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第二十六話 冒険者ギルド

今日の天気は大雨もいいところ、言ってしまえば豪雨だ。台風並み。


そんな中、雨合羽を着た俺とサルヴァトーレは屋敷から冒険者ギルドに向かって走っていた。


雨合羽と言っても、ビニールなんてある訳ないので、魔物の革のコートだ。しかも二人揃って低級魔物の安いやつ。もっと良いやつも屋敷にあるんだけど、理由があって安物を着てきた。それでも性能的には十分だ。水を弾いて、頭と身体が隠せればオッケー。


騙して連れてきておいてなんだが、サルヴァトーレには本当に申し訳ない。今度アニーとラウルにプレゼントするついでに何かお酒でも買ってあげよう。


目的地の冒険者ギルドは、屋敷から北側に真っ直ぐ。街を囲う塀にほど近いところだ。だから距離はまぁまぁある。

ローザの森が街の北側にあるため、冒険者としてはアクセスが良いのと、荒くれ者の多い冒険者を街の中心から遠ざける意味があるとジェームズさんの講義で習った。


「シュウ様!また体力をつけられましたな!」


この状況を開き直って楽しんでくれている様子のサルヴァトーレ。ほんとに良い人だ。


「そうかな?ヴァトも鎧を着てないとさすがに余裕だね!」


サルヴァトーレには今回、派手な鎧は脱いでくるように言った。さすがに騎士団長がこんなちびっ子を連れていたら、僕って分かってしまうからね。


え?別にバレても問題ないって?まぁ確かにそうかもしれないけどさ、領主の息子ってなったら面倒な事に巻き込まれそうじゃん?


だから二人して雨合羽を目ぶかにかぶり、正体を隠すつもりだ。


正体を隠すなんて、一度はやってみたかったシチュエーションだしね!


