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第二十八話 冒険者になろう!

「先日はジェームズの授業をさぼったそうだな?」


ギクリ…。


朝食の席で父様から冷ややかな言葉が浴びせかけられた。正面に座るクリス兄さんと、その奥に見える執事のジェームズさんは知らん顔だ。

母さんは少しおろおろしていて、ニーナも不穏な空気を感じ取っている。


父様が外出から帰ってきたのは、魔物生態のクエスト達成から三日後の事だった。そして今日の朝、三日前の粗相を指摘されているわけである。


「はい、すみません」


「言い訳はしないのか」


「はい…。ジェームズさんにご迷惑をかけた事にはかわりないので…」


ジェームズさんの視線が一瞬こちらに向けられるが、すぐに戻った。父様も朝食の手を止める事なく淡々と話す。


「ふむ。何をしていたかはサルヴァトーレから聞いている。確かに授業はすっぽかしたが、遊んでいたわけではない様だな。冒険者ギルドでローザの森の魔物の生態を調べていたとか?」


「はい。もっと詳しく知っておくべきと思ったので」


嘘ではないギリギリの言い回しだ。


「そして結果的に、レイ・サイフォスを見つけた、と」


その人物の名に反応しなかったのはニーナだけだった。


「れいさい…だぁれ?」


あぁ可愛い。怒られている時に不謹慎だけど可愛い。


「レイ・サイフォスって、あの(・・)レイ・サイフォスですか!?父様!?」

「まさかレイさんがここに…?」


およ?レイさん?まさか母様もお知り合いで?


「母様もお知り合いなんですか?」


軽々しく聞いた俺に父様の視線が突き刺さった。

これは聞いてはいけないやつだったのか?


「レイ・サイフォス殿とは、私と母さんは古い知り合いだ。招待しても向こうからは来ないだろうから、今日にでも私と母さんで挨拶に行く。シュウ、よく彼を見つけたな。彼に聞きたいこともある」


あ、もしかしたら月光草の事を聞くのかな?それならそっちは父様に任せよう。


「父様!是非僕もご一緒させて下さい!かの有名な"魔剣豪"レイ・サイフォス殿に会ってみたいです!」

「まぁ、良いだろう」


あれ、クリス兄さんそんな感じ?でも失望すると思うよ?だって見た目はただの浮浪者だし、臭いし、口悪いし。剣すら持ってないんだから"魔剣豪"の要素ゼロだよ?

あ、そうだ。それならいっそアッチ(・・・)も頼んでみよう。今しかない。


「父様、僕はレイ・サイフォス殿に、僕とクリス兄さんの剣術指南をしていただけないかと思っているのですが…」

「父様!それは良い考えです!シュウに賛成です!」


父様の眉間に皺が寄る。

こう言う時はだいたい断られる時だ。


「それは難しいだろう、恐らく彼はお受けにならない。自分の興味のある事しかされないお方だ。王の勅命を蹴った事もあるくらいにな。おっとこれは言ってはまずかったか」


おいおい、レイさんってば何してんの?

王様の命令無視しちゃヤバいでしょ。信念突き通すにも程があるよ。


「それはそれとして、シュウ。冒険者に興味があるそうだな?」


「あ、は…はい!」


さてはサルヴァトーレだな?俺が冒険者に興味を持ったと思ったんだろうが、大正解だ。冒険者なんて楽しそうなもの登録しない手はない。新しいクエストの発生も期待できるし。


「何故だ?」



「はい。領主はその位に応じた軍隊を持つ事が許されています。その正規軍に対して冒険者は第二の軍隊と言われます。それは魔物や敵国との戦時の際に貴重な戦力として扱われるためですが、僕は冒険者と言う人種がどの様なもので、その仕事も知りません。ですので、僕自身も冒険者として活動して行く中で少しでもこの街の冒険者、そして冒険者ギルドと関係を築けたらと思っています」


どう?どう?この回答?三日かけて考えたんだけど?

お願い父様!別に損にはならないでしょ、ねぇ?


「うむ、そこまで考えていたか。良いだろう。冒険者登録を許す。ただ条件がある。初回の依頼はサルヴァトーレを見守りとして連れて行く事だ」


「分かりました!ありがとうございます!」


《クエスト"冒険者になろう!"を受注しますか?》


ほら早速きたよ!サルヴァトーレは今日空いてるかなー?








