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第三十三話 頭を抱える父

俺は急に汗がだらだらと流れてきた。

そして慌てて父様の横に跪き、伏目がちに顔を少しでも隠す。明らかに"今さら"なのだが、そうするしか選択肢はない。


「どうした、シュウ。具合が悪いのか?」


「いえ、父様、知らない方が良いかと…」


こっそりと玉座をうかがうが、ガルシア王と女の子は何かを話している。ここまでは到底聞こえない。


いやいやいや。"クエスト"さん?

ふざけんなよ。何してくれちゃってんの?


あの子が王族なら前もって言っとけよ!それならそれなりの対処の方法ってもんがあるでしょ!?バレないようにもっと変装とかできたじゃん。あ、でも一応ボロボロのローブはかぶってたっけ?あれでなんとかならないかな?無理かな?声とかはそのままだったし…。


そもそも、あの子、王女様?だよね?たぶんそうだよね?

何で一人で街の中普通に歩いてんの?しかも裏路地なんて入るなよ!危ないに決まってんだろ!どんなじゃじゃ馬娘だよ!なんて日だ!


「少し近くに行かせてもらってもよろしいですか?」


例の女の子が、透き通る声で発言した。その声は間違いなく、昨日の夜も聞いた声だった。いや日付変わってたから、もはや今日だ。ついさっきの事だ。

そしてその言葉は誰に言われたものかと言えば、真っ直ぐに俺をみているのだから、俺が答えるべきなのだろうか。


「は、はい…」


近寄らないでください。困ります。

とは到底言えない。


女の子は俺の目の前まで降りてくると、ドレスの裾を少し持ち上げて可愛らしく挨拶した。


「ガルシア王族第三王女、ステイシア・ガルシアと申します」


「シュ、シュウ・スペンサーです!この度は御尊顔を拝しまして、恐悦至極にございます!ステイシア・ガルシア第三王女様におかれましては実にお美しく、(わたくし)直接御尊顔を拝するには忍びないと申しますか、何と言うか本日はお日柄もよく…」


必死に頭を下げてあれこれ捲し立てるが、ダメだ。俺のボキャブラリーではたいして時間なんて稼げない。

そしてめっちゃ顔を覗き込まれてる…。


「お顔を上げてくださいまし」


「いえその、私めなんぞに勿体無いお言葉とお気遣いでございます。ステイシア・ガルシア第三王女殿下のお目汚しになってしまいま」

「いいからお顔をお上げ下さい」

「どうか王女殿下、お戯を」

「これは命令です。顔をあげなさい」

「はい」


諦めて顔を上げると、本当に目の前にステイシア王女の顔があった。

昨日初めて見た時も品のある顔立ちだとは思ったが、こうして王族としてドレスを着ていると、やはり気品が桁違いだ。

ブロンドの長い髪は流れる様に分けられ、その間から覗く瞳は綺麗な青色。真っ白の肌に桜色の唇。ハリウッドスター並みの美形に、悪い意味で生粋の日本人の俺からすると、少し近寄り難いとすら感じてしまう。


彼女は俺の顔をひとしきり見てにっこりすると、"やっぱり"と言った。

そしてガルシア王に振り向き、断言した。


「お父様、情報と相違ありません」


バレた…。と言うか、これ。

たぶん王宮(ここ)に呼ばれる前から分かってたな。と言うよりも、そうだと思って呼んだな?


