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第二十話 子供だし学もない

「サラ、今日は街に行く準備をしておいてくれるかい?」


俺は朝の支度をしながらサラにそう告げた。


サラはいつも通り、俺より早く起きて完璧に身なりを整えている。いつ見てもバッチリ決まってるし、バッチリ可愛い。

一応、彼女達はこの馬鹿でかい屋敷の中に住み込みで働いている。それでも俺の世話の前にも掃除やらなんやらがいろいろあるみたいだし、相当早起きしてるはずだよな。


しかもここ最近休みをとっていないのでは無いだろうか?よし、たまには休みを取らせよう。


「やっぱりやめた。今日はサルヴァトーレか誰かと街に行くから、サラは休みを取って。そうだね。今日はもう早起きさせちゃったから、明日明後日と三日間休むといいよ。父さん達には僕から言っておくから」


「え?嫌ですが?」


「え?」


サラは心底嫌そうな顔をしていた。何で?


「え?どうして?」


「休みをとりたくないと言ったんです」


「どうして休みをとりたくないの?」


「わ、私の口から言わせるおつもりですか…?」


「…どゆこと?休めばいいじゃん!もちろん有給だから安心してよ」


「給料なんてどうでもいいです!シュウ様と一緒にいれない日なんて、休みでもなんでもないんです!!!」


「ますますどゆこと!?」


「だから私も一緒に街に行きます!絶対行きます!何が何でも!行くったら行く!」


「駄々っ子なの?僕もそう言うのやった方がいい?」


「シュウ様もたまにはして下さい!いくら四歳児っぽく無くても!四歳児のふりくらいして下さい!」


「ええぇぇ…。それじゃ、一緒に来る?まぁ、サラが良いならそれでいいんだけどさ…。僕もありがたいし…」


「はい!では準備しますね!」


結局押し切られてしまった…。まったく、休んでいいよって言ってんだから休んだらいいのになー。

とか言いつつ内心嬉しかったのは内緒だけど。やばいニヤけてしまう。




そんな一悶着がありつつも、俺達は街へと繰り出した。


今回は若めの騎士二人が一緒だ。護衛なんていい加減要らないと思うんだが、屋敷を出ようとした所で見つかってしまった。


今回同行してくれるのは、ラウルと言う青年とアニーと言う女性だ。ラウルは丸坊主で鋭い目つきをしていて、なかなか怖い。外見はチンピラみたいな感じだが、話してみるとかなり丁寧な男で、そのギャップが意外とモテそうな感じだ。

アニーはボーイッシュとも言えるくらいのショートカット。くりっとした目にそばかすが印象的な、ムードメーカー的に明るい性格の人だ。


二人はまだ二十代と若いくせに、騎士団の中ではかなり偉い立場だ。ラウルは第二騎士団の隊長だし、アニーもその副隊長。

二人とも、森に行く時のお守り(・・・)で何度か一緒になった事がある。ラウルは盾役(タンク)で、アニーは索敵役(スカウト)だ。


「シュウ様?なんで私達は走ってるんでしょうか?」


例のごとく【スタミナ】のスキルクエストのために街まで走っていると、ラウルとアニーは怪訝な様子だった。アニーは本職が索敵役という事もあって軽装だが、ライルはがっつり甲冑を着込んでいるのでガチャガチャとやかましい。


「トレーニングだよ。領主の一族たるもの、有事の際には前線に立てるほどの武を身につける事。それが父様の教えだからね」


「はぁ…。それにしてもシュウ様は本当に、なんというか、子供っぽくないですね?」


「おい!アニー!無礼だぞ!」


ガチャガチャと鳴る甲冑の隙間からラウルの指摘が飛ぶが、それを俺は笑い飛ばした。


「ははっ。いいんだよ、ラウル。君も人目のない所では僕に敬語すら使わなくていいよ。公衆の面前でやられると処罰しないといけなくなるけどね。それに僕はアニーの可愛らしい外見もそうだけど、物怖じしない所が一番好きなんだ」