「よくご当主様がお許しになられましたな。私が報告した際には難色を示しておられましたが」


「そう?快諾だったよ」


運良くサルヴァトーレを捕まえた俺は、父様達より一足先にと冒険者ギルドにやって来た。

俺達は走ってくるからすぐだけど、父様達は馬車の用意なんかもあるからまだかかるだろう。来たら騒がしくなるから早めに登録してしまおうという魂胆だ。


「リズさんおはようございます!」


「はい、おはようございます。本日はどの様なご用件でしょうか?」


「冒険者登録をしにきました!」


俺の言葉に一瞬固まるリズさん。

四歳児は登録できないなんて規則がないのは確認済みだ。

リズさんはサルヴァトーレに目で確認すると、サルヴァトーレは苦笑いで返答した。


登録自体は簡単だ。

書類を書いて、顔写真を撮って、待つだけ。


書類には名前と経歴、職業、使用武器、使える魔法などを書く欄がある。

どうせ一番下のFランクからだろうし、適当に埋めて渡しておいた。職業の欄は"祝福の儀"でまだ【鑑定】もしてもらってないから空欄。もし分かってたとしてもゲーマーとはかけないけど。


武器は剣、使える魔法はそうだな、風魔法くらいにしとくか。この歳で剣と魔法両方できるという事にリズさんが驚いていたけど、どっちもまだ大したことはできないよ。


書類を受け付けてもらっている間に依頼の掲示板を見に行く。


「ヴァトがいるから、Cランクまでなら受けれるんだよね?」


「可能ですが、私は今回はお手伝いしませんので、身の丈に合った内容をおすすめ致します」


「分かってるよ」


そして俺が選んだのは、ピッグボアの討伐三匹だ。

ピッグボアは意外と強い魔物だ。四人パーティでなら討伐ランクはEランクだが、ソロだとDランクまで上がる。


「そうですな。ピッグボアであれば"アレ"がありますからな。シュウ様ならソロでも十分安全に狩れるでしょう」


依頼書をリズさんに持っていくと、案の定Fランクでは到底受けられないと言われたが、サルヴァトーレが受けると言って無理やり通した。

迷惑かけてごめんねリズさん。


貰った冒険者カードには大きく"F"と書いてあり、顔写真と名前、職業が書いてあった。


《クエスト"冒険者になろう!"をクリアしました》

《経験値を1000獲得しました。5000ギルを獲得しました》


経験値1000か。まぁこんなもんだろう。登録するだけだったし。


冒険者ギルドから出る前に、レイ・サイフォスの所に寄っていく。この三日ほどは、初対面の時ほど酔っ払ってはいない。


「レイさん、どうか、よろしくお願いします」


「めんどくせぇ。何のことだ。教師のことならしねぇって言ったはずだぜ」


「その事じゃ有りません。でも、どうかよろしくお願いします」


俺は精一杯頭を下げておく。

これから父様がここに来る。そして月光草についてもきっと尋ねるはずだ。Sランク冒険者なら普通は知らない事も知っている可能性はある。


「チッ…。まためんどくせぇ事が起きそうな気がするぜ」


俺は苦笑いだけ返すと、その場を後にした。




サルヴァトーレと森まで移動する方法は馬車だ。

金がもったいないと歩いて行く冒険者も多いが、お金には今のところ困ってないので、馬車の中でコソコソと魔法の練習をしながら行くことにする。もうちょっと成長したら、走って行ってもいいかな。


魔法練習に選んだのは、微風を作ると言う風魔法だ。これなら馬車の一番後ろに乗って外に向かって放てば周りからはバレない。



一人で森で活動するのは、今回が初めてとなる。


サルヴァトーレがついてきているのだが、これは言わば今後一人で森まで来ても大丈夫かどうかのテストみたいなもんだと思う。


普通の四歳児では絶対にダメだが、父様なら許可をくれそうな気もする。


俺としては、一人でもやっていける自信はある。

ミニマップでの索敵に加えて、魔法での先手、それからオーバーパワーを使った近接戦闘。最大魔力量の点でもガス欠の可能性は少ない。


魔物の種類と、その情報も頭に入っている。一線を見誤らなければ大丈夫だ。ただ客観的に見ると、俺は危機管理が甘い。命よりもレベル上げの効率を重視してしまう節がある。そこは常に自制していかないと。


