表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/40

第三十一話 保護クエスト

馬車から半分放り出される様に降りた俺だったが、"女の子を追いかける"と言って許してもらえた事に驚いていた。「おイタ《・・・》はするなよ」と言われたが、四歳児の俺がいったい何をすると思っているのか。


ただ、ラッキーだ。

これであの子を追いかけていける。


俺は少し来た道を戻り、女の子が入って行った路地裏まで戻ると、迷いなく入った。

表通りの明るさとは一転して、暗く、薄気味悪い。不気味とかと言うわけではなく、単純に治安が悪そうだ。


しかしダメだ。父様と三十秒も見つめ合っていたからか、女の子を見失ってしまった。十字路のどこに行ったのか分からない。


「坊やぁ、良い服を着てるねぇ」


そこで都合よく浮浪者の様なお婆さんが絡んできたが、適当に小銭を引っ張り出して掴ませた。


「おねぇさん、同じ様に良い服を着た女の子がここを通ったと思いますが、どっちに行きました?」


「え?おね、あ、…あっちだよ」


「ありがとう」


それは大通りからどんどんと遠ざかっていく方向だった。

遠ざかれば遠ざかるほど、得体の知れない物を売っている商店が増えていく。


俺は一度足を止めて、露天に並んでいるうちのボロボロのローブを指差して言った。


「これ、いくら?」


「それは20000ギルだ、ククッ」


高いよ…。これどこで拾ってきたんだよ。穴だらけじゃんか…。

その男に俺は30000ギル渡す。


「釣りはいらない。ただ、先程女の子が通ったでしょ?どっちに行った?」


「おーおー。威勢のいいガキだなぁ?もう30000出しな」


「"炎剣(フレイムソード)"」


「ヒッ…!?」


その小汚い男の喉元に、火魔法で作り出した炎の剣を突きつける。その明かりによって炙り出された男の顔には恐怖が見えた。

指先に火を灯す魔法の応用だからこの剣自体の殺傷能力はあまり無いが、迫力は確かにそこそこある。


「こっちは妥協してやってるんだ、早く言え」


「くっ、走ってあっちに行っちまったよ!ありゃ良い値で売れるぜぇ?グルーヴ兄弟の獲物じゃなきゃ俺がいただいたんだがな?」


「グルーヴ兄弟?」


「ほれ、アンタの連れだろ!?早く行かねぇと、連れてかれっちまうぜぇ!?」


「くそっ」


炎の剣を納め、全力疾走する。

曲がり角に会うたび、そこらの浮浪者に聞いて回るが、とうとう完全に分からなくなってしまった。


クエストの期限自体はあと一日程あるが、痕跡が途切れた。唯一の手がかりは"グルーヴ兄弟"だ。

先ほどの露天の男の所に戻るが、そこはもぬけの殻だった。


仕方ない、手当たり次第にここいらのゴロつきに聞いて回るか。あと一時間で一度宿に帰らないといけないからな。


そして路地裏で情報を聞いて回る事三十分。

グルーヴのアジトを知っていると言う男に金を払った所で、ミニマップ上に"?"が表示された。今までの経験上、恐らくはグルーヴのアジトの場所か、それに準ずる情報を得られる場所がミニマップに追加されたのだろう。


とりあえずは一区切りだ。

人攫いにしてもなんにしても、"保護する"クエストの有効期限が明日だから、まだ女の子は無事だろう。

夜に父様が寝てからまた探しに行くしかない。









「時間通りだな」


「はい。すみませんでした」


"龍宮亭"の宿に着くと、父様は仁王立ちで待ち構えていた。その表情からは何も読み取れない。怒ってるとも言い難い。困ってる?が一番正しい気がする。


「それで?」


「はい?」


「女の子とはどうなった?」


これは、どう言う意味で聞いているんだろう?

深掘りするのすごい怖いんだけど。でも正直に言おうか。なるべく。


「えーっと、それが見つけられなくて、まだ話せてません」


「二時間ずっと探し回っていたのか、そんなに服を汚して」


「まぁ。そうです」


「はぁ、もういい。風呂に行ってこい」


父様がどう言う解釈をしたのかは分からないが、俺はそれ以上追求されなかった。頭を抱えて、"血は争えんか…"とか言っていたのは聞かなかった事にする。







その夜。


父様が寝静まってから、俺はこっそりと宿を抜け出した。

"龍宮亭"はセキュリティがしっかりしているため、専用のカードキーが必要な事はちゃんと調べてある。


外に出ると空気の冷たさにびっくりする。

もうすぐ冬本番が来ようかと言う時期、既に夜は防寒具が必要な程だ。


ミニマップをみながら王都を走り回るが、さすがに王都といえど夜中の人通りは少ない。


"?"の方向に進んでいるが、二十分くらい走っても一向につかない。もしかして王都の外に連れ出されてしまったのか…?