子供の姿でなら、以前は言えなかった事でもスラスラと言えるもんだ。


「えー!嬉しい!そんな事を言ってくださるのはシュウ様だけです!それはそうと、私、まだ独り身ですよ?年上は好きですか?」


「ありがとうアニー。それは嬉しい情報だけど、アニーと僕じゃ歳が離れすぎてるかな」


「最近はこれくらい問題ないんですよ?」


こう言う軽口を交わせるのも彼女のいい所だ。一緒にいると楽しい。


「シュウ様?ところで今日は街に何か用事でございますか?」


おっとまずい。サラから不穏なオーラを感じる。


「おっと、そうだった。今日は錬金術の店まで行こうと思ってね。ラウル、アニー、腕のいい所でおすすめはある?」


「それならソニア殿の店にお連れしましょう」


「ラウル?よりによってソニアの店?」


ラウルの提案したソニアさんの店と言うのは、俺の知らない店だった。少なくとも大通りには無いはずだ。

ラウルは俺を見ながら自身あり気にもう一度言った。


「腕の良さならソニア殿が一番です」


「それはそうだけど…。ただ………」


しかしアニーの歯切れは悪い。


「ただ、何?」


俺が質問すると、歯切れの悪いアニーに比べてラウルは率直に言った。


「ソニア殿はこの街で唯一のエルフと言う種族で、錬金術の腕は確かです。ただ、学の無い者と、そして子供が嫌いです」


「よし、そこにしよう。嫌われても物が買えればオッケー」


腕が確かなら何でもいい。

子供だし学もないが、良い品物が買えるなら気にならない。

不安そうに唸るアニーとサラを無視して、ラウルの案内でソニアさんとやらの店に向かった。



ソニアさんの店はやはり大通りから外れた所にあった。

裏路地と言う程に日陰でもないが、普通に歩いていたらここには辿り着かないだろうと言うくらいの立地。

店自体はそれなりに大きく、看板も立派だった。


俺達が店の近くまで来ると、中から喧騒が聞こえた。


「うるせぇ女だな!ちょっと美人だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!ババアがっ!!!」


その言葉が聞こえた瞬間。

家の中から男が一人飛び出てきた。

言葉の通り、飛び(・・)出てきたのだ。扉いっぱいを埋め尽くす程の、青色の炎に吹き飛ばされながら。


道の真ん中に激しめに着地した男は、命からがらと言った感じでどこかに逃げていった。


「シュ、シュウ様?やっぱりここに入るのはやめませんか?」


サラが恐る恐るそう言ったが、俺は逆だった。


「いや、絶対にここにするよ」


俺はすたすたと店に近づいて扉を開けた。

あれだけ高温の炎が通過したと言うのに、扉や枠にはまったく焦げ目などない。完璧に制御された魔法だ。

火の魔法はまだ習う事を禁じられているのでその難しさは分からないが、並大抵の技ではないだろう。


《クエスト"ソニアを魔法講師として雇う"を受注しますか?》


やっぱりだ。ソニアさんの魔法技術は並大抵ではない。是非とも講師になってもらいたいところだ。


《クエストを受注しました。詳細は管理画面で確認できます》


よし。まずはご機嫌取りだ。


「何だい…。性懲りも無くまた………。ん?子供?」


「こんにちは、エルフの綺麗なお姉さん」


ご機嫌取り関係なく、俺は感動していた。

ソニアさんは、初めて見るエルフだった。年齢は二十代の前半に見える。銀色の綺麗な長髪に、そこからピンと尖った耳。切れ長の目と薄い唇。スラっとした首や腕。エルフが美形と言う話は間違っていなかった。もともと美形の多いこの世界でも群を抜いている。


「ここは子供が来るところじゃないよ。帰ってちょうだい。子供は嫌いなのよ」


あちゃー。これは無理かも…。


すぐに目を背け、シッシッと野良猫を追いやる様に手を振る彼女。この世界でもやはりエルフは長寿と言われるが、この外見に似合わない態度もそこからきているのか。本当は何歳なんだろう?


「ソニア殿。こちらはこのローザの領主であるスペンサー子爵家の三男、シュウ様です。私が連れてきました」


俺の後ろからラウルの低い声がした。

サラとアニーも恐々(こわごわ)と言った感じで入ってきて、店の中をきょろきょろと確認している。


「………誰だったかしら?ごめんなさい。興味ないといちいち名前なんて覚えてられないのよね。

でもその子供が誰だろうと知らないわ。子供の遊び場じゃないの。遠足や社会見学もピクニックもお断り。帰ってくださる?」


「貴女!シュウ様に向かって…!」


後ろでサラが声を荒げるが、それを気にもとめず、俺は店の最奥、カウンターの奥に脚を組んで座るソニアさんに近づいて行った。そして尋ねた。



「さっきの火魔法、魔法術式イジって(・・・・)るんですか?」



俺の言葉に、店の中が静まり返った。

後ろの三人の表情は知らないが、ソニアさんの表情はハッキリと分かった。全然意味が分かってない。こいつ何言ってんの?って顔だ。


「あーもう、これだから子供は嫌いなのよ」


「あれ?違うのか。おかしいな。そうじゃなければ、何故炎が青色に…?」


俺が今まで見てきた火魔法は、どれも炎の色は赤色だった。さてはこの人も魔法術式をイジってるんだと思ったのに。火魔法についてまだよく知らないから、それも当てずっぽうなんだけど。

