父と娘
本気で剣を交え出した母と息子の手合わせはこの家ではよくあることだ。
キアラはハラハラした気持ちで、レオはまたやってるとばかりに、並んで見守ることにした。
「いつも思うけど、大怪我しないか心配だよ……」
「大丈夫。二人ともちゃんと、どこをどうやったら相手が死ぬかわかってるからね。致命傷や大事になるような場所は狙わないよ」
あっけらかんと言うレオに恐ろしさを感じつつ、キアラは母とクロウから離れた場所にある大きな切株に座って観戦している。
武器を振るわないキアラにとって二人の稽古は何度見ても慣れないものだった。
「楽しかった?」
「え? あ、うん。町の人もみんな優しくて、ご飯もおいしくて、本当に行ってよかった! 父さん、魔法の特訓してくれてありがとう。すごく感謝してるよ」
ふいにレオから話しかけられ、町人と仲良くなったことを報告する。
旅の話をするのは楽しく、思い出し笑う娘の姿に超絶過保護のレオの頬も緩んでいく。
真剣を交える師弟と同じ空間にいるとは思えないほのぼのとした父と娘は、しばらくお互いの近況を話していた。
しばらくして会話が途切れたあたり、ふと思い出したようにレオが尋ねる。
「そういえば予定よりずいぶん早く帰ってきたけど、何かあったのかい?」
「そうなの!」
ハッと思い出したキアラは立ち上がり、レオの手を両手で握った。
「父さん……もしかして、私の魔眼を封じることって出来る? その、魅了の力だけ……」
「それは視力を保ったまま魔力だけ封じるってことだよね。うーん……」
「そうだよね、まさかそんな都合の良いこと……」
少し考えるような仕草をしたレオを見て、キアラの期待は少しずつ落胆に染まる。
やっぱりそんなにうまくいくわけがない。けれどレオは穏やかに笑っている。
「多分、出来るよ」
「出来……、ええっ⁉」
得意げに胸を張るレオを、キアラは信じられない気持ちで眺めた。
ラメールでのクロウの提案は青天の霹靂だった。まさか本当に実現するなんて。
「本当に……?」
「まあね、だけど突然どうしたの? 何かあった?」
「あのね……」
優しい目で促されたキアラは、クロウに魔眼を使ってしまったこと、無意識だったのでこれからも使ってしまうかもしれないこと、しばらく誰の目を見るのも怖かったこと。
この夏にあったことを、俯いてぽつりぽつりとレオに打ち明ける。
どんな反応をされるのか少し怖くもあったけど、ちらりと見た父の目はいつも通り優しく温かい。
ゆっくり話終えると、「よく頑張ったね」とレオに肩を抱かれて、桜色の頭を撫でられた。
「ごめんね、キアラがそんなに悩んでいたなんて知らなかったよ。何かあった時に身を守れるようにと思ってたんだけど……。もう魔法も上手になったし、封印してしまおうか」
「うん……。うん!」
感激でこぼれる涙を手で拭いながら何度も頷く。
止めどない雫はレオが持っていたハンカチで拭ってくれた。
クロウが昔から言うように、父も母もキアラには相当甘い。それは自覚済みだ。
この家に迎えられて本当に良かったとキアラが顔を上げれば、なぜかレオは不穏な笑顔になっていた。
「そっかー……クロウはキアラが一番つらかった時に突き放したんだね。もし、そのままの状態で帰って来てたら、僕からも鉄拳指導するところだったよ」
ニコニコしながらも未だ剣を交えている息子を一瞥し、ぼそりと呟いたレオの目は笑っていない。
その視線は身震いするほど冷たく、キアラの体感温度が下がった気がした。
「父さん? 大丈夫だよ……? クロウは私のこと守ってくれたし、優しくしてくれるし、ね? ね?」
「あははー、キアラはいい子だねぇ」
ラメールでのことはそれはもう軽くオブラートに包んで、少し怒らせたと伝えただけだった。
この調子だと魔物に攫われたなんて言ったら、クロウがどんな教育的指導を受けるかわからない。
あの町であったことはこの先話さないでおこう。
細かく突っ込まれる前にキアラは話題を変えて、早くサアレの指導が終わることを願った。