「ふむ。シュウ・スペンサー。少し聞きたい事がある」


「はい、なんなりと」


自信満々に断言した王女殿下に対して、王様はまだ懐疑的だ。

でも聞かれたら諦めて答えよう。嘘をつくわけにはいかないし。


「我が騎士団が本日明朝に、とある貴族を摘発した。()の者はこの街のゴロツキを使い、裏社会での誘拐と人身売買に手を染めておった。

その摘発に一役買った謎の人物がおる。捕らわれた罪もない少女達を救い出し、その少女達が騎士団本部に駆け込んだ事で、事が明るみに出た」


あぁ、そう言う感じだったのね。

確かにあの時屋敷にいた見張りも、中途半端なゴロツキって感じだったし。


「その謎の人物と言うのは君か?」


「はい、おっしゃる通りでございます…」


なんだか悪事がバレたみたいな感じ。

家臣の皆様もザワザワと驚いている。


ただ、一番驚いているのは誰あろう、うちの父様だ。目ん玉が飛び出そうなくらい驚いている。苦笑いを返しておこう…。


「アレックスよ、そなたは今回の件知っていたのか?」


「い、いえ、ガルシア王。昨晩、シュウが二時間ほど寝床を離れていたのは知っておりましたが、まさかそんな事をしていたとは…」


頭を抱えて、ため息を隠せない父様。それ癖になってきてるよ。

あと昨日ベッドに戻った時のため息も、気のせいじゃなかったのか。父様のそう言う放任主義な所、本当に助かってます。感謝。


「シュウ・スペンサーよ。聞きたいことは山ほどある。しかし、とりあえず今回の事はご苦労じゃった。捕らわれた中には、わしに関わりのある者もいたと報告があった。

何か褒美を取らそう。欲しいものがあるか?」


お!この流れはイイかも!と言うよりこれ以上ない!

父様も隣でピクッと反応している。ここだよね?父様、ここしかないよね?ただ、どう切り出そう。どう伝えよう。

よし、ニーナと培った【演技Lv1】。今こそ真価を発揮する時だ!


俺は少しだけ悩むフリをすると、王に向かってはっきりと言った。


「いえ、陛下。欲しいものはありません。

僕はローザと言う穏やかな土地に生まれ、父様や母様を初めとした家族や使用人から沢山の愛情を注がれ、これ以上ない程に幸せに過ごせております。これ以上に何か欲しがるとすれば、バチが当たりましょう」


ガルシア王の眉が上がる。

それもそうだ。四歳児が言うことではない。もし俺だったら気味の悪いガキだな、くらい思うかもしれないし。

家臣達も、口をあんぐりと開けて何も言えないでいる。


「アレックス、良い子を持ったな。後で子育てと言うものをわしに教えてくれ」


「勿体無いお言葉でございます」


ガルシア王はイタズラをした少年の様にニヤッと笑ってステイシア王女を見据えた。彼女の顔が、罰が悪そうに少し赤くなったのは、俺しか気付かなかったに違いない。


「しかし、だ。これだけ大それた事をしたのだ。何か褒美を取らさん事には、王家の威信に関わる。本当に何でもよいのだぞ?」


ほらきた。そりゃそうだよね。だって攫われたのは実の娘の王女だもん。(おおやけ)にはしないだろうが、知っている人は知っている。そんな大事件から王女を一人で救い出したんだ。英雄ものの功績だ。


「それではガルシア王、褒美はスペンサー家当主、アレックス父様にいただきたく存じます。僕はこれからもローザの(・・・・・・・・・)地で暮らせるのであれ(・・・・・・・・・・)ば他に何も要りません(・・・・・・・・・・)。それが何よりの幸せです」


この言葉に、はっきりと王様の顔が引き攣る。


ローザにいたい。これを直接お願いすれば断る余地を与える。ただ、四歳の子供が家族と一緒にいる事が何よりの幸せ、と言い切った。

ここから俺を王都に引き留めるってのは言い出しにくいだろう。褒美を与えるとすら言ってるのに、俺の一番の幸せを奪うことになるんだからね。


「ぅぅうむ、しかし。君は魔法に興味があるのではないか?君が望めば、宮廷魔術師団と言う、我が国でも最高の環境で魔法を思う存分に学べるのだぞ?」


まぁ王様も諦めないよね。でも予想通り、その言い方はだいぶソフトだ。命令からは程遠い。

先程もしも俺が、褒美として「ローザに帰りたい」と言っていたら、「それは叶えられん。ここで魔法を学びなさい」と言われていたかも知れないのではないか。単なる憶測だけど。


「魔法はどこでも学べます。僕にとって大切なのは家族とローザで暮らす事なのです。それにローザの屋敷には、ソニアと言う魔法の先生もおります」


「ソニア…?ソニア…。まさか…!"冷酷魔女"のソニアか?」


ガルシア王が今日何度目かの驚きを見せた。家臣達も何か知っている風だ。

ソニア先生、もしかして有名人なのか?


