第二十四話 本格レベリング
すみません、二十三話の所に二十四話の内容を先に掲載してしまいました。現在は修正しております。
第二十四話 本格レベリング
ソニアが講師になって、と言うか俺の付き人になってから一ヶ月が経った。
ニーナの治療も無事成功し、前と比べてすこぶる元気になっていて、メイド達を毎日困らせている。
その姿を見ていたら本当に幸運だったと思う。そして一層気を引き締める毎日だ。
そんな中で、森での活動にも変化が生じた。
俺とクリス兄様とソニア。この三人での探索が父様から認められたのだ。俺達の努力の成果に加えて、ソニアへの厚い信頼によるものか。
「次は三体!六時の方向!十五秒後に会敵!」
「分かった!ぐっ!」
ゴブリン二体分の剣を弾きながら、他の二人に聞こえるように声を張り上げた。剣撃の音にかき消されたかと不安だったが、ちゃんと聞こえていたみたいだ。
俺から少し離れた所では、クリス兄様がコボルトとゴブリンの二体を相手している。剣を持ったゴブリンと、ナイフを持ったコボルトだ。
「早く処理しないと、また増えちゃうよー?」
そして剣を振り回す俺達二人の後ろには、ソニアが腕を組んで立っている。魔法を詠唱した後、それを撃たずに俺達の戦いを見守っている。もしも危ない場面があれば、火属性最速の魔法であるファイアアローがすぐさま飛んでくるだろう。
基本的にソニアはお守りで、俺達に命の危険が無い限りは手を出さない事になっている。
余談だが、発動直前で魔法を溜めておくのは、かなりの高等テクニックだ。もし俺がやるとしたら、目を閉じて頭の中で構築した魔法術式の維持を考え続けなければならない。それでも発動を一秒遅らせられるかどうか。慣れればもう少しいけるかもしれないがかなりキツい。
それで普通に会話をしながら俺達の戦闘を見守って、適切なタイミングで的確に魔法を打てるとしたら、それは化け物だ。
PCゲームで例えるなら、お菓子をつまみながらフレとチャットしつつ最難度のレイド戦を攻略するみたいな。
あれ?それなら慣れたら出来そうか?
そんな無駄なことを考えながらも、少しずつ対複数の戦闘に慣れてきた。
ゴブリンは知能が低い。だがそれでも二匹がかりで勢いのままに剣を振られると少し厄介だ。二本の剣を防ぐのはなんとかなるが反撃のタイミングが無いからだ。
だから、ちゃんと足を使う。
二匹同時に相手する必要はない。前に並ぶゴブリンの側面に回り込むと、手前のゴブリンが壁になって僅かな時間だが一対一が出来上がる。
一対一なら余裕だ。
ゴブリンの剣を弾くと、すぐさま返しの剣で首を斬りつける。一丁上がり。近付いてきたもう一匹もすぐに片付けると、次の集団が見えた。
ゴブリンと、コボルト二体だ。ゴブリンは剣を、コボルトはナイフと槍を持っている。クリス兄様はまだ戦っていて、新たな敵の到着には気づいていない。
三体を同時に相手するのは初めてだ。いけるか?いや、いける。やる。
俺はクリス兄様への視線を遮るように三体の前に立つと、それらに向かって行った。剣ゴブリンとナイフコボルトが前に出て、槍コボルトを庇うように立つ。
「はぁっ!!!」
大袈裟に気合いの込めた声でナイフコボルトに剣を叩きつける。ナイフコボルトの、ナイフを持った右腕を深く傷付ける事に成功。
その隙を突いて剣ゴブリンが剣を振り回したのを避けた直後。
「うぐっ!!!」
ゴブリンとコボルトの間から突き出された槍が左腕を掠めた。
痛ったああああああああ!!!!!
やばいやばいやばい!!!
