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第十六話 魔法練習

「何故そんなに息が切れているのですか?」


紅茶とクッキーの乗ったお皿を持って戻ってきたサラは、ページを高速でめくりすぎてハァハァ言ってる俺を冷たい目で見ていた。


「いや、この本は、非常に興味深いね…」


「はぁ…」


サラが帰ってくるまでの約十分間で魔法理論書をめくりまくった結果。が、【風魔法Lv2】、【水魔法Lv2】、【地魔法Lv1】、【光魔法Lv1】の取得である。


Lv1スキル獲得までのクエストは、本を10回読む。Lv2獲得までのクエストは、本を30回読む。それもクリアすると、今度は"○魔法を使う、100回"となった。つまりここからは真面目に魔法を勉強していかなければならない。


ズルして先に取得したスキル達がアシストしてくれるといいんだけど…


"なるほど?それで無理やり先に取得したってわけね。筆記試験をカンニングして、実技試験の出来栄えを誤魔化そうって魂胆ね"


そうなんですよ。

試験とか懐かしいな。あぁ、地球が恋しい…。

PCゲームで一日を潰していたあの日々。誰か代わりに俺のログインボーナス貰っといてくれないかな…。

なんて。本当はこの世界も結構気に入ってるけどね。


「いかがですが?」


サラが持ってきてくれた紅茶とお菓子をいただきながら、そんな事を考える。


「うん。美味しいよ。サラが淹れてくれたからね」


「そうですか…」


この世界に来なければこんな美少女がお茶を淹れてくれたり、俺の言葉に照れ照れしたりする光景なんて拝めなかっただろうな。

あぁ、異世界万歳。よし、頑張ろう。


そこからは真面目に本を読んでいった。

文字には苦労しなかった。異世界の言葉にはかなり習熟してきたし、分からないところはサラに聞けば教えてくれた。そして何より、基礎となる魔法術式には日本語も使われているのだ。これは異世界の言葉よりも分かりやすい。


魔法術式には日本語と異世界言語が混在している。日本語は術式のキーとなる部分、例えば"前方に"と言うベクトルの指定や、"即時"とかのタイミングの指定、"魔力五十使用"と言った魔力消費量の指定。それ以外に魔法の持続時間や特性、状態異常付与に関する部分でも使われている。

そしてその日本語以外の部分が異世界言語で構成されている形だ。


ただ、その中で気になるのは、術式にかなり変な言葉が使われていたりする事だ。


例えば風魔法の初歩中の初歩。ウィンド。

少し強めの風を作り出すと言う魔法だが、その中で使われている言葉。魔法の特性を表す要素。本来は日本語が当てはまるべきそこには、異世界語の文字が記載されていた。


「"きょふ"………?"むぅしゅう"………?」


異世界言語としても聞きなれない発音の言葉達。


「"きょふ"は強めの風と言う意味で、"むぅしゅう"は臭いがしない、と言う意味みたいですよ、シュウ様」


サラが本を覗き込みながら教えてくれる。


あぁ、"強風"と"無臭"ね。

でもなんで異世界語で書いてあるんだろう?明らかに日本語だけど。


和製英語ならぬ、異世界製日本語?

発動すれば何でも良いんだけどさ。


「術式を覚えたら、次は…っと」


本によると、術式の理解と記憶が第一段階。それで、魔法のイメージが第二段階。詠唱が第三段階だ

最も難しいのがやはり第三段階の詠唱で、詠唱の文言と術式を頭の中でリンクさせながら、術式に書いてある必要魔力を適切に()らなければならないらしい。

確かに少し慣れが必要かもしれない。


「まだ第二段階は無理ですよ、シュウ様。この本にも、術式の理解には異世界言語(ニホンゴ)のキーワードを母国語と同じ程度に自然とイメージ出来るまでに理解しなければならないと…」


「風よ、強く、ふけ」


ぶわっ!!!


「きゃっ!!!」


俺の前に座っていたサラが、突然の突風にもんどりを打って後ろに一回転した。延長線上においてあったいくつもの本達がバサバサと音を立てて吹き飛ばされる。


少しの間呆気に取られるが、すぐにサラの元へと駆け寄る。


「…サラ!!だ、大丈夫!?」


「うぅぅ…いたたた…。なんなんですかぁ…」


頭をさすりながら起き上がったサラは、どうやら無事そうだ。俺はサラが大丈夫そうなのを確認すると、すすーっと視線を逸らす。


「え?シュウ…さまぁ!??」


慌ててメイド服のスカートを整えるのが横目に分かった。俺はその時間を利用して、目を瞑り、今さっき見た光景を脳裏に焼き付けるのに専念する事にした。


「み、見ました…?」


「イイエ、ナニモミテマセン」


"今のってワザとだよね!?ねぇねぇ!?"


