第一話 あなたの職業は"ゲーマー"です。
こんにちは、どうも樹です。
メインは『空間魔法は殴る(近接戦闘)ための魔法です!~アルと狐のダンジョン回遊記~』を書いてるんですが、箸休め的に書き溜めていたこちらも公開させていただきます。
こんなん書いてる暇あったらメインの方を更新したらええやんけ、って自分でも思うんですが、カレーライスばっかりじゃなくてハヤシライスも食べたくなるんですすみません。
こっちの方はとりあえず40話くらい書いてる分があるんで、今日から毎日一話公開していこうと思ってます。
そんな気合い入れて読む様なものでは無いと思いますが、少しでも楽しんで暇を潰せていただけたら幸いです。
メインの方を読んだ事ないって人は是非そちらもお願いしまーす。
「おめでとうございます。運命の女神である私から、皆さんに祝福を与えました。
それでは皆様、どうぞ"ステータス"と唱え、ご自身の職業を確認して下さい。あなた方は全員漏れなく、いわゆるチートと呼ばれる類の職業を得ることが出来ているはずです」
目の前の神々しい、自らを女神と名乗った美女は、神聖さすら感じる声を響かせ、その場にいる全員に向かってステータスを表示するように促した。
目の前に群がる制服姿の若者達は戸惑いを見せる。しかし一人が「ステータス」と言って半透明のウィンドウを表示すると、みんなばらばらとそれを復唱し始めた。
そして次々と戸惑いが興奮の声に変わっていった。
「俺…俺。【大魔道士】だってよ!」
「俺は【剣聖】だ、お前は?」
「私は【賢者】…」
「【狂戦士】ってなんかヤバそうじゃね?」
そんな互いの結果を細々と確認し合う声が聞こえてくる。
「………ステータス」
釣られてそう唱えると、現れたウィンドウ画面に年甲斐もなく胸の高鳴りを感じてしまう。
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名前:鏡 柊哉
種族:ヒト
職業:ゲーマーLv1
Lv:1
体力:1
魔力:1
筋力:1
知力:1
防御力:1
魔法防御力:1
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目の前のウィンドウ画面に表示されたのはそんな内容だった。
とりあえず最初に目に入ったのが1の羅列。
まぁ、そうだろう。誰だって最初はレベル1だろう。ステータスが軒並み最低値だろう事も別になんとも思わない。スタートは一緒だ。
だが…。
職業:ゲーマー。
その表記には不安を感じずにいられない。
明らかに直接的に戦闘でチートを発揮しそうな要素はない。今までの生活を考えるとあながち間違っては無いんだけどさ。
でも、まずい…。
ただでさえ、巻き込まれた事で悪目立ちしてるのに。これがもしバレたらと思うと嫌な汗が出てきた。
その時、女神の声が再度響いた。
「この場限りにおいて、皆様のステータスを公開させていただきます。どうぞ皆様、存分に情報共有して下さい」
ぞっ、とした。
今度は全員の頭上に、ステータスウィンドウが表示された。周りから見えやすいように、わざわざ拡大されてだ。もちろん俺の頭上にも。
最悪だ…。
学生達はまるで神社で引いたおみくじを見せ合うかのように、和気あいあいと言う風に騒ぎ出した。
そして一際大きな歓声が上がる。
「うおおおおお!相模やべえぇぇ!"勇者"じゃん!!」
「おいおいおい、相模が勇者かよぉ!?"チンピラ"とかだと思ったのによぉ」
「なんだおめぇコラ殺すぞ!?」
「おいおい嘘だよやめろって!お前のその"筋力"で殴られたらマジで死にそうだから!!」
どうやら勇者なる職業もあるらしい。ラノベで言うと完全に主人公枠だ。遠目から見てもステータスがおかしい。一人だけ全てのステータスが1000を越えてる。
え?いやいや待ってよ。レベルとかステータスって最初はみんな1からじゃ無いの?と胸騒ぎがした。
だが、その相模少年への注目は、こちらにとっては好都合でもあった。
できれば誰もこちらに気づかないうちに、この時間が過ぎてくれれば…。
しかしそんな願いは、当然のごとく打ち砕かれる。彼等のうちの一人が気づいた。
