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Summer Snow  作者: 悠月 星花


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26/30

僕だって何かできるのならしたいんだよ

 カブレラの音楽隊は、完璧な演奏をした。会場はこのオケと一体化し、聞いている全ての者と心を重ねられたのではないだろうか? 緋月は、自分の心がとても満たされていることに、今持てる全ての力を出し切れたと、ホッとしている。

 客席を見ると、手が痛くならないだろうか? と思えるほと、響は叩いている。それも、嬉しい要因だった。


「緋月くん」


 名を呼ばれ、カブレラの方を見ると、かなりご満悦な表情をしており、ピアノ指揮が成功したことを示している。緋月は、椅子から立ち上がり、カブレラをきつく抱きしめた。ステージ上だったにも関わらず、衝動にかられたのだ。


「素晴らしい演奏をありがとう! カブレラ」

「こちらこそだよ。今回の演奏会、キミに任せてよかった!」


 二人で、この演奏会の成功に、「ホッとした」と耳元で囁き合う。カブレラも新しい試みだったし、緊張もしていたようだ。安堵感が二人の間の絆へと変わっていく。

 演奏が終われば、次の演者のためにステージを移動しないといけない。ピアノは、会場設備の学生が片付けてくれるので、一礼してステージを去った。

 ひとしきり、オケのみなで、今日の成功を喜び合ったあと、緋月は響や光希の元へ急ぐ。


「外で待っている」


 そう言っていたので、ホールへ向かったが、その場には、誰もいなかった。まだ、会場にいるのかと思い、中に入っていく。ステージから見えていた場所まで急ぐと、その場には、すでに違う人が座っていて、別の演者の演奏を楽しんでいた。


 ……どこに行ったんだろう?


 緋月は、なんだか胸騒ぎがしたが、光希と連絡をとって、なんとか確かめるしかない。再度ホールへ出ていくと、そこには、スーツを着た女性が、緋月を探していたようだ。


「あっ、待ってください。あなたが、緋月さんですよね! あの……私、広瀬といいます。こういうものですが……」


 名刺を渡されたが、今はそれどころではない。ただ、これから先のことを考えたとき、邪険にすることもできず、「連絡を1つだけさせてください」とことわり、少しだけ待ってもらうことにした。


「……どこにいるんだ? 光希」


 電話をしたが、繋がらなず、返信をしてほしいとメッセージを送っておいた。響に何かあったのかもしれないという焦りがあるが、今の緋月に何かできることもなく、連絡を待つことしかできない。


「お待たせしました。日本の方ですか?」

「えぇ、日本人ですが、会社はこちらにあります。今、演者を探していまして……」

「演者って……?」

「演奏者ですね。ピアノを始め、楽器、声楽……。いわゆる、音楽に関わる人をスカウトしています」

「それで、僕に声を?」

「えぇ、あなたの演奏を聞いて、素晴らしいと! 元々SNSで見たときから、声をかけたいと思っていたのです。一度、ゆっくりとお話をしませんか?」

「……友人からの連絡が来るまでなら、大丈夫ですけど」


 少し離れた学内にある人気の少ないカフェテリアへと移動した。なるべく人を避けて生活をしているので、こういう場所はたくさん知っている。


「静かな場所ですね?」

「……そうですね。それで?」

「ピアノ演奏で、CDを出したりすることに興味はありませんか?」

「……そうですね。僕にそこまでの力があるとは思えませんが……、コンテストで優秀な成績があれば別だと思いますが」

「そういったものには、もうでないのですか?」

「……今は、まだ、考えています。復学をしたばかりなので……もし、コンテストに出るのであれば、それなりに準備もひつようですから」

「あんなに素晴らしい演奏をされるのにですか?」


 緋月は苦笑いをした。広瀬は、その笑顔に何を感じたのかはわからないが、「一度、会社へ来てみてください」と、販売元として作成しているCDを渡された。それは、よく聞いていたCDだったので、緋月はとても驚いた。


「このCDって……」

「あっ、うちで作っているんですよ。大手ではないので、制限はありますが、世界中で聞かれていますよね。私も、このCDをきっかけに、この会社への就職を希望したので。いつか、このCDを超えるような演奏者と一緒に作り上げたいを思っています」


 ニコリと笑う広瀬。緋月の可能性を疑っていませんという妙な信頼を向けられ、反応に困っていると、光希が「戻ってきた」と連絡をくれた。


「お忙しいのに、時間をいただいて……」

「……よかったら、友人を呼んでもいいでしょうか?」

「えっ? でも、急がれているのでは?」


 光希からの連絡で、『響とは面会謝絶になった』の一文があったので、緋月にできることはないことを知ったら、今は、広瀬の話をゆっくり聞きたいと思った。

 しばらくすると、光希がカフェテリアへやってくる。その間、緋月の今の状況についての話をしていた。


「ごめん、邪魔した?」

「そうじゃなくて……こちら、広瀬さん。音楽関係の仕事をしているんだ。話を聞いていて……」

「それどころじゃないだろう?」

「面会謝絶になったら、僕にできることはないよ。少しでも響に、僕の音楽を届けることしかないんだ」


 光希を見ながら、「僕だって何かできるのならしたいんだよ」とだけ呟いた。

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