決してワザとではありません。そして正直に言うと、見ました…。綺麗な白色でした。

あんなに真っ白な布は、この世界では良い値段がするらしいから、お給金もそこそこもらっているんだなぁ。んーよかったよかった。


サラのジト目ももちろん嫌いではない(大好物)のだが、ここは話を変えた方が良さそうだ。


「怪我が無さそうで良かったよ。ところで、今のは魔法が発動したって事なのかな?」


「うぅぅ…。そ、そうですね。少し強いとかって話ではなかった気もしましたが、確かに窓の閉め切った室内で突然風が吹いたのは間違いありません」


サラは手ぐしで髪を整えると、風で舞った(ほこり)を手で仰ぎながら少し咳払いをした。


サラの身だしなみを整える時間を利用して、俺はまたしてもスキルクエストのウィンドウを開いてみる。


"風魔法を使用する。1/100回"


あぁ。使えてるわ。風魔法。

これは何と言うか…。一粒で二度美味しい、嬉しい出来事だった。


さて、あとは探索用と戦闘用に使える魔法をどれほどモノにできるか。それ次第では、魔法より剣術に集中しなければならない。


「シュウ様、そろそろ夕食の時間です。遅れるとクレア様の不興を買いますよ」


「わかったよ。今日はこれくらいにしておこう」



母様を持ち出されると諦めるしかないな。しかし焦っても仕方ないのも確かか。ゆっくりやろう。






翌日。


午前中は昨日と同じように、ローザの森に行ってきた。


その時間すら使って魔法関連のスキルクエストをこなしたい気持ちもあるが、実際にお守り(・・・)をしてもらいながら魔物と対峙できる機会は逃すべきではないだろうと思ったからだ。レベルも上げたいし。


だから、ミニマップをフル活用して、全力でゴブリンを駆逐して回った。騎士の皆が、少し息が上がるくらいのハイペースで。

初心者向けの場所なのにあんな重装備で来るからそうなるんだよ。


そして行き帰りの馬車では、空き時間を利用して"魔力を練る。321/1000回"に挑戦。【魔力操作Lv1】のスキルを得てから、魔力を感じ取るのは問題なく出来る。そこから魔法を発動させるためには魔力を練らないといけないが、これは数秒で一回のペースで進めていける。しかも魔力を練るだけなら魔力を消費しないため、魔力残量を考えなくて良い。つまり永遠にできる。

電車で英単語を覚えるが如く、少しずつ出来ることをしていく。


なぜ魔法スキルではなく【魔力操作Lv1】のスキルを練習するか。その理由は、このスキルを取得した事がきっかけで、各属性の魔法を始めとした色々なスキルクエストが解放されたからだ。きっとこのスキルは、魔法を使う上での基礎的なスキルに違いない。上げておいて損はないはずだ。


そして屋敷に帰ってからは、各属性の魔法理論書からソロでの森探索に使えそうな魔法を探し、その魔法術式を覚える作業だ。魔法術式はちゃんと覚えていないと使えない。


幸い、簡単な初級魔法の中にもいくつか使えそうな物があり、どれも術式を見ながらであれば難なく発動できる程度だった。その術式だって、ほんの少し頑張ればすぐに覚えられそうだ。努力量としては英文を五個覚えるくらいのものか。


「シュウ様…、何故わざわざこんな事を…?」


「え…?いいでしょ?この方が覚えやすいからさ」


俺は術式を必死に覚えていた。

その方法は簡単。紙に書いて覚える、だ。


"ふわぁぁぁあ…。あぁー眠いわ。人間って魔法使うのにこんな事しなきゃいけないんだねー。不憫(ふびん)だねー"


神様が人を憐れむのはやめた方がいいのでは?


ちなみにわざわざ何回も書いているのは、"魔法術式を書き取る"と言うスキルクエストを兼ねているからだ。

必要な魔法術式を覚えながら、別のスキルクエストも進めていける…!あぁ、この効率重視でこなしている感じがたまらない…!


