兄妹なかよく
穏やかで優しい日差しが、じりじりと焦がすような熱に移り出した頃。
青々とした空に浮かぶ大きな雲を見上げ、そういえばそろそろだな……と、クロウは額に浮かぶ汗を雑に拭った。
毎年夏を過ごす海沿いのラメールは大きく栄えた街で、森に囲まれた静かな地で過ごす身としては良い気分転換でもあった。
「クロウ、今年はキアラも連れて行きなさい」
不意に名を呼ばれて振り向くと、爽やかに笑う父レオがそんな事を言い出した。
勇者として名高いレオは人懐っこい栗色の瞳と明るい茶色の髪をした、よく笑う太陽のような男だ。
しかも笑顔を絶やさない余裕ある雰囲気や、そこにいるだけで周りを明るくさせる父はやたらと人を惹きつける魅力を持つ。
カリスマ性とはこういう性質を指すのだろう。
レオはクロウにとって尊敬の対象でもあり、頭が上がらない人物である。
大抵の事は笑顔でゴリ押してくる父に嫌な予感がして、つい身構えてしまった。
夏の始めと、中頃あたり。毎年ラメールに決まって二種の魔物が発生する。
初夏にどこからか発生する魔物はそこまで強くはないが、なんせ一度に湧く数が多い。
腕に自信がない者からするとそれだけで脅威となるものだ。
それに、放置して住み着いてしまえば人が踏み入れられない場所になってしまう。
遅れて発生するもう一種の魔物は少し厄介で、確実に駆除しておかないとかなり危険な魔物になる。
短期間で何度も移動するのが面倒な距離にあるし、裕福な町なので報酬も待遇も良い。
聖剣を父から譲り受けた十五の誕生日からはや五年。
毎年の恒例行事も一緒に譲り受け、クロウは今年も例年通り一人で出向くつもりだった。
なのに妹を連れて行けとはどういうことだろう。父の提案にクロウは冷ややかな視線を返す。
「は? なんで?」
「なんでって……。キアラは魔法が使えるんだから、一緒に行った方が安心だよ。ひとりよりふたり!」
兄妹仲良く! 力を合わせて! そう言いながら背中を叩く父に、クロウは面倒極まりない目を向ける。どうやらこの父はまたなにか企んでいるらしい。
「いや、毎年一人でやってるけど、何の問題もないし……。むしろ足手まといというか……」
そもそもキアラと共に討伐へ出掛けたことなどない。
連携が取れるとは思えないし、慣れない戦闘に戸惑うであろう妹をかばいながら戦うのは非効率だ。
だけどレオは呆れた表情をする。
「クロウ、慢心はいけない。君は剣の腕は相当確かだけど、癒しの魔法が使えないじゃないか。キアラが行ってくれたほうが、僕もサアレも安心だよ。だから兄妹仲良く! ね?」
やたらと「兄妹仲良く」を強調されて、クロウはうんざりと顔を顰める。
おそらく妹であるキアラとの仲を取り持ちたいようだが、クロウにその気はなかった。
「別に、変に気をつかってくれなくても仲悪くはないよ。それにキアラはそこまで魔法が上手くないだろ」
娘に危ないことをさせたがらない養父母は実践的な魔法を妹に教えていないはずだ。おかげで妹は初歩的な回復魔法しか使えなかったように思う。
そもそも、両親そろってキアラに対しては引くほど過保護である。
討伐に連れて行けなどと言うこと自体、クロウには信じられないことだった。
あくまで拒否の姿勢を見せるとレオは悲しそうに笑った。
「なにも知らないの? ……もう少しキアラと話しても良いと、父さんは思うよ。ね、キアラもそう思うよね」
同意を求めるような大きめの声。
レオの視線の先。後ろを振り返ると、少し離れた場所でキアラが立ち尽くしていた。
「ごめんなさい、あの、兄さんに話が合って……。立ち聞きするつもりじゃなかったの」
気まずそうな顔をしたキアラは戸惑う足取りでこちらへと歩いてくる。
ふわりと揺れる細い桜色の髪。光の角度でチラチラと色味が変わる不思議な瞳。
彼女の持つ美しい色彩も相まって、可憐なキアラの容姿は人目を惹く。
今となってはなんの違和感もないけれど、どちらも人間にはあり得ない色だ。
母のことは尊敬しているが、魔族には関わりたくない。
なのにどうしてこの子は魔族なんだろう。
そう思うのは何度目だろうか。
見上げてくる若葉色の瞳から逃れるよう、クロウはつれなく視線を逸らした。




