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【全年齢版】魔族で魔眼な妹は勇者な兄とおつき合いしたい!  作者: ドゴイエちまき


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【番外編】勇者な兄とお付き合いしました⑥

 そこにあるのは見慣れた無表情ではなく、見たことないほど優しい顔だったから。

 驚くキアラはなにも言えず、ぽかんとクロウを見つめることしか出来ないでいた。

 クロウの手がそっと髪飾りに触れる。

 キアラの桜色の髪によく映えるペリドットの飾りは大切な宝物だ。

 彼は滑らかな長い髪を梳いて持ち上げ、艶やかな一房に口付ける。

 それはあまりにも色気のある仕草で、ごきげんにはしゃいだキアラとしては、自分がやけに幼く感じてしまった。

 じわじわと恥ずかしさが込み上げ、顔を覆ったキアラは背を向ける。


「何?」

「だって私、すごく子どもっぽくて……。クロウはいつでも素敵なのに」


 本音で言ったのだがクロウは小さく吹き出した。

 思わず振り向くと、珍しく肩を震わせて笑いを堪えている。

 これもまた珍しいことだった。キアラはついまじまじと見つめてしまう。

 

「そんなふうに言うのキアラだけだって」

「そんなことないよ! 知らないだけだよ! クロウはいつでも格好良くて、何でも出来て、本当はすごく優しいし……、大好き」


 ついぽろりと溢れたキアラの言葉にクロウがぴたりと止まる。

 それから数秒キアラを見つめて、自分の額に手を当てた。

 悩むような仕草に一瞬悲しくなったキアラだったが、痛いほど強く抱きしめられて、物理的にも精神的にも呼吸が詰まってしまう。

 小柄なキアラが苦しいと声を上げようとするとくちびるを塞がれて、軽いキスが何度か繰り返された。


「……やっぱりダメだ。可愛すぎる」

「ど、どうしたの?」

「たくさん傷つけて、本当にごめん。キアラに嫌われたら僕は生きていけない」

「おおげさだよ」

 

 いつも抑揚のない声がやけに悲しそうに聞こえる。こんな声も初めて聞くかもしれない。

 思わずキアラは自分よりずっと大きなクロウをぎゅっと抱きしめ返す。

 

「あのね。クロウのこと、嫌いになんて絶対にならないから」


 自分でもわからないけど、これだけは断言できる。

 いつの間にか心に深く根付いてしまった恋心はキアラにとって、もはや呼吸と同じくらい切り離せないものだ。


「だってこんなに大好きなんだもの」


 少し照れくさくもあるけれど、ちゃんとクロウに届くようはっきりと声にする。

 クロウは強く抱きしめるだけでなにも言わない。

 でもとくんとくんと響く鼓動も、キアラより少し高い体温も、しっかり抱く腕も、すべてが愛しさを伝えてくれる。

 それにクロウが言葉を口にすることが苦手なのはイヤというほど知っているし、これが特別な優しさということもわかる。

 だからなにも答えてくれなくていい。

 

 目を閉じて大好きな彼の匂いに胸をときめかせていると、気付けば花火の音が響き出した。

 窓の外に顔を向けると、色鮮やかな大輪が黒い夜空に花開いている。

 鮮烈に開く赤や青。やわらかな黄色や緑。

 手を伸ばせば届きそうな気がして、思わず窓へと指が伸びた。

 大きな音に遅れて浮かんでは消える光の玉は、次々に色彩を変えて空一面を煌めかせる。

 

「わぁ、綺麗……」

「ああ、最高に綺麗だ。キアラと一緒に見ているからかもな」

「そ、そういうとこだって……」

 

 口下手なくせに口説き文句だけはさらりと出る。

 どこまでも無自覚なクロウは「何が?」とまた不思議そうな顔をした。

 彼にはきっと一生勝てない。キアラはとっさに浮かんだ心の声にくすりと笑ってしまった。

 報われることなんてないと思っていたのに。今ではこれから先の、まだまだ長い生涯を共に過ごせる確信がある。

 花火を見つめるクロウの顔は満ち足りているように思えて、キアラも再び夜空へ視線を移した。

 

 色とりどりの雫を散らしながら開いては残像を残して、儚く消える大輪。

 その繊細な美しさに思わず吐息をこぼして見惚れてしまう。

 花火を見るのは初めてではないけれど、こうやって二人で一緒に見るのは初めてだった。

 今までで一番鮮やかに見えるのは、クロウの言うとおり一緒に見る景色だからかもしれない。

 

 ずっと好きで、そもそも諦め方なんてわからなかったけど……。

 わき目もふらず好きでいて良かった。

 キアラが想いを込めてもう一度「大好き」と告げると、切れ長の目が一瞬大きく見開かれる。

 それからクロウは嬉しそうに微笑むから胸がじんと熱くなって、つい泣きそうになってしまった。

 胸にぴたりと耳を寄せれば、薄いシャツ越しに心地良い鼓動が聞こえる。

 

 これは今年きりの夏ではなく、この先もずっと同じ景色を見ることができる。

 溢れ出す幸福感を噛み締めながら、キアラは舞い落ちる花火をしっかりと胸に焼き付けた。

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