冒険者ギルドまでは、そこそこのペースで走って二十分もかかった。

もちろん【スタミナLv4】のスキルクエストは"五分走る"なので、ちゃんと三回立ち止まるのも忘れない。


その建物には、初めての外出の時に一度だけ来ている。

中までは覗かせてもらえなかったけど。


「ヴァト、危なかったら助けてね」


「もちろんです。命に変えても」


そうして俺は冒険者ギルドの扉を押し開けて中に入った。


建物が大きいだけあって中は結構広い。

奥の突き当たりに受付やらなんやらがある様だが、そこまでに丸テーブルと椅子がいくつも置いてあり、酒場の様になっている。


そして今日はどうやら満員だ。

みんな雨の中することも無くて酒を飲みに来ているのだろうか。既に赤ら顔の出来上がった偉丈夫が沢山いる。


俺達二人が入ってきたのに数人は気付いたが、大半は騒ぐのに必死で見向きもしない。


俺が奥に向かって進むと後ろからヴァトがついてくる。

ちらっとヴァトを振り向くと、腰から下げた剣をいつでも抜けるように雨合羽の中で柄に手をかけていた。


何人かが俺の体型を訝しそうに見るが、実はこの世界にはドワーフやエルフと同様に小人族と言う種族もいるので、うまく勘違いしてくれると助かるなと思っている。


受付のカウンターは四つ。四つともに美人な女の人が座っていた。いやぁ迷っちゃうなぁ。


ヴァトに後ろから肩を叩かれて、一番左の所に行けと指差される。


お、ヴァト。気が合うね。

でも合コンには一緒に行けないな。合コン行ったことないけど。


「こんにちは。何かご用でしょうか?」


カウンターの高さギリギリの俺を覗き込むようにしてその女性は問いかけてきた。


「こんにちは、美人さん。ローザの森に生息する魔物の詳細を知りたいんだけど…」


「え…び、あ………おほんっ!それでしたらあちらの魔物図鑑で調べられると良いかと思います。冒険者カードを拝見してもよろしいでしょうか?」


「あ、僕は冒険者じゃないんですけど…」


「それでしたら、まずは冒険者登録をしていただきませんと、施設の利用は出来ない規則となっておりまして…」


あちゃー。冒険者登録か。

僕はしてもいいんだけど、したいぐらいだけど。

と思ってチラッとサルヴァトーレを見ると、なんとも言えない顔だ。別に問題はないだろうが、一応父様に確認しないとなぁ…って感じか。


「ヴァトは登録してないの?」


「私はしてありますが…。まぁ仕方ないですな。これがカードだ。これでこちらの方にも魔物の図鑑を閲覧させて欲しい」


ヴァトが取り出したのは顔写真入りのカードだ。大きさは一般的。なんだか免許証っぽい。車の免許?そんなの持ってたことないよ。


「はい、確認します。え!?あ、す、すみません!コートを着ておられるので分かりませんでした…!」


「構わぬ。リズ。事を大きくしたくないのでな。そのためのこの装いだ」


おー顔が利くってのは本当だったみたいだ。この受付の女性はリズと言うらしい。年齢は二十代かな?それ以上は分からん。でもボブカットと知的な眼鏡がよく似合う美人だ。覚えとこっと。


それにしても、俺もなんだか冒険者登録したくなってきたな。今晩にでも父様に聞いてみよう。


現在、森で倒している魔物に関しては、軽くて売れる素材は持って返ってニーナの件の費用の足しにしている。だから今後はそれを俺が冒険者としてギルドに売れば俺の冒険者ランクも上がって行くみたいだから一石二鳥だ。

今回みたいにどんなクエストが出てくるか分からないから、冒険者ギルドとは関係を築いておきたいし。


リズさんが持ってきてくれた魔物の図鑑は、かなり大きくて重たそうな物だった。リズさんもギリギリだ。


「あのテーブルで座ってゆっくり見てもいいですか?」


「ええ、構いませんよ。重たいですよ。あと濡れないようにしてくださいね」


普通の四歳児では到底持ち上げられないだろうが、普通の四歳児ではない俺は軽々と持ち上げて近くの空いていたテーブルまで持って行く。


「ヴァト何か飲む?もちろん僕が持つよ。お酒でもいいし」


「ありがたいですが勤務中ですのでな」


そう言うと思った。


「あ、そこのお姉さん!果実水二つ!さてと…。あと四種類。どうかなー」


大いに期待した俺だったが、正直言うと期待外れだった。それはソニアが説明してくれた内容に毛が生えた程度の物だ。ソニアが凄いのか、この図鑑が最低限なのか。


頼んだ果実水が届く頃には既に図鑑を閉じていたくらいだ。


「不十分でしたかな?」


「そうだねー。あと四種類なんだけどなぁ。あ、この果実水、なかなかイケるね」


せっかくここまで来たのになぁ。

そんなやるせなさを感じながらぼーっとギルドの中を見回していると、意外にも他に収穫があった事に気づく。


「ねぇヴァト。ここの冒険者ってどのくらいの強さの人達が多いの?」


「そうですな。冒険者のランク分けはご存知で?」


「うん。強い順にS、A、B、C、D、E、Fでしょ?」


「ここにはだいたいCからFの冒険者が多いですな。主な活動は北にあるローザの森、それから少し離れておりますが東にあるテスラ鉱山、南のドブン平原とそれよりさらに南にあるラスティア大森林ですが、場所を選べばどのレベル帯でも安定して狩りができます。

ここに限らずBランク以上の高ランク冒険者は基本的にはあまり一つの場所に長期間おりません。Bランク以上の魔物が発生したとギルドに報告が入ると、近場にいる冒険者が派遣される様な形になるので、高ランク冒険者は移動する時間の方が多い印象ですな」


なるほど。ここの人達を見ていて気になったのは、職業ゲーマーの効果の一つ、その者の強さを表す頭上の逆三角形のアイコンだ。

自分と比べて弱い順に白緑黄赤黒と色が変わる。


ちなみにヴァトは今は赤だ。職業ゲーマーが、"多分勝てない"と判断している。昨日までは黒で"勝ち目なし"だった。変わったキッカケは今日の朝に最大魔力が735まで増加した事だろう。これは撃とうと思えば最高威力の魔法すら撃てるほどの魔力量なので、それが加味されたんだと思う。