「ごめん!遅れた!」
激痛に頭が一瞬真っ白になるが、その時に現れたのがクリス兄様だ。横から手負いのゴブリンに剣を突き刺すと、剣を引き抜きながらゴブリンを蹴り飛ばした。
その蹴り飛ばした方向がまた良かった。コボルト二体がゴブリンの死体に巻き込まれて転倒したのだ。
俺達はすかさず詰め寄ると、一撃でコボルトの急所を突き刺した。
「ふぅぅ…痛っててて……」
マジで痛い…。
うわ…。傷口がグロいし…エグい………。こういうグロいの、ゴブリンとかコボルトとかで多少慣れたかと思ってたけど。やっぱり自分の身体となると全然違うわ。そして何より痛い。痛すぎる。
「ごめんシュウ!僕が手こずったばっかりに!」
「大丈夫だよ。ちょっと痛かっただけだから。ちょっと待ってね………ヒール」
激痛の中、頑張って詠唱した甲斐あって、腕の痛みがスーっと取れていく。
あー気持ちいい。これはあれだ。"辛い肩こりに!インドメタシン配合!"とかのやつに感じが似てる。
「今のはクリスがもっと早く捌くべきだったね。追加で魔物が来てるのが分かってる時には、多少リスクを取ってでも早めに処理しないと状況が悪くなるだけだよ。何故だかシュウは光属性の回復魔法も使えるみたいだしね。回復魔法を使える奴がパーティにいる時にはそう言う強気な選択もできる。もちろん回復薬と言う方法もある。
それからシュウは今後の方向としてやはり剣士か魔法使いかハッキリさせた方がいい。剣を振るいながら魔法は使えない。私ほど小慣れた魔法使いでも、全力で近接戦闘しながら詠唱するのは難しいからね。
だからもう魔法使いになるしかないよ。ぶっちゃけ、全属性使えるっしょ?絶対使えるよね?それなら尚更だよ?剣では一流になれないけど、魔法なら確実に歴史に名を刻む魔法使いになれるんだから。ね?ね?魔法使お?新しい魔法もっとみせて?」
「最後は願望でしかないぞ。途中までは良かったのに」
ソニアはどうやら、俺を魔法使いにさせたいらしい。
確かに今のところ俺にとって剣より魔法の方がアドバンテージは有りそうだ。オリジナルの魔法が作れるのは異世界人だけっぽいし。
ただ、剣を捨てて魔法使いになるつもりはあまり無かった。何故なら魔法使いだと、かなりの実力に達しないと、自衛が出来ないからだ。
あくまでも俺の最終目標は自衛、そして逃亡。
いくら火力が高かろうと、死んでしまっては意味がない。最低限、自分の身は自分で守れるくらいにはなっておきたい。
具体的には、森で盗賊に襲われても、剣だけで逃げ切れるくらいにはなっておきたい。
普通に考えたら、複数人に襲われた状況で剣だけで逃げ切ると言うのは相当な物だ。と言うか、前世の常識ではまず無理だ。
だがこの世界にはレベルとステータスと言う概念がある。だから、別に剣の達人にまでならなくても良い。身体能力が大きく勝っていれば、剣の腕はそこそこでもいい。大雑把だが目指すはそこらへんだ。
「と言うことで、僕はまず"そこそこ剣が出来て、ステータスでゴリ押す人"になる。その後に"そこそこ剣も出来る高レベル魔法使い"を目指す事にするよ」
「欲張りね。それでもとりあえず魔法一筋で伸ばした方が手っ取り早く強くなれるんじゃない?」
ソニアは、理解に苦しむと言った感じだ。
「そもそもなんだけど、高レベル魔法使いに剣の腕は必要なのかい?」
クリス兄様にもやはり理解はしてもらえない。それに兄様が言っているのは正論だ。
普通にパーティを組むなら、魔法使いに剣の腕など必要ない。剣を練習する暇があったら魔法の腕を磨け、とさえ言われるかもしれない。
「必要だよ。僕にとっては。身を守るためにね」
「いったい何から身を守ると言っているの?」
「それは………"運命"や"使命"って奴から。かな?」