一人で考え込んでいる俺に、後ろからアニーが控えめに声をかけてきた。


「シュウ様?炎の色に関しては、魔法の熟練度がどうと言うよりも、魔力の個人差によって多少変わる物なのではありませんか?私も以前に、少し黄色っぽい火の魔法を使う人を見たことがあります…。色が違うからと言って、特に魔法使いとしての強さには関係しないと思いますが…」


魔力の個人差…?うーん…?しっくりこない。


「いや、アニー、強さに関係しないという点は違うよ。ソニアさんの魔法は、普通の火魔法よりも強力なはずだよ。だって火の色が違うって事は、そもそも炎の温度が変わってくるでしょ?赤が一番温度が低くて、一番温度が高いのが青色ってね。そうなれば攻撃魔法なんだから熱い方が強い魔法に決まってるよ」


そんなのは小学生で習う常し………


「え?そうなんですか?」

「あら、そんな事よく知ってるわね?」


………常識だよな?あれ?違う?まぁいいか?話を変えよう。


「でも魔法術式をイジってないのに、何で炎の色が変わるんだろう?【火魔法】スキルはどちらかと言うと魔法の大きさや規模に関係する印象だしなぁ?それなら他に介入できると言ったら、アニーが言ったみたいに魔力によって変わる?

………あ!もしかして、魔力の"質"か?魔法行使のために練る魔力の量は一緒だけど、その質を上げる?となると、関連するスキルはもしかして【魔力操作】か?

ソニアさん、ソニアさん。もしかして魔法を使う時に必要以上に質を高めた魔力を使ってたりしますか?もっと言えば【魔力操作】スキルのレベルがかなり高かったりします?あ、それは個人情報なので答えたくなかったらいいですよ」


俺の自問自答をぽかんと聞いていたソニアさんは、俺に話を振られた途端に変な顔になった。いや、もとが美人すぎるから、そんな顔でさえ可愛らしいんだけど。


「ぷっ…」


………?

なんだって………?


「……………ぷ?」


「ぷははははっ!!!!!」


変な顔をしていたソニアさんは、今までの無愛想な態度が嘘だったかの様に、大笑いを始めた。美人はたったそれだけでも絵になってしまうため、俺達はその光景に目を奪われた。


ん?俺達?俺だけか?いや、男であるラウルも絶対呆けているに違いない。そう思って振り返ると、何故かサラとアニーまでも顔を赤らめていた。


「あー笑った。

えっと?名前なんだっけ?………シュウ?シュウだね!シュウ…、よし、覚えたよ。それでなんだっけ?あぁ、私の炎の色についてか。きっとシュウの言う通り【魔力操作Lv5】が関係してるだろうね。私くらいの年齢のエルフは大体このくらいまでレベルがあがるから、みんな使えるよ。それとシュウが言ってた通り、【火魔法】スキルの方のレベルは関係ないね。【魔力操作】のレベルが高ければ【火魔法Lv1】でも黄色い炎は出せるからね」


当たってた!

いやー、スキル考察ってやめられないよね。もっと検証とか繰り返していったりもしたいんだけど、今は時間が無さすぎるんだよな。何かと忙しいし。


「それなら他の属性でも魔力の質によって、効果が強力になるのかな?【地属性】なら金属を操れるようになったり、【水属性】なら氷を操れたり?」


その俺の言葉に、ソニアさんは更に満足そうに笑った。


「ふふ、良いよ、君。面白いね。ところでさっき言っていた、イジってる(・・・・・)、と言うのはどう言う意味かな?」


おっと質問返し。まぁいい。さっき丁寧に答えてくれたから、お返しにちゃんと答えよう。


「あぁ、あれは、魔法術式を書き換えてアレンジした魔法なのかと思ったんですよ」


「書き換え?アレンジ?………いやまさか、そんな事は残念ながら出来ないよ。それは魔法を学ぶ者全ての共通認識だ。過去に何人もの偉大な魔法使い達がそれを成そうとしてきたが、成功した者はいないよ」


おっと………まずい。魔法イジるのって、そんな大それた事だったんだ。

お、待てよ?これはかなり使えるんじゃないか?これをもっと極めていけば…と思ったけど、そう言えばあの高校生達も日本人だから同じ事が出来るんだった。アドバンテージにはならないか…。

それより今は誤魔化さないと、なんだか嫌な予感しかしない。


「あ、そうなんですね………勘違いしちゃったなぁ?もしかしたら長齢のエルフさん達ならそんな事も出来たりするのかなー?なんて思ったりもしたんですよねー?あははは?」



「え?でも、シュウ様はそれ(・・)、できますよね?魔法のアレンジ。だって、この前だって…」


背後から、俺の誤魔化しを無駄にするアニーの声が刺さった。

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