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恋する乙女の思考回路

 駆けてくる存在に気づき、攻撃的に飛びかかってくるピシスをまずは二匹まとめて横なぎに。 

それから回転させた刃で近くにいた個体を上から両断する。

 更に迫ってきたピシスをそのまま返す勢いで下から斬りあげて、刀身で円を描く。

 無駄のない動作で解体された魔物が十匹近く切り身になって、砂に着地する前に灰のように消えていった。

 驚くほどの速さと、あまりにも手慣れた様子。後方で見守るキアラは思わずポカンと見入ってしまった。

 魔物と呼ばれる生物には心臓のような核があり、それを破壊することで完全に消滅させることができる。

 事前にクロウからそう聞いていたけれど、実際目の当たりにすると驚愕で声も出ない。

 刹那の隙に、いつの間にかさっきよりも大きなピシスがそばに寄っていた。

 グロテスクなぎらつく塊が飛びかかってくるのを感知しても、とっさに対応はできなかった。

風の刃を生成しようとしても焦る頭では正確に術式を紡げない。

(間に合わない!)

血の気が引いた瞬間、飛んできた魔物は目の前で切り身になって消滅する。

「気をつけて」

「兄さん……!」

 いつも通り無愛想な表情なのに、声には焦りが含まれていた。

 すぐに駆けつけてくれたクロウに現況も忘れ、キアラの胸は痛いほどのときめきで満たされていく。

 (格好いい! 王子様? 騎士様? 兄さんが格好よすぎてつらい……!)

 一瞬で恋愛脳に振り切るのはキアラの特性だった。

 突然、恋する乙女モードに切り替わったおかげで魔物の気持ち悪さも、数の多さも全く気にならない。

 急激に落ち着いたキアラはレオの厳しい指導を思い浮かべて、頭の中で術式を組み立てた。

 とりあえず自分の周りにかまいたち状の風をいくつか並べ、クロウにだけ集中する。

 突然の変わりようにはクロウも驚いているようだ。

 キアラのサポートが安定したおかげで、鋭い鱗や牙で負った傷がみるみるうちに消えてゆく。

 

 複数の魔物たちが砂中や空中をまるで泳ぐように向かえど、剣技一筋で積み上げてきたクロウは強い。

 どれだけ攻撃に出ても器用に致命傷をかわすクロウにキアラが回復を施し、合間をすり抜けるピシスは風で切り刻んで援護する。

 初めて組んだとは思えない連帯感により、最後の一匹を地に沈めるまでそれほど時間はかからなかった。

 

 それでも砂浜という足場の悪さと日差しで、自覚していた以上に体力は削られてしまったようだ。

 全てを消滅させる頃にはキアラは立ち上がることが出来ず、少し躊躇したクロウに抱かれて木陰に降ろされる。

 たくましい腕は意外なくらい優しくて、暑さにかすむキアラの頭は余計にくらくらした。

 

「あ、りがと……。兄さんすごい……、体力あるね」

「毎年のことだから。魔法で暑さを軽減していても、あんなところで座り込んでたら熱中症になる」

 

 そう言って腰を下ろしたクロウは荷物から水筒を取り出し、一つをキアラに渡す。

 回復魔法を自身に施せば、怠さは少しマシになった。

 さきほどより疲労が軽減したキアラは、隣に座って水を飲むクロウをチラチラと盗み見しながら水筒に口をつける。

 

(兄さん格好よすぎてやばい……。めちゃくちゃ強いし、戦ってるところ初めて見たけど剣士って格好よすぎない? 鍛錬中も格好よかったけど! これはひいき目だから? 汗も血も息の乱れ具合も、めちゃくちゃ絵になるですけど、水飲んでるだけなのに格好いいんですけど、なにしても格好いいんですけど。来てよかった! 本当に来てよかった!)

 

 恋する乙女の思考回路はどんな時も強い。

 初見でグロテクスさに恐怖した魔物の事など、とうに記憶から薄れている。

 血に濡れた兄さんも素敵。なんて恐ろしく危険な思考に辿り着いてからクロウの顔や腕にある傷に、やっと気がついた。

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