今度こそ、二人は俺への追及を諦めた。我ながら良い切り返しだったのでは無いだろうか。二人からはなんだか可哀想な目で見られているが、甘んじて受け入れよう。慣れてるしね。
前の世界では、近所のおばちゃん達に白い目で見られ、親子連れからは子供を遠ざけられ、買い物のお釣りも必ず十センチ上空から落とされたもんだ。
でも今考えれば、生きてるだけで百点みたいなもんだったよな。
あー。なんか分からんが悲しくなってきた。
そこから俺達三人は、さらに森の奥へと進んでいく事になった。
俺のテンションが急に下がってしまった事に二人は不審がったが、戦闘はちゃんとやる。これ以上痛い思いもしたくないし。早く強くなりたいし。
「右前方。距離十五メートル。六体」
俺の声に、クリス兄様が素直に頷く。
ソニアが俺の索敵報告にまるでくしゃみを我慢するみたいな苦い顔をするのは毎度の事だ。俺が索敵方法としてどんな魔法を使ってるのか教えないのが気に食わないらしい。そもそも魔法を使ってないんだけどね。
「六は少し多いかもしれない。静かに近付いて様子を窺って、無理そうなら退きましょう。判断は任せるわ」
ソニアの提案に俺達は従った。
ミニマップに映った敵の元に身を隠しながら近付くと、そこにはコボルトが四体いた。
「四体だけか。シュウの索敵が外れるなんて珍しい事もあるもんだね」
「んー?おかしいなぁ。でもコボルト四体だけだったらさっきと同じでいけるから、まぁいいや。よし、じゃあ僕は反対側に回るから。兄様はここから見て左二体、僕は右二体を。十五秒後に」
俺は作戦を簡単に伝えると、茂みに隠れながら反対側に回り込む。コボルト達はと言うと、地面に座り込み何かを食しているらしく、こちらに気付く様子はない。
武器も横に置いている。上手くいけば一体は無抵抗で倒せそうだ。
そしてきっかり十五秒。俺とクリス兄様が飛び出したタイミングは完全に同時だった。
油断した所に挟撃までされたコボルト達は武器も取らずにその場から逃げようとするがそれを許さない。
一体目に深々と剣を突き立てると、すぐに二体目を追いかけてあっという間にとどめを刺した。
「余裕だったな!シュウ!」
クリス兄様の方も問題なく片付いたみたいだ。
兄様はコボルトが纏っている汚い布で、剣についた血を拭っていた。
「だね。………ん?兄様!危ないっ!」
突如、クリス兄様の後ろの木が動いた。
俺は、何か魔物が木を薙ぎ倒して現れたと思った。しかしそこには何もいない。脅威はそこではなく、クリス兄様の頭上だった事に遅れながらも気付いた。
クリス兄様の完全な死角である頭上から、先端の尖った太い幹が兄様の頭を目掛けて迫っている。
クリス兄様は気付いていない。助けに…いや、間に合わない。魔法…も間に合わない。
思わず目を逸らしそうになった時。
岩ほどもある炎の球が横から現れ、太い幹に直撃して爆発した。
その爆風を間近で受けたクリス兄様はその場から吹き飛ばされる。
「こーら!油断しない!」
その言葉は俺に向けられたものだと分かった。
俺はすぐさま【気配察知Lv4】を発動して、頭上からの攻撃を認知すると、横っ跳びで回避した。
俺がいた地面に深々と木の幹が突き刺さっている。
「こいつがトレントか…。嫌らしい事をしてくるな」
トレントは木に擬態する魔物だ。獲物が油断して近付いてきたところを、頭上からひと突き。今回はクリス兄様を狙った方とこいつで二体もいる。
「トレントは視界外から攻撃をしかけてくる!それを回避しつつ本体に攻撃しないといけない!」
俺はソニアがそう叫ぶより前に、本体に接近していた。
降り注ぐ様な幹の攻撃を全て回避して見せると本体に深々と斬り傷をお見舞いする。
そして頭上や背後から襲いかかる幹を全て避けながらそのまま本体に張り付き、滅多斬りにしてトレントを倒し切った。【気配察知Lv4】によるゴリ押しだ。
《トレントを倒しました。経験値を63獲得しました》




