【番外編】勇者な兄とお付き合いしました②
「お前なぁ、少しは周りの目を考えろよ」
「そっちこそ、気を利かせろ」
対してクロウは平気な顔でバルコニー下から振られる手や揶揄う声に、いつもの無感動な顔で応えている。恐ろしいメンタルである。
「まあいいや。そろそろ準備も終わるし、食べに行こうぜ」
クロウとキアラの肩を左右の腕でがしっと組んだケイに連れられて、準備の整った会場へと到着する。
祭りは町長の挨拶から始まり、なぜかクロウも挨拶をする流れになった。
口下手で面倒くさがりなクロウは大層嫌がったが、結局逃れることはできなかった。
特に大したことは言わなかったのにみんなからやたらと賛辞をもらい、乾杯の音頭を合図に好き好きに食事が始まった。
「賑やかだね」
「だから騒ぎたいだけだって言っただろ」
ちょうど時刻は昼時。
お腹が空いていたこともあり、ところ狭しと並ぶ色鮮やかな料理に食欲を刺激される。二人は宿のバルコニーにあるテーブルで、大人しく海の幸を堪能する事にした。
ほとんどの人は街の中心に集っているので、他に誰も見当たらない。
塩焼きした巨大な海老を両手で持って、キアラはもそもそ食べ始める。
こんなに大きな海老はラメールに来るまで見たことがなかった。
ぷりぷりと締まった身もおいしく、大好きな食材だ。
無言で食べる様子を見たクロウは少しおかしそうな目をして、親指でキアラの頬に付いた欠片を拭う。
そうして何の躊躇もなく、その指を自分の口元に持っていく。
ぺろりと親指を舐める仕草は色っぽい。
つい釘付けになったキアラは口内に残る大きな身をごくりと飲み込んでしまい、慌てて水で流し込んだ。
昨日想いを伝え合ってからというもの、この短時間でクロウの様子があまりにも変わり過ぎている。おかげでキアラの頭も心臓も追いつかない。
何をするにもキアラを気にするし、隙あらばすぐに触れて、前触れなく甘噛みしたりキスをしてくる。
しかもその触れる手は驚くほど優しくて、少し触れられるだけで頭が溶けそうになってしまう。
昨夜だって抱き枕にされたおかげでなかなか眠ることができなかった。
当のクロウは憎たらしいほどすぐに寝ついてしまったのだけど。
「また見てる」
視線に気づいたクロウはキアラの肩を引き寄せる。
こつんと額を合わされ、何が起きているのか一瞬わからなかった。
そのまま薄いくちびるが近付いて、完全に触れるまであと少しのところで外野から声を掛けられた。
「だからここ外なんですけど」
突然の第三者の声にキアラが慌てて顔を離すと、海鮮串とカゴを持つケイが半ば閉じた目ですぐ後ろに立っている。
まったく気づかなかった。
声にならない叫びを上げて恥ずかしさに悶絶するキアラの横で、メンタル強者のクロウが友人に向かって舌打ちをする。
「そんな顔すんなよ。アドバイスもして、応援した俺のおかげだろ。ほんとお前は冷たいよなぁ」
クロウの隣に腰を下ろしたケイは手に持っていた串をそれぞれ一本ずつ、さらにカゴから取り出した瓶を手渡してくれた。
クロウが瓶を開けると炭酸の音が弾けたので、キアラとは違う飲み物なんだろう。
「そうだな。お前のおかげで吹っ切れたし感謝はしてる。でも邪魔はするな」
「酷い……何の感謝も伝わってこねえ」
ケイの言葉にクロウは「心外だな」と答え、串にかじりつく。
「感謝はして……。これ、やけに塩辛いな」
「そう? おいしいよ」
同じように食べるキアラは首を傾げた。
決して辛すぎず、むしろ絶妙な塩のおかげで貝が甘く感じるからだ。
「俺のも普通にうまい。きっとあれだな、俺を雑に扱う罰が当たったんだろ」
「お前の雑さよりマシだ」
ケイは面白そうに笑い、不服そうなクロウは渡された炭酸の飲料で一気に流し込む。
その姿をケイがやたらと楽しそうに眺めていて、キアラはつい微笑ましくなってしまった。




