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第三話 転生

「君のことは、私が転生(・・)させてあげよう!」


女神様は朗らかに提案した。


「え?女神様が!?あ、ありがとうございます」


「いいよぉ。なんか面白そうな事になってるし」


それは俺を不憫に思ってとかでは無いんだ…。いや助けてもらえるならなんだって文句はないしありがたいし、この女神様に頼るしかないんだけど。


「ではでは、いっくねー」


「ちょっ!ちょっと待って下さい!」


「………なに?」


あっぶねぇ。またいきなり説明もなしになんかされる所だったよ。女神様って皆こんな感じなのか?

天界にいるから人付き合いが苦手とか?まぁそんなこと俺に言われたくも無いか。


「すみません。まず少しだけ状況を知っておきたくて…。まずは、そう、その…。女神様のお名前とか教えていただけないですか?」


俺の質問に、女神様はびっくりしたみたいにきょとんとした。そんな顔も愛嬌が振り切っていて可愛い。

そうか、運命の女神とやらと比べて可愛いと感じたのが、この女神様の方が日本人寄りな顔だからかな?

少し背が低くて華奢。くりっとした目に通った鼻筋。薄い桜色の唇。前髪が切り揃えられているのも可愛らしさを引き立てている。


「名前かぁ、考えたこと無かったなぁ。幸福の女神とかって言われてるけど。なんか呼びやすい名前つけてもらってもいいよ」


「ええぇ。それでは、そうですね………。ロキ様とお呼びしても良いですか?」


「ロキ?うーん…まぁなんでもいいよ」


幸福の女神とギリシャ神話に出てくる悪戯好きの神ロキは全然違うと思うのだが、神様に名前を付けるどころか子供やペットにすら名前をつけたことなんてない。

神様という共通点だけで提案してしまったが今はそこにそんなに時間を割くわけにはいかないのだ。そもそも神様の名前なんてそんなに知らないし。


ただ、この女神様も悪戯っぽく笑うところなんかもあるからあながちイメージとしては遠くない気がする。本人の反応はイマイチだったが。


「ではロキ様。先程の様子からして、僕が運命の女神様に置き去りにされたこととか、他の高校生達がヴァスティオ帝国とかいう国に転移させられた事はもうご存知なんですよね?」


「うん、君の記憶を見せてもらったからね」


やっぱり、あの額合わせはそんな感じだと思った。記憶を読み取られたとか、たぶん。


「では、僕の事を転移させていただけるとの事ですが、他の高校生たちと同じヴァスティオ帝国に送られることになるのでしょうか?」


「それは無理だね。違う国だよ。と言うか転移じゃなくて転生(・・)ね」


カラカラと笑いながらロキ様は俺の言葉を否定する。


「転生、ですか?つまりは僕だけはヴァスティオ帝国以外の国で0歳からやり直す事になると…?」


「うん!そゆこと。私には運命の女神ほどの力がないからね。ほんとは運命の女神でもそんな大勢の転移はできないはずなんだけど、それは置いておいて。じゃあとりあえず説明も面倒だから、飛ばすね?いい?」


「いや、もうちょっと聞きたいことが!?」


「もうだーめ、待てない」



ロキ様がまた頬に手を当ててくる。

もっと説明が欲しかったがその手を払い除ける訳にもいかず、ひやりとした手の感触に何やら悪寒を感じた。


「ちょっと痛いかもだけど、我慢ね、男の子でしょ」


その言葉の直後。


身体の中心が裂けた(・・・)


