私もつれていって
「クロウに話って、一緒にラメールに行くことだよね?」
レオの言葉にキアラは小さく頷く。
相変わらず目を見てくれないクロウは否定も肯定もしない。
そっけない態度は昔から変わらないままだ。
そもそも感情表現が豊かでない彼の表情はいつも無に等しかったりする。
「えっと……、無理にとは言わないけど……。でも連れて行ってくれると嬉しいな。私、兄さんの役に立ちたくて魔法の勉強を頑張ってるんだよ」
恥ずかしいから内緒にしてたんだけど、と笑顔を作りながらも、声はたどたどしくなってしまった。
緊張で胸が張り裂けそうだ。
クロウの返事が怖い。兄がすんなり頷いてくれるとは思えないから。
それでも、どうしても一緒に行きたかった。
表向きは兄妹といえど、義理の関係だ。できることならもっと近づきたい。
それに、知らないクロウの姿を見てみたかった。
毎年、兄がラメールへ行くのを密かに楽しみにしているのは知っている。
もしそこに大切な人がいるのならば、きちんと現実を受け止めたいとも思った。
今のままでは報われない想いがくすぶるばかりで前にも後ろにも進めないから。
どうにかこの状況を変えてしまいたい。そのために厳しい魔法の特訓に耐えてきたのだ。
クロウに同行できるくらいの魔法を習得したいと過保護な養父母に相談すると、二人はもちろん反対した。
だけどキアラの決心は変わらなく、何度目かの交渉で了承を得ることが出来たのだった。
サアレは渋々といった様子だったけれど。僕が教えるよ、と頼もしく笑った父は魔力もセンスも常人ではなく、希少な光魔法のエキスパートであった。彼は主に回復や結界を得意としている。
それに加えて魔法式の仕組みを完全に把握しているレオは、他属性の式も組み立てることができるのだ。
実際教わってみるとその能力には驚くばかりで、新たな父の一面はキアラに尊敬の念を抱かせた。
聖剣を意のままに操る勇者ということは承知していたが、魔導士としても一流だなんてはじめて知った。
レオが今でも人々に頼りにされ、慕われている理由を改めて納得したほどである。
そんな父が師となってくれたことは幸運だった。
キアラは攻守のバランスが良い風の魔力に長けているが、過保護な育て親のおかげでこの六年近く大切に守られ、ぬくぬくと育ってきた。使用できるのは小さな傷を治せる程度の回復魔法くらい。
だけどここ一年、クロウに内緒でレオのスパルタ指導を受け、過酷な修行の日々を過ごしてきた。
それはもう普段温厚なレオからは想像も出来ない程の鬼教官ぶりに怯えつつ、癒しの力の精度を高めた。
もっと一緒にいたい、必要として欲しい。ただその一心で乗り切ってきたのだ。
魔法を見たクロウに、せひ一緒に来て欲しい、力を貸して欲しい、と快諾してほしい。
そしてあわよくば、せめて魔法だけでも「君がいないとダメなんだ」なんて言われたいというのがキアラの最大の目的だった。
堂々と隣に立てる理由が欲しい。
しかし、頑張りが実力に反映されているのかと問われればいまいち自信はなかった。
クロウは実践で鍛えられた剣士だ。
たった一年の練習で彼の求めるレベルに到達できているのか、それはキアラにはわからない。
がっかりされたらどうしよう。
そんな渦巻く不安を極力出さないよう、もう一度「役に立つから連れて行って」とクロウに笑いかけてみる。
すると横で見ていたレオがキアラの細い肩を抱き寄せた。そこに鬼教官の面影は微塵もない。
「キアラの魔法は上級魔導士にも負けないよ。なんと言ってもこの僕直伝だからね! 自信を持って」
「父さん……」
肩を抱く力強い腕は頼もしい。レオに言われると根拠のない自信が湧き出てくるようだ。
「クロウもきっとびっくりするよ。それともクロウは、僕の指導を信用できないのかな?」
キアラの視界の端で、矛先を向けられたクロウの肩がびくりと跳ね上がった。
「いや、そんなことはないけど……」
レオは笑顔を浮かべているのに威圧感が半端ない。経験上、逆らうと面倒なことになるのは明確だ。
思った通りクロウは父の笑顔に怯んでいる。
あと一押し。レオの存在に励まされ、キアラは握りしめた手にぐっと力を込めた。
「兄さん。私、足手まといにならないから、どうしても連れて行ってほしいの。お願い!」
今はレオの指導と、それを耐え抜いた自分を信じよう。そう強く決意した。
それによくよく考えれば、兎にも角にもついて行ってしまえばあとはきっとどうにでもなる。
クロウは優しくないけど、必要な時にはいつも助けてくれる。
それに、ひとつの目標に向かうことで今よりずっと気持ちが分かり合えるはずだ。
あとは出発の日まで更なるスパルタを耐え抜けば、きっと大丈夫。
感情に素直なので落ち込むことも多いキアラだけど、思い込みの激しさも相まって、大丈夫と信じれば不安よりも何とかなる気が勝利した。
どれだけ冷たい視線を向けても折れない妹と、有無を言わさない父にクロウが勝てるはずもない。
この夏は兄妹仲良く海へ向かう事が決定したのだった。