「おい…おい。あれ、見てみろよ」
その言葉は、俺の人生で聞き慣れた物だった。
学生時代から始まり、成人してから十五年も経った今でも向けられる言葉。
「はぁ!?なんだあれ!?」
「"ゲーマー"!?なんだあの職業!?」
「お前の"曲芸師"よりひでぇじゃねぇか」
「オイヤメロ!比べんじゃねぇよ!そもそもスキルだけじゃなくて、ステータスもどう見ても最低値だろ!全部1だぞ!?」
「だな。ほら見てみろよ。俺等全員レベル50はあるんだぜ?ステータスも大体500前後だしよ。そんな中で全ステータス"1"って。詰んだな」
「み、みんな!そんな風に言うの良くないよ…!」
「やっぱり九条さんは優しいね〜」
「マジ天使」
「うちのクラス唯一の良心だからな」
「「「確かに」」」
突き刺さる中傷と視線が痛い。
そんな中でただ一人、気を遣ってくれる美少女もいるにはいた。ただ、美人に味方してもらった所で、立場が良くなることは無い。それは過去に何度も経験済みだ。
「あらあら。貴方は一体…?」
そこで可憐に響く声。女神だ。
勇気を出して、初めて声を上げた。
「あの…すみません!どうやら僕はたまたま彼等に巻き込まれてしまったみたいで…。ステータスも僕だけ少し違う気がするんですが…。もしかして何かの間違いですか?」
女神は不思議そうに頭を傾げた。可愛い。
じゃないじゃない。ここははっきりさせとかないと、今後に関わる事だ。美人にはめっぽう弱い、と言うか普段では返事を返す事自体ままならないが、ここで引いたら終わる。
そして数秒の沈黙の後、女神ははっきりと言い切った。
「巻き込まれたのは本当の様ですね?ただ、あなたのステータスは間違いではありません」
「と、言うことは…?」
女神がニッコリする。
「はい、あなたの職業は"ゲーマー"です」
詰んだ…。
*
時は少し遡る。
いわゆる"どうしてこうなったのか思い返してみる"。と言うやつだ。まずは自己紹介からいこう。
名前は鏡 柊哉。
年齢は35歳。職業、カラオケ店バイト。趣味はゲーム。たまにラノベ。体型は肥満気味で顔は下の上。だと思う。もちろん自称だが。とりあえず、生まれてから一度でもかっこいいとかイケメンとは言われたことのないタイプの人間である事は間違いない。
特技は好きなゲームとラノベには熱中できる事くらい。
ゲームとラノベの為なら三食全てカ○リーメイトでもオッケー。
実際にはカップラーメンや菓子ばっかり食ってるのと運動不足のせいで肥満体型に陥っている訳ではあるけど。
さぁ、軽く自己紹介が済んだ所で"今日"の話をしよう。
その日は朝からいつもと変わらない一日だったと思う。朝起きるのは珍しく遅かった。確か10時頃。
普段から睡眠時間を削っているため、夢はあまり見ない方だ。そのため寝起きは得意ではないが、ゲームのためなら話は別。
目が覚めると立ち上がるよりも先にPCの電源を付け、PCの起動中に飲み物、そして朝食代わりのポテチを引っ張り出す。
もちろん、最近のPCの立ち上がりはSSDのおかげでめちゃくちゃ速い。
少しでもポテチの袋を開けるのに手間取ったらもうPCはデスクトップ画面になっている。
「さぁてと、ゲームスタート。っと」
そんな掛け声と共に、ここ一年ほどずっとハマっているMMORPGのランチャーを起動して、IDとパスワードを打ち込んでプレイボタンをクリックしたら、もうそこは異世界だ。
「ういーっす」
ログインと共にボイスチャットで声をかければ、
「あ、おはようございます〜」
「おはざま〜」
「あれ?シュウさん、今日は早いすね?いつもは昼過ぎなのに」
「昨日夜勤だったからね。朝5時に帰ってきて今起きたんだよ」
「あぁ、せやから昨日の夜入ってけぇへんかったんやね。いっつも明け方までやってるシュウさんがおらんかったからついに不摂生で死んだんちゃうか心配しててん」
と、フレンド達からボイスチャットで挨拶が返ってくる。
もちろん今日は平日だが、平日の朝からログインしてる様な連中はいる。もちろん全体から見ると数は少ないが、そういう連中はそういう連中で友達になっていくものだ。
そこからは、ぶっ続けで夕方までゲームをした。