「ちなみにヴァトは冒険者ランクで言うとどれくらいの強さなの?」


「私は冒険者ランクを上げておりませんからな。カード上はCランクですが、Bランクの冒険者ならば剣のサシでは負けぬ自信はあります。Aランク相手だとわかりませぬな」


ふむふむ。ここのギルド内のほとんどの人が緑色だから、やはりヴァトは高ランク冒険者と同等の力を持っているに違いない。

さすが騎士団長様だ。


果実水を飲み終わると、図鑑をリズの所に返しに行く。


「欲しい情報は得られましたでしょうか?」


「いや、全然。リズさんは魔物の生態に詳しい?この図鑑に載っていないようなちょっと変わった生態とか、噂程度の話とか知りたいんだけど…」


「どの魔物についてでしょうか?今日は暇なので私の知っている事でよければお伝えできますよ」


にっこりと笑うリズさんはマジで可愛い。そして優しい。おっとまずい、好きになっちゃうよ。優しくされるとすぐに好きになっちゃうから気をつけないと。


そしてリズさんの魔物に対しての知識はハンパなかった。


ソニアから教えてもらった知識はもちろんのこと、"ペットで飼ってたりするんですか?"と疑いたくなる程に詳しく、もはやマニアの域だった。


そんなリズさんの知識を持ってしても、19/20。

あと残り一種。"ローザ・クイーン"という魔物が、俺の前に立ちはだかっていた。


その魔物は、このローザの名を冠する、ボスの様な位置付けの魔物だ。過去の情報から分かっている事もいくつかあるが、他と比べて少ない。


・サソリの様な巨大な魔物

・身体は黒く光っていて、大きさは家ほどもある。

・物理、魔法共に高い耐性を持つ。

・尾に強力な毒があり、感染すると数分で死に至る。

・ハサミの攻撃は一度に木を数本薙ぎ倒す。

・移動速度は馬よりも速い。

・魔物の強さとしてはAランク等級に位置付けされる。

・数年に一日だけ、ローザの森を徘徊する。


これだけだ。その出現頻度と、Aランクの魔物であると言う事で他と比べても情報が少ないのだ。


でも十分でしょ。数年で一日しか出てこないのに、これだけ情報あれば十分じゃない?まだダメなの?



その時。まるで、職業ゲーマーが救いの手を差し伸べるかの様に、ミニマップに"?"が現れた。


それは一年前、インビジブルシーフのクエストの時以来だ。あの時は確かインビジブルシーフの部屋に直接連れて行かれたっけ?父様に宝石泥棒の犯人と間違われそうになった挙句、魔物に襲われた。

つまりそこに行けば何かは起こるけど、ろくな事ではない可能性もある。と言う合図だろう。


今回"?"が現れたのはこのギルド内。

場所は入り口入ってすぐ右の奥の方。ギルドの一番端っこだ。


いや、俺もね?気になってはいたよ?

あそこに行けば何か起きそうだなーって。

残り一種でアテが無くなった時にダメ元で行ってみようかなーって。いやでもやっぱりやめとこう、って思った矢先のコレだよ。

よし、行くかぁ。


リズに感謝を告げると、ヴァトを連れてそちらに向かう。


屈強な冒険者達を避けながら辿り着くと、そこには一人の飲んだくれがいた。酒瓶を握りしめたまま机に突っ伏している。

そのコートは安物でボロボロ。一週間くらいずっとここで飲んでるんじゃないかと言うほどの異臭もする。

防具もなければ武器もない。

完全に見た目は浮浪者だ。


「おいおい、にぃちゃん子連れか?ヒック…。そのおっさんに関わるのはやめときなぁ。四六時中そこで酔い潰れててなぁ。ギルド職員ですらそいつを追い出すのを諦めたってんだからよぉ!?」


周りからドッと笑いが起きる。

少し身体を傾けて受付のリズさんを見ると、さっと目を逸らされる。

そう言うことか。


「すみません、少しお話をいいですか?」


俺は臭いを我慢しながらそのおっさんに恐る恐る声をかける。しかし反応はない。


「こんにちはー」


今度は揺すってみるが反応はない。仕方ない。


「………"ヒール"。それからえーっと?………"キュア"」


俺はそのおっさんに、回復魔法のヒールと、異常状態解除のキュアをかける。酩酊状態を解除する効果もあったはずだ。


そして俺の狙い通り、そのおっさんはムクリと顔を起こした。髪の毛と髭で顔はほとんど見えないが、その眼光は今まで会ったどの人物より鋭い。


俺がこのおっさんが気になった理由。


それは"黒"だった。


頭上のアイコンが"黒"なのだ。Aランクに匹敵するサルヴァトーレでさえ赤色。つまりこのおっさんはAランク、もしくはSランク冒険者と同等の実力者と言うことだ。

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