


"藍ちゃん"を手に入れてから一週間。それからと言うもの、ローザの森探索の難易度は一気に下がり、今では一人で探索する事が多くなっていた。


あのソニアでさえ、"魔法を使わないなら面白くない"と言ってついて来ない。


これはいよいよ、狩り場を変えるタイミングだろう。









その三日後。


俺は朝食の席で、父様に直談判に打って出た。


その内容とは、"南のラスティア大森林に行きたい"と言うものだ。つまり、ローザの森を卒業して、少しレベルの高い魔物を相手にレベル上げがしたいとお願いしたのだ。


そのお願いに父様はハッキリと首を横に振った。


「まだダメだ。せめて冒険者ランクがDはないと許可できない。それとラスティア大森林に行くためには、途中のドブン平原を余裕を持って攻略出来なければならない。まずはドブン平原だ」


かかったな父様!


「それなら良かったです!つい昨日、冒険者ランクがDに上がったので、早速ドブン平原に挑戦しますね!」


父様の眉がピクッピクッと持ち上がった。

まずい怒らせたかな?


「…仕方ない。許可しよう。ただ、条件がある。ドブン平原にいる魔物の情報を全て網羅する事だ」


「それなら不備はありません。既に知識は入れております!」


クエスト"ドブン平原にいる魔物の生態を十五匹把握する"も達成済みであります!


「くっ…。いや、条件は一つとは言っていない。二つ目の条件は、攻略に際して、他のDランク冒険者とパーティを組む事だ」


「それならお安い御用…え?ソニアとかじゃダメなんですか?」


おっと、これは予想外だ。父様も絶対、今思いついただけだ。


「無論だ」


あ、この人、思いつきを押し通す気だ。


「いや、それは父様、無理難題です。だって僕はまだ職業も判明していない四歳の子供ですよ?そんなのと誰がパーティを組んでくれるって言うんですか」


「しかしお前は冒険者登録をする時に言っていただろう?冒険者について知りたい。冒険者との関係を築きたい、と。いつまでもソロや身内とやっていてそれが叶うのか?答えは否!冒険者の真髄、それはパーティにこそある!案ずるな。冒険者のランクこそが実力の証明だ。冒険者の信頼を勝ち取って見せろ!」


なんだかアツい想いをぶつけられたが、そこまで俺の心には響かなかった。コミュニケーションに難のある俺がパーティなんて組めるのだろうか…。他の誰かと命を預け合うなんて…。気が重い。でもやるしかないか。


「分かりました。パーティを募ってみます…」


「分かれば良い」


こうして交渉は半分失敗に終わった。



暑苦しかった朝食を終えると、俺は装備を整えて冒険者ギルドに向かう。その足取りは重たかったが、【スタミナ】のためには走らざるを得ない。


冒険者ギルドに入ると、まっすぐリズの窓口へと向かう。俺の正体を知っているのは彼女だけなので、融通が効くのだ。


「おはよう、リズ」


「おはようございます。今日はなんだか元気がないですね?」


「分かる?そろそろドブン平原に行きたいんだけど、父様に、条件としてパーティを組めって言われちゃってさ…。こんな俺でも組んでくれる様な人っているかなぁ?」


そんな無茶を言われて、リズは困るだろうと思っていた。しかし俺の予想に反して、リズはクスクスと笑ったのだった。


「大丈夫ですよ。ドブン平原ですよね。ぴったりのパーティが一つありますので、同行させてもらえないか、とりあえず私の方から持ちかけてみましょうか?」


「え?いいの?それはすごい助かるけど」


「任せてください。ではここで待っていてもらえますか?ちょうど今いるので、ちょっと話してきますね」


リズさんはカウンターから出てくると、依頼が貼ってある掲示板の方に歩いて行った。


そんな事もしてくれるんだ…。受付嬢って大変なんだな。

って言うか、もう今から!?いきなり顔合わせ!?それは心の準備が出来て無さすぎる!


一人で焦っていると、リズさんは甲冑を着た男の人に話しかけていた。普通に大人の人だ。リズさんがこちらを指差すと、男の人もこちらを見る。


なんとなく会釈。


ちなみに俺は冒険者ギルドに入る時はローブのフードで顔を隠している。


すると甲冑を着た男の人はそばにいた何人かに声をかけて、その人達を引き連れてやってきた。


あわわわわ。くるくるくる。


「やぁ、初めまして。俺はライズって名前だ。タンク()をやってる。こっちの魔法使いがノエル、それから剣士のフェイド。パーティ名は"紅玉(こうぎょく)"。Dランクパーティだ」