昼食という昼食も挟まず、合間にお菓子と炭酸飲料をつまみながら、レイドボスのドロップ品を目的に周回プレイしまくった。
狙うはアクセサリーのドロップ。STRをたった+3上げるために、半日を費やしてしまった。かなり時間はかかったが、なんとか手に入れた。こういう時の達成感と、時間を浪費した罪悪感は何とも言えない。
「ちょっと夕食買ってくるわ」
「いてら〜」
「どれくらいで戻ってくる?」
「ん〜、20分くらいかな。二、三回行っといて良いよ」
フレンドには夕食と言いながら、お菓子やカップラーメンを買いに行くのだが、ゲームしている間は腹が満たせれば何でも良いのだ。
そして着替えもそこそこに、家を出て近くのコンビニに向かった。
俺が住んでいるのは少し古めのアパートだ。
親と離れて住んでいるのは、ちゃんとした職につかないのを咎められたくないからで、自立心からではない。
収入はバイト代だけだが、ゲームが出来て、最低限の生活ができれば今のところ幸せだ。
もうすぐコンビニと言う所で、高校生の集団と出くわした。数は十人くらい。
先生っぽい人はいない。にしてはやけに人数が多いな。ん?あぁ、そういえば今日はあそこの高校が学園祭か。クラスのカースト上位だけで打ち上げとかそんなだろう。
これは方向的に駅前のカラオケかファミレスだな。
そんなどうでもいい推測を挟みながら、立ち止まってその集団が通り過ぎるのを待つことにする。
もちろん俺が学生時代には、そんな会に誘われた事はない。
別に羨ましくなんかない。その集団にすごい美少女がいたとしたって、羨ましくなんか絶対にない。
「あぁ!?おっさん、何見てんだコラ?」
そんなことを考えていたからか、まさか声を掛けられるとは、露ほども思っていなかった。
「え…?いや、別に見ては…」
「嘘つくなコラ。てめぇ九条の事変な目で見てただろォが」
「え、ヤバっ」
「もしかして、ストーカー!?」
「ちょっと待ってみんな、そんな訳ないよ。早く行こうよ」
「待てよ九条。こいつストーカーだったら痛い目合わせとかねぇと危ねぇぜ」
いやいやちょっと待てって!なんて急展開でストーカーにされてんの!?
「ちょっと待って下さいよ!そもそも変な目でなんて見てないですよ!?」
何故か半分以上歳下の子達相手に敬語になる俺氏。背に腹はかえられぬ。
「どう見ても九条見てただろォがよ!!!てめぇストーカーか?あ?ああん!?」
ああん!?って。そんな脅し方リアルで初めて見た。
「てめぇ何ニヤついてんだコラ!!!」
「もうやめなって相模!」
急に胸ぐらを掴まれた…!
顔に出てたまずい。咄嗟に両手を見せて無抵抗の意志を示すが、なんか今にも殴られそうだ。何でこんなことに…!さっきまでレイドボスをボコってたのに、急に今度はボコられる側になりそうだ。
「ちょっ!ちょっと待って下さいよ!誤解です誤解!別にそこの子に会ったのはこれが初めてですし!ストーカーじゃ絶対ないですよ!さっき見てたのは、学園祭の打ち上げかなぁとか、皆さん青春してそうでいいなぁって思ってただけで」
「余計なお世話なんだよ!!!」
あ、だめだこの人。頭に血が昇ってるのか、それともクラスメイトを前にして振り上げた拳をどうしようか迷ってるのか。
だ、誰か助けて…。
そんな助けを心の中で叫んだ時だった。
ガァン!!!!!!!
その音にその場にいた全員が振り向く。
すぐ数メートル先で、トラックがこっちを向いてガードレールにぶつかっていた。
いや、そんなに急いで助けに来てくれなくても。普通に車停めてから来てくれたら。
そんな見当違いな感想が頭をよぎったが、数瞬後にはトラックがガードレールを突き破り、全く止まっていなかった事を理解する。
それが大型トラックではなくタンクローリーみたいな車だと気付いたが、それが分かった所で事態は全く好転しない。
タンクローリーが容赦なく突っ込んでくる。
これは死んだ。絶対死ぬ。
せっかくSTRが+3されたのに…。
そんなクソみたいな遺言を遺しそうになる寸前。
世界が光に包まれた。
タンクローリーで埋め尽くされた世界が、一瞬で切り替わる。
「え」
唯一。誰かの口からようやく漏れ出したその一文字が、全員の気持ちを代弁していた。