すると隣で父様が俺のかわりに王の言葉を肯定した。


「ガルシア王。そのソニアでございます。ローザで錬金術屋を開いておりましたが、いち早くシュウの魔法の才能に目をつけ、当家の専任講師として二月(ふたつき)ほど前から雇っております」


「なんと、あのソニアが。ふむ。それならば。まぁ。だが、十二歳になれば、王都の魔法学校に入学する。それが条件だ。

それまでシュウ・スペンサーがローザ領で生活する事を許可する。また、シュウ・スペンサーの魔法に関して、一切の口外を禁ずる。他の国に漏れれば誘拐や命の危険もある。破れば厳罰に処す。

それからアレックス・スペンサー。前へ。

本日をもってアレックススペンサー子爵を伯爵とし!金五千万ギルと追加の領地を与える!」


「はっ!謹んで、お受けいたします!」


《クエスト"ガルシア王に謁見し、今後もスペンサー領地で生活する許可をとる"をクリアしました》


《経験値を6000獲得しました。150000ギルを獲得しました》


あー良かったぁ。昨日のクエストもクリアしといて良かったって事だね。やっぱり人助けはするもんだ。

父様と一緒に頭を下げながら、アナウンスを心地よく聞くのだった。







で?これはどう言う状況?


「いやぁ!シュウよ!本当に助かった!娘が城を抜け出すのはいつもの事だが、夜になっても帰ってこないんで、王宮中が大騒ぎだったんだ!そしたら騎士団長から急に連絡があってな!誘拐されてたと聞いた時は本当に肝を冷やしたぞ!そう言えば、例の貴族の件だがな、見張り共々、ウチの諜報がここの地下で話を聞いてる。君が開けた大穴から引っ張り出すのに苦労したらしいがな!…今頃は泣き叫んでいるだろう。…もう殺してくれ、とな。

おっと、子供に聞かせる話じゃなかったな!ほら、菓子を食え!」


バシバシと痛いほど背中をど突かれ、大量の菓子やら飲み物やらを前に、いっぱい食えと促される。

俺の背中を叩いているのは誰あろう、ネウス・ガルシア王、その人だ。向かいの席にはステイシア王女がちょこんと座って上品に紅茶を飲んでいて、チラチラとこちらを見てくる。


謁見の後、使用人に案内された部屋で待っていたら、この二人が急にやってきたのだ。そして王様は先程とは打って変わって気のいい親戚のおじさんと言う感じだ。


助けを求める様に、王と反対側に座る父様を見やるが、父様は謁見が終わった直後から少しだけ不機嫌だ。せっかく伯爵になってお金も貰えたってのに。


「おいおい、アレックス。もうシュウを許してやれ。王女を救った英雄(ヒーロー)だぞ?」


「それについてもですが、伯爵に陞爵されるなんて聞いてませんでしたよ…」


そしてさらにこの状況の難解な点は、ガルシア王と父様の関係性だ。謁見の場面でも途中から"アレックス"呼びなのは気になっていた。にしてもここまでフランクな仲であるとは予想外だ。


「お前がいつまでたっても素直に受けないからだ。それに俺じゃないぞ。シュウがお前にと言ったのだ」


じろっと俺への視線が一層鋭くなる父様。

ごめんって、普通にお金だけかと思ったんだよ。ニーナの事でかなり使っちゃったみたいだしさ…。


「ところでシュウ、どうやってステイシアを助け出したんだ?詳しく聞かせてくれ!どう魔法を使った?」


こうまで直球に聞かれると断りづらいな。なんと言っても王様だしな…。でもローザに帰ると言う約束はもうとりつけたし、まぁいいか。


俺は"消音(ミュート)"や"落とし穴(フォールトラップ)"、そして鉄格子を切断したバーナーの様な火魔法について説明し、実際に見せたりした。


王様とステイシア王女は興味津々と言った様子でそれをふんふん聞いていて、父様はいつも通り頭を抱えていた。


「アレックス、ローザが消え去る事のない様に気をつけておけよ。シュウならいつかやりかねんぞ」


「いやだなぁ王様、それはさすがに気をつけますよ。屋敷では魔法も窓から外に向かって撃ってますし。それにどうせ消すなら南の大森林とかにしますかね。交通の便が良くなるかも知れません」


「シュウ?今度ローザ領に遊びに行ってもいい?」


「はぁぁぁ………」


父様ごめんよ。

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