「もっと書かせてくれ…!」


「なんか変なモードになってませんか?それよりも紙とインクがもったいないですよ。あとどれほど書くおつもりですか?」


サラが呆れ顔で小言を挟んでくる。


「少なくとも200回は。もしかしたら1000回とか?」


「はぁ…シュウ様。それは無理です。インクはまだしも、紙は貴重なんですよ?」


「むぅ。それは確かにそうだね。それなら一つ一つを凄く小さく書くよ。あぁ、いっそ重なっても大丈夫だったらそれでも良いな。真っ黒になった紙に書き取るのは流石に適応されないかな?」


「適応…?何をおっしゃっているのやら、私にはさっぱりです。私はてっきり、魔法を使いながら覚えるものだと思っていましたが、意外とシュウ様は知識から固めるタイプなのですね?」


サラは、俺の隣で水の魔法理論書を読んでいる。

彼女の祖母が水の魔法を使えたと言う話を聞いたことがあったため、水魔法の方が親和性が高いのではないかと言う考えだ。


「知識から入るタイプなんだよねー。こう見えても」


「確かに魔力には限りがありますものね。一度にはたくさん練習出来ないなら、ちゃんと知識を学んでからの方が効率が良いかもしれませんね」


「うーん、そう…だよ……ね………?」


「シュウ様………?」


「間違えた!!??」


「きゃっ!?」


サラを驚かそうと思ってやった訳ではないのだが、昨日のこともあってサラからはジト目で見られる。


俺はそれをスルーして窓へと駆け寄ると、手に持ったままの魔法理論書であるページを開いた。

そして集中して唱える。


「風よ、敵を、不可視の刃で、斬り裂け」


俺の手からかまいたちのようなものが射出される。大きさは掌ほどだ。かまいたちを実際に見た事はないが、もし実在するならそんな感じだと思う。そのかまいたちは五メートルほど空中を進んでから、ふっと消えて見えなくなった。


それを連続で二十回。詠唱があるため、五分ほどかかって打ち切った。


身体から少し力が抜ける感じがする。倦怠感とも言えるかもしれない。端的に言うと、魔法を使えば、疲れる。


「今のは何をされてたんですか?」


「何って、どうみても魔法の練習だけど?」


「そんな、部屋の窓から、そんな適当に、って…。その様な投げやりな魔法の練習がありますか」


「投げやりって、飛ばしたのは槍じゃないよ、風の刃さ」


「はぁ…。なんでもありません」


ステータスを確認すると、魔力が31から11に減っていた。今使った"ウィンドカッター"と言う名前の魔法は、その名の通り視認しにくい風の刃を前方に飛ばして攻撃する魔法である。


魔法理論書に書いてあった内容では魔力消費が50で、木一本くらいなら切断できるらしい。しかし今使ったのは魔力消費を2に調節したおもちゃみたいなやつだ。魔法術式の中で、日本語で書かれている魔力消費の項目をイジれば結構簡単に出来る。


50とか、今の魔力では無理だしね。一回撃ったら倒れちゃうから。それに、今稼ぎたいのは回数だ。


"風魔法を使う。21/100回"

"魔法を発動する。21/1000回"


よし。あと四セットやれば風魔法のスキルがLv3になるな。それと別のスキルクエストも進んでるし。順調順調。


回数を稼ぐだけなら、威力は最低限でいい。それにもちろん、魔法を発動する練習にはなっている。次は何か小さい的を狙ってもいいな。そうすればより実践的に練習出来る。


魔力は時間で回復する。当然の如く、最大まで回復すれば、そこから増えない。つまり最大まで魔力が回復した状態は、常に魔力を無駄にしているのと等しい。


スマホゲームでスタミナが溜まったままの状態だ。

効率よくレベルアップするなら自然回復資源はその都度消費する方が良いのだ。


"魔力切れを起こした状態から、最大効率で魔力を全快させる"

"最大魔力から一度の魔法で魔力切れを起こす。20回"


とかのクエストを進めるときには注意しなければならないけどね。


「さぁ!また書き取りするよー!どんどんいこう!」


身体のだるさを気にしないようにしながら、また机に向かう。


サラは俺の突拍子もない行動に何を言うわけでもなく、水の魔法理論書に視線を戻した。


"誰かに仕えるって大変だねー。特に相手がこんなのだと。サラちゃんも不憫だわー"


ロキ様の声が虚しく頭に響くが、俺は書き取りに夢中で気づかないことにした。

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