レオの記憶
「なんだ? 話って」
わざわざ自分だけを呼んだ理由がわからず、サアレは机に肘をついてレオが話し出すのを待つ。
心なしか顔色が悪く、なかなか口を開こうとしない夫に彼女は一抹の不安を覚えている。
しかし待っていても埒があかない。
早くと目で訴えると、覚悟を決めたようにレオは一度目を瞑る。そして溜息と共に重い口を開いた。
「あのさ……。キアラから話を聞いてどう封印しようかな、って考えてたんだけど、なんか昔こういう封印したような気がして……。サアレ、クロウを身籠った時にすごく苦しかった時あった……よね?」
「ああ、あれは死ぬかと思った。正直あの頃の記憶は朦朧としているな……。ただ、ある日突然すごく楽になったのを覚えている」
突然昔の話を持ち出されて戸惑いながらもサアレは当時を振り返り思い出す。
医者に診てもらってもさっぱり原因がわからず、とりあえず安静にしておくしかなかった。
なのに本当にある日突然、急に苦しさが消えたのだ。
その前に酷い悪阻で苦しんでいたサアレは妊娠症状の一環だと認識して、世の母たちを尊敬したものだった。
妻が率直な感想を伝えると、なぜかレオの顔色が更に悪くなる。
「やっぱり……。でさ、あの当時なんだかんだ色々あったよね? まだ残党がいてさ、僕が拉致られたり、やばい薬盛られたり……」
「ああ、あれは最悪だった。まさかレオが拉致されるとは思いもしなかったからな」
国の中枢まで入り込み、それはもう軍も民間人をも巻き込んでひどい混乱を誘発した非人道的な組織。
それらと戦い、壊滅させたおかげで、レオはこの国の勇者として親しまれる事になった。しかし、その超人的な能力が敵側の残党に目をつけられてしまった。
最悪なことに、レオの細胞で人体兵器を作る計画が浮上したのだ。
奴らは生き残りの総力を上げて多勢に無勢の不意打ちを仕掛け、なんと拉致を成功させた事件がある。
きちんと警戒していればレオが負けることなどまずあり得ない。
だけどあの時はクロウが産まれる直前ですっかり平和ボケしていたし、まさか残党がいるとは思わなかった。完全に油断していたとしか言いようがない。
「サアレが軍に助けを求めてくれなかったらやばかったよね。前にも言ったけどさ、薬の影響だと思うんだけど、あの辺りの前後数年の記憶、覚えてないことも結構あって……。でも、さっきひとつだけ思い出した」
「良かったじゃないか」
サアレとしては素直な感想だった。
だがレオの顔色は悪くなる一方に見える。
「うん……。僕の思い違いじゃなければ、サアレがあまりにもつらそうでこのままじゃ死んじゃうんじゃないか、って無我夢中でさ……。もしかしたら魔族のサアレには僕の遺伝子にある、強すぎる光の魔力が毒なんじゃないかって……」
思いも寄らない推測に、サアレは何を言ってるんだと目を開く。
そんなこと、あるわけがない。
「まさか……。レオの回復魔法で苦しんだことはないけど……」
「多分、濃度と体内に留まる時間に関係するんじゃないかな。魔族って光の魔力を持ってる人いないし」
確かに光の魔力は人間にしかないものだ。
更に人間離れしたレオレベルの遺伝的な魔力になると、何か影響があるのかもしれない。
それはサアレも少し納得は出来る。だがある日突然、耐性が出来るなんてことはあるのだろうか。
そう考えていると、レオがものすごく言いにくそうに、視線を下に向けた。
「それで……、僕が……。お腹の、クロウの光の魔力を封印しました……!」