そう思った程の激痛に叫び声すら上げられない。どこが痛いとかではない、身体が急にバラバラに引きちぎられたみたいだ。


しかしその痛みは、ほんの一瞬だけで嘘のように消え去った。



そして、今度はなんだか苦しい…。

息がつまる。そう思ったのもつかの間で、すぐに辺りが明るくなった。


明るくなったと言っても、何か見える訳ではない。

どうしてか、まぶたが開けられない。そしてなんだか、うるさい。泣き叫ぶ声がする。


その声に混じって、ぼわんぼわんと誰かの声が聞こえた。それもなんだかよく聞き取れなくて、何言ってるのか分からない。


身体が持ち上げられた。…気がする。

と思ったら誰かに抱かれた。とても大きな手だ。不思議と落ち着く。



あぁ。

思い出した。転生(・・)したんだった。

つまり、俺は今、生まれ変わったと言う事だ。


"その通り、おめでとう"


悪戯っぽい声が頭に響いた気がした。







ぼーっと意識が覚醒すると、それはまさに知らない天井だった。それに視界が知ってるのと違う。目が良くなったと言うか、全ての色が鮮やかにはっきり見える。ってかここはどこだ。


身体をむくっと起こすと、そこは知らない部屋だった。

ただ、間違いなくお金持ちな家ではある。俺が今の今まで寝ていたベッドだって、多分キングサイズとかの大きいやつだ。それに天蓋までついてるし。


"やっと目が覚めた?もーいつまで寝てるのよ。暇で仕方なかったわ"


あ、頭の中に声が響く!?この声はもしやロキ様!?


"そぉよ。産まれた時以来だから三年ぶりね"


三年!?そんなに一瞬で経ったんですか!?ってことはもう三歳!?


"そうなるわね"


そして残念ながら、どれだけ必死に思い出そうとしても、産まれた時から今までの記憶は曖昧だった。全然ないわけではないが、夢を見た時の様に、思い出そうとするたびにするりと手から滑り落ちていく感覚。


だが、それよりも今はこの場面をどう乗り切るかだ。

なんてったって、この俺が寝ていた部屋には、俺以外にも人がいる。


椅子に座り、本を読んでいる女性。

三十代半ばだろうか。とても綺麗な人だ。もちろん女神様程じゃないが、人類の中では間違いなく上位に属する。


そして、俺はこの人が俺の母親だと知っている。

この三年間の(おぼろ)げな記憶が、彼女からの愛情を覚えている。


「かあさま」


その言葉は自然と出た。

まるで産まれてからずっとそう呼んでいた様に。

ただ、それは日本語ではない。きっとこの世界の言語だろう。


「あら、シュウもう起きたの?」


本を置いて近づいて来る母親。彼女にシュウと呼ばれたことにドキッとする。

ん?俺、今シュウって呼ばれた?


"そこら辺はうまいこと言っといたわよ。前の名前の方が呼ばれ慣れてるでしょ?"


言っといた…?どうやって?


"夢枕に立った、みたいな?"


なんとかうまいことやってくれたらしい。

母様は俺を軽々と抱き上げ、そのまま抱っこしてくれる。


人に"抱っこ"されるのってこんな気分か。

産まれてからずっとされてるんだけど、初めての様な不思議な感覚だ。

でもめっちゃいい匂いがする。めちゃくちゃ美人な女性に抱きかかえられて変な物に目覚めちゃいそうだ。だ、だめだ、相手は人妻だぞ。そもそもが母親だ。


「さぁ、朝食を食べに行きましょう。お父様とお兄さんも待っているわよ」



抱っこから降ろされ、手を繋いで部屋を出る。


何というか、それは普通の家ではない。

規模が、家という枠で収まらない。前世で言うと、旅館とかが一番近い。つまり、広すぎ。

とにかく長い廊下を歩き、吹き抜けの広いエントランスを降りて重厚な両開きの扉まで来ると、そこに立っていたメイドが扉を開けてくれる。


メイド…!本物のメイドだ!

ひらひらしたフリルなんかはついてはいないが、やはり白と黒のシックな色の装い。そしてその服に劣らぬ美少女。ただどこか元気がないというか、うつむきがちだ。何かあったのだろうか?

これは話しかけるチャンスかも知れない。後で絡んでみよう。なんせ今は三歳児だからな。下心もバレまいて。


"こっちには筒抜けだけどねー。あんまりひどいと天罰、与えちゃおっかなー"


ぐっ!ロキ様!まさか四六時中視ているつもりですか…?