「さぁ、いつも通り行くよー」

「約束通り、私は命の危険があるまで手出ししませんので」


俺はミニマップの赤点を確認しながら、それを避けて奥の方へ進んでいく。ここらへんのはスライムかゴブリンだから無視無視。


五分ほど進んで、赤点が三つになり始めた頃で、ようやく戦闘開始だ。


敵にバレない様に近づくと、コボルトが三体見えた。


魔法を準備して、三匹の視線がこちらから逸れたタイミングでウインドカッターを放つ。それと同時に静かに飛び出した。


ウインドカッターが奥の一匹に命中。狙い通り首だ。致命傷。そして手前二匹の注意がそちらに向けられている内に、近付いて剣を一振り。さらに返しの一閃。

姿を見られる事も無く、残りのコボルト二体を屠った。


《コボルトを倒しました。経験値を30獲得しました》

《コボルトを倒しました。経験値を30獲得しました》

《コボルトを倒しました。経験値を30獲得しました》


「ふぅ〜、まぁこの流れが無難か」


コボルトが着ていたボロ切れで剣についた血を拭う。


今回、コボルト三体に対して使った魔力は30のみ。これは今の魔力総量の5%程で、【魔力回復促進Lv2】もあるから一分も経てば回復する量だ。

こちらにはダメージもなく、体力消費も最低限。よしよし。ただ、初手の魔法を外した時のパターンもしっかり練っておく必要があるかな。一気に三対一だからね。圧勝とはいかないだろう。初手の魔法をもっと当たりやすい物に変えても良いかな。魔力には余裕がある。

最悪の場合、魔法で全部どかーんとやって、魔力回復してから動き出す、と言う方法も無くはない。


それ以外に差し当たっての問題は剣だな。剣はどうしても消耗品になる。魔具でもなければ斬れ味が落ちたり刃こぼれしたり欠けたりするだろう。武器が無くなるとソロにとっては死活問題だ。早い内に魔具を一本手に入れておくべきか。いくらするんだろう?


「サルヴァトーレ、魔具の剣って買うとどれくらいするの?斬れ味が良くなくてもいいから、刃こぼれとか防ぐ機能があれば十分なんだけど。………サルヴァトーレ?」


サルヴァトーレは草むらの中で呆けていた。


「シュ、シュウ様。見事な手際に感服しました」


「はは、ありがとう」


サルヴァトーレとはここ最近一緒に森に行って無かったからね。多少は成長してるところを見せれたかな?


「で、魔具っていくらする?一人だとせめて剣の性能が維持できないと連戦がきついんだけど」


「魔具の剣だと、安いのでも一本百万ギルはしますな」


「かぁー、そうだよね。百万かぁ、今の稼ぎじゃ厳しいかな」


クエスト報酬をこつこつ貯めているが、まだ五十万ほどしかない。

ちなみに前に父様から渡されていた毎月十万のお小遣いはすでに打ち切りを申し出ている。


仕方ないからこつこつ貯めるかな。

クエストをたくさんこなしていけば無理な数字ではない。


気を取り直して再び歩き出す。


するとまたしても赤点を発見。今度は四体だ。

いけるかなー?まぁ見に行くだけ行ってみよう。


またコソコソと近づいていくと、ゴブリンが四体。

今度は各々が少し距離を取ってゴソゴソしている。何か食べ物でも探しているのか。


よし次は魔法を試すぞー。


まずは光魔法。綺麗な光の球を作り出すと、それをふわふわーっと四匹の中央辺りに飛ばす。


一匹のゴブリンがそれに気づいた。


「ゲギャゲギグ!?」


すると他の三匹も集まってきて、四匹で光の球に向かって手を伸ばす。


「ウインドカッター!」


そこで今度は特大のウインドカッター。

直径二メートル程の風魔法が四匹の胴体をスパッと通り過ぎたら、四匹の身体がバラバラと崩れ落ちた。

ウインドカッターはそのまま奥の木を三本ほど切断して消えた。うーんちょっとオーバーキルだな。


《ゴブリンを倒しました。経験値を16獲得しました》

《ゴブリンを倒しました。経験値を16獲得しました》

《ゴブリンを倒しました。経験値を16獲得しました》

《ゴブリンを倒しました。経験値を16獲得しました》


今のウインドカッターは魔力消費80。

回復には三分でお釣りがくるくらいかな。やっぱり魔法は楽で良い。四匹以上だと当分はこっちだな。


「おーい、ヴァト。次行くよー」


こうして俺は森に入って二時間足らずでピッグボア三体の討伐を完了したのだった。

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