そんな不安がよぎり始めた頃、ようやく"?"の場所に到着した。


俺の予想と反して、そこはかなり立派なお屋敷だった。

人攫いのアジトかと思って来てみたが、もしかして事情が違うのか?


しかしこの場所で、少なくとも何かしらの情報が得られるのは間違いない。


俺は昼間に路地裏で買ったボロボロのローブを頭から被る。こんな犬小屋に敷いてたレベルの布を纏うのはごめん被りたいが、身バレを防ぐためには必要だ。まだ臭く無いだけマシか。


さぁ、いざ侵入する前に、情報収集だ。

まずはミニマップ。屋敷の中の、敵を示す赤い点は八人。そして青い点が十人。その中に"?"が一つ。ほぼ間違いなく、この"?"を目指すべきだろう。


様子をうかがいながら屋敷の外側をぐるっと一周する。屋敷は部分的に明かりがついており、人がまだ何人か起きている。光魔法の"望遠(スコープ)"で確認すると、貴族風の小太りの男が書斎に座っているのが見えた。どうやらここは貴族の屋敷だったらしい。


そして屋敷の玄関や庭、門などにいる数人の男。見張りっぽいこいつらは、防具や持っている獲物からして冒険者では無い。ただ、どいつも頭の上のアイコンは黄色。真正面からやり合えば負ける可能性が高い。


屋敷の中には見張りは確認できない。廊下などに動く灯りはどれも使用人の物だ。


さぁ、出来れば大事(おおごと)にはしたくない。戦闘になって近接戦だと不利だし、対人での魔法は加減が分からない。殺してしまうかもしれない。


何か良い魔法があったかなぁ。

そういえば、風魔法で"拡声(ノイジー)"ってのがあったな。あれの効果を反転させたら、もしかして音を消せたりしないかな?名付けて、"消音(ミュート)"。


魔法を発動してみて、試しに近くの石ころを蹴ってみる。蹴った石が五メートル程先まで石畳みを跳ねるが、音はしなかった。


いいね、これ。周囲の音を消す魔法。

自分の声も消えちゃうし、もしかして外の音も遮断してるかもだけど、何かと使えそうだ。


屋敷の裏手に回ると、適当な所で"消音(ミュート)"を発動。そこそこ魔力消費が大きいので効果時間は二十秒だけ。その効果時間中に、地魔法で塀を崩した。塀はなかなか派手に崩れ落ちたが、音は一切しない。ミニマップ上で、見張りが慌ててこちらに走ってくる様子もない。


よしよし。


次は屋敷の窓に近づいて、中を確認。誰もいない部屋だと確認してから、またしても"消音(ミュート)"。窓ガラスを堂々と割る。


潜入成功だ。

あとは"?"に向かっていけば良い。


そこから青い点の使用人にかち合わない様に気をつけながら"?"の方へと進むと、廊下の突き当たりの扉にたどり着いた。鍵がかかっている。


またしても魔法で音を消しながら扉の鍵を壊す。

すると地下への階段があった。確かに地下ってのはお決まりのパターンだね。


気をつけながら進むと、ビンゴ。

そこには鉄格子で囲われた牢屋の様なものがあり、女性がそこに五人ほど囚われていた。


その内の一人は、今日出会ったあの女の子だ。


「あ、あなたは?」


女の子は起きていた。

俺はすぐに指を口の前に立てて、静かにする様に促す。このジェスチャーはこの世界でも通用する様だ。

女の子の声で他の四人が起きてしまったが、ボロボロのコートをすっぽり被った俺がこの屋敷の人間ではないとすぐに分かったのか、騒ぎ出す人はいなかった。


「みなさん落ち着いて。決して大きな声を出さないで下さい。一応尋ねますが、あなた達は街で誘拐されてここまで連れてこられた、と言う事で合ってますか?」


「そうよ!」

「声を落として…!」


女の子が思わず声を張り上げたが、幸い上階の人には聞こえてないみたいだった。


「あなた達は?」


女の子以外の四人の境遇も似た様な物だった。

この街以外で誘拐されて、売られてここに辿り着いた、と言う人もいた。女の子以外は、全員が二十代半ばくらいだ。その中には、獣人の人や、俺の知らない種族の人もいた。


「では、全員ここから連れ出します。意外と大所帯になってしまったので、帰りは道を作りますか。とりあえずみなさんそこから出しますね。身振りで指示しますので、ついて来てください」