心の中で天使と悪魔が葛藤しているシーンは知っているが、まさか神様に常に監視されるなんて…!


"冗談冗談。ロキちゃんは愛には寛容だからねー"


そんなメイドやら女神様やらに気を取られていると、母親にそっと背中を押されて部屋に入るよう促された。

何故ならそこにはすでに二人の人物がテーブルについていたからだ。


「おはよう。シュウ。まだしんどいかい?」


「おはようございます。兄様ありがとうございます。まだちょっとしんどいです」


朗らかに声をかけてくれたのは、四つ歳上で七歳の兄、クリスである。

俺は椅子に着席しながら、きっとまだ拙い異世界の言語で返す。三歳でもこれくらいの簡単な会話ならなんとかなるのか。三歳ってすごいな。


「△※家の子たるもの、○&%の体調くらい管理しておかねばならん。∂¥♯?@できぬ者が、どうして●〒↓!∮できようか」


気難しい顔で厳しめの事を言っているっぽいのが、シュウの父親のアレックス・スペンサーである。

なにか説教じみた事を言われているのかも知れないが、三歳の語彙力では聞き取りに問題があるな…。所々難しい言い回しが理解できない。


"子爵家の子たるもの、自身の体調くらい管理しておかねばならん。己一つ管理できぬ者が、どうして領民を管理できようか。って言ってたのよ。わざわざ理解させる気もないから、三歳に難しい言葉使ってるんだねぇ、きっと"


ロキ様が翻訳してくれた。

ありがたいが、いつまでも頼るわけにもいかないもんな…。ちゃんと勉強していかないと…。


それと、うちって子爵家だったの!?まさかの貴族かよ!?どうりで家が広いと思ったよ!?メイド(しかも美少女)もいたしねぇ!?


ラノベでも貴族に転生する物は多々あるけど、正直言って礼儀作法とか貴族間のしがらみとか考えるの絶対嫌だわって思ってたのに。まさか自分が貴族様をする事になるとは…。


つまりは、アレックス父様はスペンサー子爵家の現当主って訳だ。


父様とクリス兄様以外の家族構成を紹介しておくと、シュウの横にいる母親の名前がクレア・スペンサー。父様の正妻で、四人の子の母親。既に十二歳になって王都で学生をやっているウィリアム兄さんと、もうすぐ一歳半の妹ニーナを合わせて四人。


「あなた、そんなに厳しくしなくてもいいでしょう?子供にとっては風邪をひく事だって大切な意味があるのよ」


「お前はいつもそうやって甘やかす」


そうそう、それくらいの簡単な会話ならついていけるんだよ。ギリギリだけど。


両親二人は表面的にはこんな感じ。父様の方が威厳がありそうに振る舞っている。しかし本当は母様の方があらゆる面において強い事を兄弟は皆知っていた。


ちなみに父様に体調がどうと言われたが、俺はどうやらここ三日間ほど熱を出して寝込んでいたらしい。記憶が戻った事と何か関係があるのかは不明だ。


「ところで。シュウ。お前も、もう三歳だ。クレアとも話したが、そろそろシュウも⇔≪○、あーつまり、この街の事について勉強していくべきだろう。メイドを一人つけるからそのつもりでいるように」


あ、今度は言い直してくれた。父様は厳しそうに見えて優しいところもある。


加えて、外出許可は素直に嬉しい。

三歳だからと家の中に閉じ込められるなんてたまったもんじゃない。PCもないのに。


「わかりました、とうさま。ありがとうございます」


「あ、あぁ。準備しておくように」


父様は少し驚いたような反応だったが、動揺を隠すように運ばれてきた朝食に手をつけ始めた。


そして朝食が終わると、俺は母親からまだ自室で休むように言いつけられた。


よし、この時間を有効利用して、現状の把握に努めよう。情報源はもちろん、ロキ様だ。

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