師弟
「父さん、そういうのいいから」
「うん、私もそう思う! クロウは格好良いし、可愛いの! まさに完璧だよ!」
自分より背の高い息子の頭を撫で回すレオをクロウが鬱陶しそうに払っていると、キアラが謎の援護をしてきた。
ねー、と父娘仲良く顔を見合わせてから、はたとレオとサアレが顔を見合わす。
「キアラ、兄さんじゃなくて名前で呼ぶようになったんだね」
「あ、そうなの……。えっとね」
ちらりと、キアラが少し照れたようにクロウを見上げたので、レオとサアレの視線もこちらへ向く。
全員の視線を集めたクロウは、微妙に気まずさと照れが混じって、つい目線をそらした。
「あー、うん。今更だけど、付き合うことになった……」
そうなの、とぴょんと腕に抱きついたキアラが嬉しそうな顔をしているので、自然とクロウの目元も緩んだ。
だけど反応がない両親が気になる。
見ると、明るい栗色の目に涙を浮かべたレオと、顔を引き攣らせたサアレが目に入った。
「予想はしていたけど、こうやってクロウの口から聞くと急に現実感が……。うっ、息子に娘を嫁がせるなんて複雑な気持ちだよ……。キアラを、よろしく……。お幸せに……。うぅっ……」
「レオ! 気が早い! キアラが不憫で同行を許したが……。まさか本当にこうなるとは……」
早くも未来を想像して涙ぐむレオの背中をさすり、どこか不本意な顔で宥めていたサアレがクロウに胡乱な目を向ける。
「お前……、まさかもう手を出していないだろうな」
「は?」
母の視線が恐ろしい。
この分だと想いを告げた初日にキスしましたなんて、とてもじゃないけど言えそうにない。
視線を彷徨わせた直後、クロウのすぐ側で風を切る鋭い音がした。
恐る恐る顔を正面に向けると、帯刀していた愛剣を構えたサアレが剣呑な笑みを浮かべている。
幼い頃は強い両親が自慢で憧れだった。けれど自ら剣を握り魔物退治を始めてからは、二人を化け物だと思っている。
「情けない……。何という不誠実さ。ちょうど良い、今日は久しぶりに足腰立たなくなるまで稽古を付けてやろう」
「ちょ、母さん落ち着いて……」
クロウが構えるのを待たずに振り下ろされるサアレの愛剣を、即座に抜刀した刃で受け止め、弾き返す。
顔色を変えず一旦後ろに飛んで間合いを取ったサアレが姿勢を低くして駆け、横に斬りかかる。
咄嗟にクロウが後方に飛び退くと、サアレはそのまま体を回転させて、また上から刃を振り下ろした。
「防戦一方か? 少しは成長したと思っていたのに、まだまだか」
じりじりと刃を受け止めていると、サアレがつまらないとでも言いたげな目を向ける。
僅かに苛立ったクロウは強い視線を返した。
「全力でお相手しますよ、師匠!」
宣言通り、全力で剣を振り払ってサアレとの距離を取り、次はクロウから踏み込んでいく。
久々に唯一の弟子から向けられる剣技をサアレは楽しそうに受けて流した。