ここでも消音魔法が活躍。

鉄格子は火魔法をバーナーの様にして一本だけ切ったら細身の女性ばかりなのですぐに出てこれた。


五人は消音魔法に戸惑っていたが、俺が手振りで促すと、地下の壁際までついて来てくれる。


帰りは簡単。

"落とし穴(フォールトラップ)"で、壁に人が通れるサイズの大穴を開ける。とりあえず水平に三十メートルくらい。これだけ掘れば敷地の外に出れるだろう。


女性達は全員がほぼ同じ、口元に手を当てて目を見開くと言うリアクションをしていた。


消音魔法を切り、今度は光魔法で通路の中にいくつもの光球を浮かべる。俺ほど、小さな光球を作るのが上手い魔法使いは他にいないのではないだろうか、と言う自負があるほどに慣れた魔法だ。


「ではついて来てください。足元に気をつけて下さいね」


女性達を連れて通路を行き、ミニマップで屋敷の敷地外まで出た所で、今度は真上に大穴を開ければ、夜空の星が見えた。


そこで少し予定外の事が起きる。

どうやら屋敷の人達に気付かれていたらしい。


既に地下牢側の方から、見張りの男達が必死の形相で追いかけてきていた。


「みんな、こっち集まって早く!」


俺は上に開けた大穴の下に女性達を集めると、魔法を詠唱した。


あぁ、こんなにたくさんの女性と密着する事になるなんて…。お互いに着ているものはボロボロだし、清潔とも言い難いけど、この感触だけは本物だ…。

いかんいかん、集中しないと、失敗したら洒落にならん。



本家(・・)の方を使う時が来るとはね。ではみなさん、頭や手を外に出さない様に。上に上がりまーす。土よ、高く、せり上がれ、"土盾(シールド)"」


詠唱の後、俺達の足場が突如として盛り上がり、俺達六人を地上まで押し上げた。


通路を走っていた見張り達は突如現れた壁にぶつかっている事だろう。いや、さすがにそう上手くはいかないか。いってたらいいな。


「さぁ、ここからは何も考えてません。どこに行けばいいか、誰か良い案はありますか?」


外に出られた喜びでそわそわしたり、俺に感謝を述べたりしている彼女達の中で、あの女の子だけは違った。


周りをキョロキョロと見渡したかと思うと、鋭い声で叫んだ。


「騎士団本部まで走るわよ!近くの詰め所だとこの貴族の息がかかってる可能性も捨て切れない!ここからなら本部まででも十分かからないわ!」


どうやらここは知っている場所らしい。


「彼女に従いましょう。見張りにバレているので追っ手が来るかもしれません」


「すみません…。私は脚を痛めつけられて走れそうにないわ。方向だけ教えて。後から行くから」


全員が走り出そうとした所で、一人の女性が歩きながら言った。俺は素早く女性に近付くとその脚を見て絶句する。


脛あたりから足首にかけて、骨が見える程の傷があった。何本もの線状の傷跡。これは、鞭か?とにかく時間がない。


「………ヒール。これでどうですか?」


「え?…あ。こ、これなら!走れます!」


「では皆さん彼女についていって!僕は追っ手の足止めを!」



先頭を走っていた女の子が振り返るが、すぐに全員をつれて走り出した。



俺はと言うと、屋敷からぞろぞろと慌てて出て来た見張り八人の前で仁王立ち。


「後を追いたけりゃ、俺を倒してから行きな!」


一度は言ってみたかったこのセリフ。

意味はちゃんとある。一瞬でも彼等の脚を止めれば、魔法を撃てる。

ほーらもっと早く近づかないと。この距離だと、俺の勝率の方が高いよ。


見張り達が刃物を振りかぶって三メートル前まで来た時に、俺は魔法を発動する。


「"奈落落とし(フォールアビス)"!」


目の前で大の男達が全員消えた。

直径五メートル、深さ二十メートル程の大穴に落下したのだ。かっこよく名前を変えてみたけど、つまりは"落とし穴(フォールトラップ)"の深いやつだ。


死んではないと思う。多分。アイコンが黄色って事は、そこそこの強さはあるだろうからね。そう言えば結局、グルーヴ兄弟はどれだったんだろ?まぁいっか。


さて。それはそうと。そろそろ寝床に戻らないとな。父様にバレると叱られちゃうだろうし。でもあの女の子を保護するってクエストがどこまでなのか分からないし。


幸いにも"竜宮亭"と騎士団の本部は同じ方向の様だったので、そちらに走っていると頭の中にアナウンスが流れた。


《クエスト"不審な女の子を追いかけ、保護する"をクリアしました》

《経験値を8000獲得しました。150000ギルを獲得しました》

《レベルが9に上がりました。ステータスが上昇します》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