「こんにちは」

「よろしくな!」


ライズさんは好青年。身長は180センチくらいあって、ガタイも良い。いかにもタンクって感じだ。

ノエルさんは女性の魔法使い。スタイルが良くて、おっとりとした美人。

フェイドさんはまだ幼さが残る顔立ちで高校生くらい。身の丈に合わない大きめの剣を担いでいる。


「あ、よろしくお願いします。シュウと言います。まだDランクになったばっかりで、この度はドブン平原にいかでっ」


噛んだ…。


「噛んだね」

「噛んだな」

「あら可愛い」


くうう…。なんでだ、国王の前で喋る時だってこんなに緊張しなかったのに…。


「リズさんの紹介なら大歓迎さ。俺達、ドブン平原で少し煮詰まってたんだ。頼りにしてもいいかな?」


ライズさんが爽やかな笑顔で手を差し出してきた。

その手を握り返すと、少しリラックスできた気がした。


「こちらこそ。リズの紹介に恥じない様に頑張るよ」


「俺達は今日も行く予定だけど、いつから行ける?」


「それなら俺も今日から一緒に行きたいな。道中でみんなの事教えてくれる?」


「よし、決まりだ」


とんとん拍子に話は進み、すぐに俺達四人は南行きの馬車に一緒に乗り込むことになった。


"紅玉"の三人は気さくで人当たりも良く、年齢層も若めのパーティという事で、活気もあってすぐに打ち解ける事ができた。


「それじゃ目的地まで残り一時間って所だから、そろそろお互いの事について少し話そうか。まずは俺達からだ」


そうやって話を切り出したのはライズさん。

"紅玉"のリーダーはやはり彼の様だ。


「俺達の職業はさっき話したな。大まかな役割で言うと、まずは盾役の俺が先頭を歩く。うちには斥候がいないから索敵は全員でやる。敵が現れたら俺が注意を十分に引いてから、フェイドとノエルが攻撃開始。敵が四体以上の時は俺だけだとキツイから、三体までは俺、余分はフェイドが受け持つ。回復は手持ちのポーションでやる」


おーおー。ちゃんとパーティプレイだ。

まさにRPGそのもの。索敵や回復術士がいなかったりする所が気にかかるが、実際にはそんなに完璧にメンバーが揃うわけもないだろうから、仕方ないよね。


「シュウは何ができるんだよ?今までのパーティではどんな役割だった?なんだか凄そうな剣を持ってるけど、俺と同じ剣士か?」


フェイドさんが"藍ちゃん"を興味深そうに見つめながら聞いてくる。


「実はちゃんとしたパーティを組むのはほとんど初めてなんだ。最近はローザの森でソロでやってたし。戦うのは剣が多いかな。ただ今回は三人の動きも見たいから、索敵と回復役をやるよ」


俺の言葉に、三人は少しぽかんとしていた。

んー。これでもダメか、やっぱり。


「………と、とりあえず、索敵が出来るのはありがたいな。さっきも言ったけど俺達は斥候がいないから、不意打ちを喰らって逃げ帰った事も何度かあるんだ。それで、回復役ってのは、もしかして魔法が使えるのか?」


「水?それとも光?ちなみに私は火魔法が使えるわ」


ノエルは俺が同じ魔法使いだと分かって嬉しそうだ。

そっか水魔法にも回復できるものが少しあったっけ。光魔法よりもちょっと複雑だったから覚えてないけど。


「光魔法だよ。今日はポーションの出番は無いと思ってくれていい」


お、今の俺、ちょっとカッコいい事言った?言ったよね?


「光魔法が使えるって事は回復術士(ヒーラー)だろ?なのに剣で戦うのか?そもそも光魔法が使えるなら医者でもやった方が冒険者なんかよりいいぜ、絶対」


フェイドさんのツッコミは至極真っ当だ。

だから苦笑いでしか返せない。


「まぁシュウにも事情があるんだろう。詳しく問い詰めるのはやめよう。にしてもさすがリズさんからの紹介は伊達じゃないな。索敵と回復魔法と剣も使えるんなら、Cランクパーティでも喉から手が出る程の人材だしね」


それにも苦笑いで返しておく。

そして今日の動きをもう少しだけ擦り合わせていると、目的地のドブン平原に到着した。



ドブン平原と言う名前から、なんとなく原っぱに近いような、草原みたいな場所を想像していたが、それは全くの間違いだった。

身長180センチほどもあるライズさんと同じくらいの高い植物が茂っていて、見通しは最悪だ。と言うかなーんにも見えない。この植物がかなりの広範囲で広がっているらしい。


そして今俺達が立っている場所には幅三メートルほどの通路がある。十メートルくらい先で左右に道が分かれていて先は見えない。

こんな道が、平原中に迷路の様に張り巡らされているらしい。


「左右どこから魔物が出てくるか分からないんだ。草が揺れるのを見逃すと、不意打ちを受ける。ここから南のヘスティナって港町まで行くのだってここを突っ切れば早いんだけど、商人や馬車もここは通りたがらない」


なるほどね。でもそれもミニマップ様にかかればなんて事ないけどね。初めはとんだハズレスキルだと思ったもんだけど、今となっては"こりゃ、ありとあらゆるゲームで採用されるはずだわ"と納得できるほどだ。


「それじゃ、行こう。シュウ、索敵を頼んだよ。俺達もいつも通り警戒はしよう。だから気負わずに行けよ」


「オッケー」


さぁ、いざ本物のパーティプレイ開始だ!


………。


……………。


…………………。


あれ?進まない。


「?」


先頭を行くはずのライズさんが、不思議そうにこちらを見ている。


「ん?いつでもいいよ?」


返事を返すが、さらに困惑した顔付きになる。

お互いに不思議な目で見つめ合う俺達に割って入ったのは、ノエルさんだった。


「ライズは、索敵を待ってるのよ。私達の知ってる斥候の冒険者は、私達より先行して魔物の位置を特定してたんだけど…」


「あぁ、そうですよね。そっか、斥候ってそう言うことですもんね、あははは…、じゃあ僕が先頭で行きますね」


途端に不安そうな顔になる三人。申し訳ない。

ちゃんとやろう。うん。リズの顔を潰してしまう。


俺は三人の先頭に立ち、ずんずんと道を進んでいく。

最初の左右の分岐では、左の道を選択する。そっちに魔物の反応があったからだ。


「左に魔物の反応があるので左にいきますね…。って何してるんですか?」


しかし後ろを振り返ると、"紅玉"の三人は武器を構えて必死に周りを警戒しながら進んできていた。

その速度は、忍び足程度…。


まさか、周囲を警戒しながら………って。そのレベルで…?

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